幼馴染が妄想力豊かだった件について(仮)
「これとこれとこれをお願いね。」
はるかは、どんどんと購買にあるものをかおるが持っているカゴに入れていく。そこにはもう六個ほど商品が入っていた。
「はるかお前、こんなに食べるのか?」
「部活の後に食べるものをあるからね。部活の後はお腹がすくのよ。まあ、帰宅部のあんたにはわからないと思うけど。」
「昼飯をおごるだけの約束じゃなかったっけ?」
「何よ。文句でもあるの? 毎日あんたの晩御飯を作っているのは誰よ?」
はるかは少林寺拳法部に入っている。なんでも、中学のときは個人の型で全国にまで行っていた。それもあり、彼女には逆らわないほうがいい。命がいくつあっても足りない。
「申し訳ない。」
はるかは満足したのか、会計よろしくといって購買の外にでていった。かおるが会計をしにいくと三千円近くのものを入れていたらしく、かおるの財布は空っぽになってしまった。かおるが次のお小遣いまで、しばらくは我慢だなと思って外に出ると、人だかりができていた。
「何かあったの?」
外にいたはるかに聞く。
「喧嘩よ。」
「喧嘩?」
この学校で喧嘩と聞いて思い当たる人物は一人しかいない。江良 昌樹だ。この学校のいわゆる不良というやつである。いつもは一人でいて、集団で群れるというよりは一匹狼な印象をもつ。かおるなどの小物には突っかかったりはしてこないが。集団で群れている派手な人とはよくいざこざを起こしていて、そのいざこざはこの学校の一般生徒からすると名物になっていた。だからこその人だかりである。
江良さんは一つ上の先輩で高校二年だが、停学を数回食らっているらしいというのは聞いた。なぜ退学にならないのかはよく知らない。
「今度は誰ともめてるの?」
「なんだったかしら、あのよく女連れの人よ。一年生で、あんたと同じクラスじゃなかったっけ?」
「もしかして、高岡?」
「ああ、それそれ。」
かおるは少し気になったがはるかが、興味がないというように人だかりを無視して行ってしまったので、仕方なくついていく。横を通るときにチラッと状況をみたが、高岡が江良さんにマウントを取られているところだった。もしかしたら、高岡が江良さんお女に手で手でも出したのかなとかおるは邪推な考えを起こしていた。
はるかとかおるの二人はいつもの中庭に行く。なぜははるかはいつも食事だけはかおると一緒に食べていた。かおるからすると、なぜなんだろうと不思議に思っていたが、いつも、食事中はかおるに小言と日ごろのストレスを言うので、ストレスの発散に使っているのかなと思っていた。
「さっきはよく聞けなかったけど、その腕どうしたのよ?」
恐れていたこと再びだ。さっきは、はるかが聞いてきたときに運よく彼女に話かけてくる人物がいてくれたので、そこから話題がそれてくれて助かったが、今回はそうはいかない。岡本と同じように言い訳してみるかと思い。口を開く。
「やけどしてさ・・・。」
「いつ?」
はるかが間髪いれずに聞いてくる。
「朝にさ、やかんで水をあっためようと思ってさ。それを使うときにうっかり腕にかけちゃって、それで。」
「家にやかんなんかあったっけ?」
かおるは、はっ! と思った。岡本相手ならともかく、一緒に住んでいるはるか相手にこの言い訳は通じない。なぜなら、かおるが普段キッチンに入らないことや、やかんなんてものを普段誰も使わないことを知っているし。そもそもやかんがちゃんとあるのかも、かおるは知らなかった。
「あった・・・・よ?」
「どこに? っていうか。なんで、そもそも水を沸騰させる必要があるのよ? 家にはティファールがあるでしょ?」
「どこだったかなあ? もう忘れちゃったよ。なんかさ、気分でしたくなったんだよ。そういうときあるだろう?」
「ない。」
それはそうだ。ないだろう。だってそもそも嘘なんだから、かおる自身もそんなことを思うことはない。どうするかと思い。とりあえず時間稼ぎをするために、飲み物を飲む。ゆっくり飲む。そのとき、はるかのほうから変な空気を感じたのをそちらを見る。はるかは目を見開いてこう言う。
「もしかして、中二病?」
かおるは飲み物を吐き出しそうになるがなんとかこらえる。しかしむせた。
「だって、特になにかあったわけでもないのに、腕に包帯をしているなんて、それしか考えられない。確かこの学校にもいたよね。全身に包帯を巻いている女の子が、あれと同じなんじゃないの? この腕の包帯を取ってしまうと世界を滅ぼす力があ! とか、この腕に封印されし黒竜力がなんとか! とか言い出すんじゃないでしょうね?」
こいつも大概妄想力が豊かだな。もしかしてそんな時期があったのか? 確かにこいつの部屋には中学以降入ったことがないなと思い。某アニメ的な展開を想像したが、そういえば幼馴染だ。いくらなんでも隠しきれまい。はるかには、ただ、そっち方面に強い友達でもいるんだろうということにしておいた。
一通りはるかの言葉が続いた。その間かおるは自分のむせを落ち着けていた。はるかが落ち着いたのを見計らって言う。
「誰にも言うなよ。」
はるかが、その言葉に神妙な顔になる。
「実は、この右手にはな。漆黒の力が宿っているんだ。」
その言葉を聞いて、はるかの顔がどんどん青ざめる。そして言う。
「マジか・・・・。」
かおるが、はるかからその言葉を聞いたのは長い付き合いで、そのときが初めてだった。
「後、ひとつ。お前そんなに食べると太るぞ。」
その瞬間、鉄拳が顔面に飛びこんできた。