やはり挨拶周りは大事な件について(仮)
「それで、本当に川口家が宮内家の土地を奪うことができるんだろうね?」
川口家党首、川口宗孝は、自身が座る無駄に大きな椅子に腰掛けたずねた。
「さあ、それはどうだかわからないよ。川口家のがんばり次第じゃないか?」
「ふん。まったく食えない男だ。それよりも、妙なうわさを聞いたんだがな」
「へえ、妙なうわさね。それどんなの?」
「君たちのトップが代わったといううわさだよ」
「ああ」
宗孝の対面して座っている男。
上野ともやは、特にその発言を気にすることなく机のあるコップを手に取った。
「代わったよ。いや、正確には引き継いだってとこだな」
「つまり、二代目ということか?」
「はは、流石極道の川口家、言い方がおもしろいな」
上野はニヤニヤと笑いながら、コップに口をつける。
「まあ、そんなところだな。二代目か、うん。それいいな」
「死んだなのか?」
それは前のトップ。梅本良太郎を示す言葉だ。
「ああ、俺たちの後を託してな」
「誰にやられた?」
「二代目」
「はは、それはなんともな話だな」
「ああ、だが心配する必要はねえよ。高岡もいい働きをしてくれてるだろ?」
上野はコップの中身を一気に口の中に入れ込んだ。
「ああ、彼はものすごく優秀だね。たまにド忘れが目立つが、まあそれくらいは勘弁してもいいくらい優秀だ。特に彼の武器に対する知識はぐんを抜いている」
川口家には異能力者が実は少ない。
それを埋めるために、川口家に派遣されたのが、武器製造に特化した高岡というわけだ。
彼の能力は、武器に対して新たな価値を与える能力。
たとえば、連射不可能な武器を連射可能にしたり、威力が足りないものを強化したりができる。
「それじゃ、今日はこのくらいで、明日楽しみにしてるぜ」
「ああ、これから君はどこに行くんだい?」
「ここと一緒さ、挨拶周りだよ」
それを聞いて宗孝はふっと笑った。
まったくこの男は本当に食えない。
あいさつ回りということは、他の土地の人間と接触するということだ。
つまり、彼らが懇意にしているのは川口家だけではないということである。
(まあ、そんなことは知っているだろうという前提で言ったんだろろうがな)
「神殺しを成し遂げるのはどこの家だと思う?」
「さあ、川口家であることを俺は望むよ」
「はは、それどこの土地の人間にも言うつもりだろ?」
その言葉に対する、上野の返答は下を軽く出したものだった。
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木藤家に向かうと、そこはいい意味で古びた屋敷だった。
どちらかといえば、これまでの土地の管理者の家は大層豪華なもので、正直圧倒されたものだ。
それに引き換え、ここは自然豊かでいいな。
上野は、最後の家の挨拶をするために、その家のインターホンを押した。
「はい」
中から機械的な音が聞こえてくる。
どうも、上野の思いとは反して、中はかなり機械仕掛けになっているようだ。
(人形使いの木藤家ね・・・)
上野は自動音声により、中に案内される。
上野が屋敷の中に入ると、屋敷の中はもぬけの殻だった。
そして、音声案内により、道を進むと、そこに地下に続く階段があり、降りるように言われる。
(なるほど、屋敷の外装はカムフラージュってことか)
上野は支持に従う。
木藤家は確かに、これまで挨拶をしてきたどの家よりも穏健派であり、戦争など起こす家ではない。
だが、その実、どの家よりも一番警戒心が強い。
(まあ、だからこそ、木藤家の土地出身の榎本を派遣したわけだけど、うまくやってるのかな?)
上野は迷路のような地下をとりあえず支持にしたがって歩いた。
(ここで、まさかの罠でしたとかになったら、流石にまずそうだ)
歩いて三十分ほどがたったとき、大きな扉の前に上野は立った。
そして、その扉がゆっくりと開く。
「中に入ってくだいさい」
その言葉に支持に従い、上野は中に入った。
「やあ、すみませんね。面倒なことをして」
中に入ると、そこは大きな円状の部屋になっていて、壁にはたくさんの仕掛け人形がつるしてある。一見するとかなり奇妙な光景だ。
「いえ、大丈夫ですよ。木藤さん」
上野は木藤家当主、木藤茂正に促され、彼の前にある椅子に座った。
「榎本さんは元気にしてますか?」
「ええ、彼の持つ能力、電気信号を操る能力はすばらしいですね。あの能力で私どもの人形は数世代は一気に飛躍しましたよ」
「それはよかった」
上野は普段はほとんど使わない丁寧語で話す。
木藤家は、最初もちろんその性格から戦争には参加しないといった。
だが、木藤家の土地は平穏であるが故に、つまらない土地ともいえる。
つまり木藤家は衰退しつつある。
その中でも榎本の派遣により人形技術の向上と、戦争参加によることによる木藤家のプラス材料を懇切丁寧に説明して、やっと参加の表明を得ることができたのだ。
(こんなところで万が一にでもやっぱりやめるとか言われたらたまんないからな・・・)
それから二人は少しの談話をした。
「それでは俺は戻ります」
「わざわざありがとうございました」
茂正が頭を下げる。
上野もそれに習った。
「では、明日はよろしくお願いしますね」
「はい。人形を総動員しますよ」
「ふうー、疲れた。やっぱりあんまりなれないことはするもんじゃねえな」
上野はネクタイを緩めながらそうつぶやいた。
ようやく明日だ。
明日になって、やっと今までのことが報われるのかどうかがわかる。
(なあ、良太郎。お前のためにも全部成功させねえとな)
上野は晴天の空を眺めた。
戦争まで、後一日・・・・・。
「あの上野があいさつとか受けるね」
「本当にな」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。