和やかな会話をする件について(仮)
尋ね人が去った後、かおるは良太郎の記憶を整理していた。
ピンポーン。
そのとき、またチャイムがなった。
(来たか・・・)
かおるは一応、カメラを確認した。
そして、ある場所をイメージする。
「テレポート」
かおるはその場から消えた。
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稲垣かおると、井上ハルカは慣れ親しんだ家から消えた。
そんなことは今までなく。そしてこれからもない。
だが、そんなことはこの土地には関係がなかった。
彼ら2人が消えたのは、高校がちょうど終業式、つまり夏休みに入る時期に消えたことになる。
つまり、彼らが消えたことを認識したものはいない。
だから、誰も捜さないし。見つけられない。
そして、どこに行ったのかを知るものもいない。
だが、この土地にいることはわかってる。
そして、これから、彼ら2人が中心となった戦争が起こる。
その戦争にこの土地の人々が巻き込まれる。
いや、正確にはこの土地として戦うことになる。
稲垣かおるは八月になるまで消えた。
その間、天邪鬼でさえ彼の居場所を突き止めることはできなかった。
そして、八月に入り。戦争が始まる。
誰もこの戦争から逃れることはできない。
宮内正子、篠原トシコ、川瀬孝子。
彼女たちももちろん巻き込まれ、傷つき倒れた。
戦争は人を不幸にする。
その通りだ。
だが、稲垣かおるは戦争を起こした。
それが例えどれほどの悲劇を起こすことになったとしても
たった一人の女性を
大切な女性を取り戻すためにだ。
これは傲慢で愚かで、人間の風上にも置けないことなのかもしれない。
だが、誰が彼の行動を責めることができるだろう。
誰もが、自分のために人を傷つけ、自分も傷ついている。
これまで稲垣かおるが戦ってきた誰もがそうだった。
そして、彼もまたそうであるだけだ。
だが、運命は皮肉なことをする。
稲垣かおると、井上ハルカは敵対した。
彼らの思いに反してだ。
そして、稲垣かおるは、井上ハルカを最終的に殺すことになる。
文字通り殺すのだ。
自らの意志で、そして井上ハルカもそれを望むことになる。
悲しい結末が彼らを待っているということだ。
では彼らは、神に敗北したことになるのか?
それはわからない。
勝負の勝ち負けなど、見方でどうとでも変わる。
そんなものに価値はない。
だけど、良太郎はかおるに君なら勝てるといった。
それが真実である事実だ。
人が死ぬとはどういうことなのか。
その意味を知るものは誰もいない。
なぜなら誰も死んでからのことを知らないからだ。
だが、思いは繋がる。
果たせない思いは、誰かがつなぐ。
そう。世界は愛で満ちている。
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「やっぱり、我らが大将は死んだか」
「うん」
「ってことは、お前がこれから我らが大将ってことだな」
「はは。変な感じだけどな」
かおるは、目の前にいる人物に笑いかけた。
彼とは今までで二回対戦している。
しかも、ある意味かおるは敵対心をもって彼と戦った。
だけど、彼は違った。
すべて、良太郎の支持で動いていたのだ。
流石にその事実を良太郎の記憶を通じて知ったときには驚いた。
だけど、そのすべてが自分やハルカのためにであるということがひしひしと記憶から伝わってきた。
「それで、記憶の整理はすんだのか?」
「流石にまだ、掛かりそうだな。何せ、今世だけじゃないからな」
「お前も厄介なもんせおっちまったな」
「仕方が無いさ。俺が終わらせないといけないんだから」
「でも、お前は大丈夫なのか? なんていうか人格に記憶が影響を及ぼす的な?」
「それなら大丈夫だ。ベルゴが記憶自体を持っていてくれるからな。俺は見たいときに良太郎の記憶を見たらいい。今はそのためにファイルわけみたいなのをしてるところだな」
「ほーん。そうか」
「それよりも上野。お前のほうこそ大丈夫なのか?」
「ん? ああ。大丈夫だ。もうマモンとの話はついてる。神に歯向かうと聞いて喜んでるよ。今すぐにでも一人で行きたい気分だそうだ」
「はは、それは頼もしいな」
「戦争まで後少しか・・・」
かおると上野は、ある川に掛かる橋で話をしていた。
後3日で戦争が始まる。
この土地に向かって、すべての隣接した土地が仕掛けてくる。
全員がこの土地の覇権を争ってだ。
「みんなは俺が大将になったことで納得してくれるのか?」
「それは大丈夫だろう。良太郎が知らせなかったってことはそういうことだ」
上野は、空を見上げた。
「それに、あいつらは全員お前の眷属になっちまってるから、どうあがいても反旗は翻せねえよ。そんなことして、眷族からはずされたら死んじまうからな」
「なんか、縛りつけてるみたいで嫌だな」
かおるが苦笑した。
「ドンと構えろよ。かおる、これからお前がやるのはあの神様なんだからよ」
上野がかおるの背中を勢いよく叩いた。
(そうだ。弱音なんて吐いてられない)
今から自分のわがままで大勢の人を巻き込むのだ。
今更綺麗ごとなんていっても仕方がない。
「それに、江良のことは任せとけよ」
「なんか不安だけどな」
「おい! 何言ってんだよ。とっておきの秘策があるだろうが!」
「だって、お前二回も俺に負けてるじゃんか」
「あれは支持にしたがってたからであってだな!」
「はは、わかってるよ」
2人の青年による最後の和やかな笑い声がそこで起こった。
これから彼らに心休まることなどない。
戦争が始まる。
「たったらー、良太郎さんです!」
「お前は消えたはずじゃ!?」
「実はこのコーナーだけ復活することになりました! 拍手!!」
「おめでとう! そして第三部完!!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。






