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いきなり漆黒の力手に入れちゃった件について(仮)  作者: 漆黒の鎧
第一部 ハードボイルドがわからない件について(仮)
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人は知らず知らずに期待をされている件について(仮)


 「人柱って、あの人の柱って書いての人柱? あの生贄的な意味がある?」


 「そうです。いわゆる生贄ですね。」


 宮内の冷静さに、かおるは少し面食らう。


 ここでは、神にではなく。覇竜に生贄を捧げるのである。


 「それはつまり、誰か一人を犠牲にするってことだよね? その人の命のかわりに、より強い力を借り受ける。覇竜から・・・。」


 「そうなりますね。」


 宮内の声はひどく冷静だ。


 「その役目はいったい誰が?」


 こんなことに命を差し出す人間は誰だ? いくら、能力者という大きな力を持っているだろう人達の争いだとしても、ここまでの話しで人の命が失ったというようなことは出てきていなかった。正直、かおるはこの争いがここまで大きなものであるとは実感が持てていなかった。つまりこれは、誰かが自分で、いや無理やりにでも命を差し出す。人一人の命は必ず失う争いだということだ。そんなものに今彼は足を踏み入れようとしている。


 いや、もしかしたら、上野が能力者狩りや、宮内家の近衛部隊との抗争で、誰かの命がなくなったのかもしれない。人一人どころではもうなくなっている。だから、人柱の案も通ったのかもしれない。


 かおるは息を呑む。宮内の答えがどのようなものなのか・・・。


 少しの間をおいて、宮内が口を開く。


 「それは・・・・、わたしの父です。」


 「宮内さんのお父さんが・・・! それは、自分から?」


 宮内は顔が硬直している。それが、かおるには感じられた。


 「そうです。自分で、人柱のことを言って、自分で人柱になるといいました。」


 「そうか・・・。」


 宮内の心中を考えると、かおるはいたたまれない気持ちになった。おそらく、いろいろな思いがあるだろう。自分の力がないが故に、敵に自分が守らないといけない人間を傷つけられ、身内も傷つけられた。しかも、それには死者も出たかもしれない。それだけでなく、自分の父親が命をなげうってこの土地を守ろうとしている。いや、正確には、土地ではなく。宮内家を守ろうとしているのかもしれない。


 かおるはこの先の話を聞くべきが悩む。正直自分が聞くべき話なのかどうかは最初から思っていたが、もしかしたら、軽い話なのではないかという期待もあった。しかし、それは内容が深刻で、とてもかおるの手におえるものではなかった。


 かおるが、逡巡していると、宮内は話を続け始めた。かおるは一瞬、何か言おうとしたが、まだ、頭がまとまっていないので、何も言えずに流される。


 「それが決まったのが昨日です。上野という男が来た翌日・・・、深夜から話し合いがもたれて、朝決まりました。」


 「昨日・・・・。」


 (昨日なら、なおさら気持ちの整理も決まっていないだろうに)


 「あの・・・・、もしかして、お父さんはもう・・・?」


 かおるが問う。事は急ぐことだ。もうそうなっていてもおかしくない。


 「いえ、まだです。父が人柱となる決行の日は明日の夜に行われる予定です。」


 「明日の夜か・・・。」


 「はい。わたしは正直、この世の希望も何も、父が人柱となると聞いてからは見えていませんでした。」


 そうだろうな。かおるは、両親がいないので、本当に理解できるとはいえないが、想像はできる。辛いものだと。


 「そのとき、昨日、わたしはある人物に出会いました。」


 「ある人物?」


 「ええ、あなたです。かおるさん。」


 「!?」


 なぜ? かおるの脳裏に浮かんだのはその言葉だった。


 宮内が言う。


 「何も考えることができず。ただ、校庭を歩いていると、ある言葉が聞こえてきたのです。漆黒の力を持っていると。最初は聞き間違いかと思いました。まさか、ここにそれほどの力を持っている人がいるとは思えなかったので、その力がある人がいたなら、祖母が気が付かないはずがないので、でも、あなたはいた。」


 「・・・・・・・・。」


 なんてこった。かおるは思う。自分に今、ものすごい期待がのしかかっているのが、鈍感なかおるでもわかった。


 宮内は、こう考えているのだ。漆黒の力を持っているかおるであれば、上野を倒せるかもしれない。いや、世界を滅ぼすほどの力を持っているのだから、倒せるであろうと・・・・。


 なので、宮内はかおるにあってから希望をずっと持っていたのだ。だからこそのあの輝いた目だったのだ。そして、あの篠原と川瀬なる仲間も、事情を知っていたのだろう。だから、漆黒の力をきいて、あの二人も目を輝かせた。


 しかし、そんな希望は無残にも打ち砕かれる運命なのだ。なぜなら、かおるは漆黒の力なんてものを持っている自覚がない。


 かおるの額にはものすごい量の汗が滴っていた。そして、心臓の鼓動は先ほどの倍は動いているだろうか。まさかの展開に、かおるは完全に思考が停止していた。


 そんなかおるを宮内は知らず。続ける。彼女は話し始めてから、ずっと、テーブルの面に焦点をあわせていた。


 「すみません。長くなってしまっていたのですが・・・・。回りくどくて、本当に申し訳ないのですが・・・。あの・・。力を貸してくれませんか?」


 宮内はここでやっと、かおるに焦点を当てる。


 かおるはそんな宮内のことを見ているが、こちらは焦点があっていなかった。


 (いったい、どうすればいいんだあああああああああ!!!!!)





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