無駄なことはしないほうがいい件について(仮)
「まずいっておかないといけないことは、かおるがもし神とかいう傲慢なやつの僕になったとしても絶対に井上ハルカは帰ってこないよ」
「どうして・・・?」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ? 我はちゃんと約束は守る」
神が結界の外から、苦笑する。
「確かに、井上ハルカの体は戻ってくるかもしれない。けれど精神は別だ。もしかおるが神の言うことを守って、言われたことを成し遂げたとしよう。そして、井上ハルカがかおるの元に戻ってくる。だけど、それは井上ハルカではないんだよ」
良太郎は神を見た。
「それは作られた井上ハルカだ。いわば偽者なんだよ」
かおるはにらみ合う良太郎と神を見る。
「その根拠を教えてもらいたいな。我に」
「簡単な話だよ。その井上ハルカの体がお前には必要だからだ」
その良太郎の言葉に、神の表情が少しこわばる。
「僕も最初はかおるに対しての脅しのために、あのとき井上ハルカの体をのっとったと思ったんだけどね。そのために何年もかけたと・・・。だけど違った」
神は黙って良太郎を見る。だが、その目には憎悪の感情がこもっていた。
「いったい、どういうことなんだ?」
かおるは良太郎に聞く。
「まあ、時間もあるから準を追って説明しようか」
かおるは、時間があるという言葉に違和感を感じる。確かに、日をまたいでしまった。だから、もし神の言葉が正しいならば、ハルカの精神は消滅をしてしまったことになる。
だが、良太郎はそれでも大丈夫だという。
かおるは、まだ神からハルカの精神を取り出すことができるんだと思っていた。
だから負けていないということだと。
とすれば、時間が経っていないほうがいいのではないか?
しかし、ここで、良太郎を疑っても仕方がない。かおるは彼を再度信じることにした。
「頼む」
そのとき、神が江良さんに目で合図する。
その瞬間、江良さんが、地面に対して拳を突きたてた。
地面が揺れて、地割れが起きる。
おそらく、結界の隙間をかいくぐり、良太郎を黙らそうとしたのだとかおるは理解した。
「無駄だよ」
だが、良太郎は余裕を崩さない。
その言葉の意味をすぐにその場のみなが理解した。
神と江良さんはかおるたちを見て、目を見開く。
「だから、言ったよね。アレンジしてあるって、漆黒の祭典はあらゆるものの干渉を許さない。つまり、それがいくら莫大な力で起こされた事象の強制的な変更であってもだ」
かおると良太郎を囲んである結界は直径十メートルほどだ。
江良さんの力で、今まで居た場所はすべて粉々となって、まるで大きなミサイルでも打ち込まれたかのようになっている。
だが、かおるたちがいるところは先ほどまでと同じで平らで平穏な時間が流れていた。
「まあ、あせらないでよ。ちゃんと、説明し終えたら決着をつけるからさ。まあ僕のだけどね」
良太郎はそういうと、微笑んだ。
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神は目を閉じて、息をすうっと吐いた。
ここではおそらく、自分たちにできることはないと判断したからだ。
良太郎がそれを見て、話し始めた。
「まず。すべての始まりはあの飛行機事故からだといったよね?」
かおるがうなずく。
「僕は、まあかおるも今日知ったことだけど、大罪悪魔ベルフェゴールだ。しかも、それだけじゃない。大罪越えを果たした人間なんだよ」
かおるに、聞き覚えのない単語が入ってきた。
(大罪越え?)
良太郎がかおるの顔を見て、かおるが理解していないことを理解する。
「大罪悪魔っていうのはね。ある一時代に出現した。極悪人たちがなったものなんだよ。まだ世界に天国と限界と地獄という世界に分裂していないとき、僕たちは、神と戦った」
かおるは突然の壮大な話に息を呑む。
だが、こんな驚きは今までに幾度も体験してきた。
かおるはすぐに冷静さを取り戻した。
「そのとき、神の軍団に大きな被害を与えた人間、それが七人いた。だけど、人間は神に敗れた。そしてその七人を神は罪人として永遠に救われない魂として変えた。それが僕たち大罪悪魔なんだ」
良太郎はかおるを一瞥して微笑んだ。
「大罪越えっていうのは、なんなんだ?」
「大罪悪魔の魂は苦しみ続ける。そして何度自分の魂が宿った人間が死んだとしても、また別の人間に宿ることになる。つまり、死ねないんだ。しかも、一度ごとに、僕たちの魂は聖域と呼ばれるところに運ばれて、そこで何十、何百もの苦痛を与えられる」
良太郎はその言葉を苦虫を噛み潰したかのような顔で言った。
「つまりね。僕たちはずっと苦しみ続けるしかなかったんだ。だけど、神は唯一の救いを僕らに与えた。それがその大罪の象徴である罪を乗り越えれば救われるというものだ」
「罪を乗り越える?」
「うん。そして、僕は僕の罪である傲慢を乗り越えた。これは何かをどうかしたとかではなくて、精神的な面ということかな。だから僕は今普通の人間としてこの世に生まれているんだよ。だから、他の大罪悪魔とは違い。梅本良太郎として生を得ているんだ」
つまり、かおるの知っている良太郎が、良太郎であったということだと、かおるは認識した。
「僕は僕だったんだよね」
「ああ、なんかその言い方だと、ラスボスって感じだな」
「そう。つまり僕がこの話のラスボスとなっている!」
「やめろ。作者が変にそうしたらどうするんだ!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。