絶望しかない件について(仮)
全身を黒い雷と、黒い炎で纏い。バチバチという音を鳴らせて、かおるが一歩踏み出す。その途端にかおるはその場から消えた。
そして、江良さんの後ろに現れる。
「なかなかに気合い入ってるやんけ」
だが、江良さんは後ろに現れたかおるからのパンチを相手を見ないで避けると同時に、半時計周りに回りながら左足を軸にして右足の回し蹴りをかおるに放ってくる。
「テレポート(転位)!」
かおるの左わき腹にその攻撃が一寸の無駄なく決まる寸前、かおるはその場から文字通り消えた。
かおるは良太郎のそばに転位する。
「はあ、はあ、はあ」
かおるは見るからに疲労をしていた。
これは確かに全力で相手に挑んでいる証拠でもあるが、それだけではない。
先ほどの江良さんからの一撃、その一撃にこめられた殺気は、今までの誰よりも冷徹でいて、的確な。いや、その殺気を当てられたもんいしかわからない。言葉では表現ができないものであった。
かおるは先ほど江良さんからの攻撃の際、確かに死を覚悟したのだ。
それが、かおるの疲労を加速されることになった。
今までの大罪悪魔との戦闘では、確かに命のやり取りをしていたのかもしれない。しかし、それが今は陳腐なものに感じられざる終えない。
彼らとの戦闘では一撃で自分の命が刈り取られる危険性はほとんどなかった。
しかし、今回は違う。
もし、江良さんからの攻撃を食らってしまえば、場合にもよるが、命がなくなるか、最低でも重症を負うのは確実だ。
かおるは今始めて、戦いというものの土俵に自分が立ったのだと実感した。
「大丈夫かい?」
「ああ・・・」
良太郎の問いに、かおるは答える。
そして、そのときかおるは自分が笑っていることに気がついた。
不思議な現象だ。
恐怖が体を包む。だが、引き下がることはできない。その狭間でかおるの精神は一瞬のランナーズハイと同様の現象が起きていた。
体中の血液が心臓の鼓動によって急激に送られる。
かおるは再度前に踏み出した。
「はあああああ!」
かおるは、自身の周りに、無数の魔弾を作り出す。どれも濃縮に力を溜め込んだものだ。
「テレポート」
その言葉で、かおるの周りにあった魔弾が消えた。
そして、その魔弾が江良さんの周りに出現する。
「うわ!」
江良さんが回りの魔弾に驚きの声を上げた。
ドカーーーーーーン!!!!
ドカドカドカドカドカ!!
そして、彼の周りで魔弾が爆発する。ものすごい爆風と爆音が鳴り響いた。
だが、かおるは安心はしない。こんなもので彼がやられるわけがないからだ。
かおるは、目に黒雷の力をためる。
そして、爆風による煙幕でその一帯が視界不良になった。
「Clone(分身)」
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「くそ、前が見えへんぞ・・・」
江良さんは、周りの煙りを手で払おうとする。だが、煙りがそんなもので払えるはずものなく。目に涙がたまってきた。
「くそ・・・」
江良さんは、目を閉じた。
相手の狙いはわかる。江良さんの視界を奪って不意打ちを狙うつもりだ。
だが、甘い。
江良さんは意識を集中させた。
これで、相手が攻撃してくれば、その殺気を感じることができる。
数秒待つ。
(来た!!)
後ろからの高密度な力を纏っている拳による攻撃。それを江良さんは感じ取った。
江良さんは体の向きを変えて、それを迎える準備をする。
視界の先で光るものが見える。おそらく拳に纏っている電撃の光だろう。
相手と江良さんの距離が近くなる。
そして、相手が見えた。
「何?!」
そのとき、さらに後ろから急に発生した殺気が江良さんを襲う。
(二人だと・・・?!)
前にはもちろんかおるが見えている。
だが、後ろからの殺気ももちろん人から発生されているもので、ただの魔弾などが飛んできているわけではない。
「はあああ!」
江良さんは、前からの攻撃であるパンチを避ける。だが、この相手に向かって反撃をしている時間はない。
すぐに避けた体制から、後ろからの攻撃に備える。
「く!」
だが、振り返った瞬間、江良さんの視界一杯に大きな黒い光る塊が見えた。
それが、江良さんの顔面を見事に捕らえて江良さんの体を吹き飛ばす。
「うらあああ!」
その攻撃の威力はすさまじく、江良さんに当たった瞬間、吹き飛ばした勢いもあり、周りの煙りは吹き飛んで、視界が回復した。
江良さんは後ろにある木にぶつかる手前で踏ん張って止まった。
「はは、やるやんけ、かおる! しかも、二人とはびっくりやのう・・・」
顔を上げた江良さんの視界には、二人の瓜二つの人間がいた。
どちらもかおるであり、同じ力を全身に纏っている。
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かおるの作戦は成功した。
初めての試みであったが、自らの分身を作り出すことに成功した。
それにより、一人の攻撃を誘導として使い。転位で江良さんの背後にもう一人が急に現れる。
もちろん最初に攻撃は防がれるかかわされるのは承知の上だ。
本命は二人目の攻撃。すべての攻撃を高速かつ最大の攻撃で行うことで、相手に考える隙を与えない。だからもちろん自分も何を失敗するかわからないという、かなり賭けの部分が大きかったが、うまくはまった。
だが、かおるは目の前の江良さんに絶望せざる終えなかった。
「とうとう戦いが始まったね」
「ああ」
「これから結構続くらしいよ」
「ええ、俺戦いたくねえよ」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。