狂うのも仕方がない件について(仮)
かおるとハルカは声のするほうに振り返る。その人物は、かおるの後ろの木陰から出てきた。
「お前、どうしてここに・・・」
かおるは、出てきた人物を見て目を見開いた。
「はは、どうしても何も、僕は君のサポートに来たのさ」
「はあ? いったいどういう―」
「もうこんな茶番はやめなよ」
木陰から出てきて、今はほぼかおるの隣に位置する人物、かおるのクラスメイトであり、中学生からの同級生、田中 孝はかおるの言葉を無視して、ハルカのほうの向いていた。
彼とは、かおるは出会った当初から険悪な中である。
そんな彼が、まさか自分のサポートのために来たなんてわけのわからないことを言うとは思えなかった。
(こいつは今、告げるべき相手は違うと言った。どういうことだ?)
かおるは彼が現れたことにもちろん動揺をしていたが、これまでの経験からか冷静に状況を見ている自分もいた。
田中の視線はハルカに対して憎悪を持っているものに、かおるには感じられた。
「いったい。どうやってこの場所に?」
ハルカが聞く。
「ああ、結界のことかい? そんなものは簡単だよ。破った」
田中が笑みを見せる。相手をあおる類のものだ。
ハルカはそんな田中のことをじっと見つめた。
かおるは二人を見る。
「ああ、そういうことか。ずいぶん凝ったことをするんだな」
ハルカの口調が変わっていることに、かおるはそこで気がついた。
「ルシファーは、単体では無力だと認識していたけど、まさか、そんな裏技を使ってくるとはな」
明らかにハルカが放っている雰囲気は先ほどまでとは違った。
なんといか、この世のものではない異質なものを感じる。
さらにルシファーという言葉も聞こえた。田中が大罪悪魔だったのか?
情報量の多さに、かおるはパンクしかけていた。
「おいおい、もう擬態しなくてもいいのかい? せっかくここまで来たのに」
「何、もう構わないさ。君が来るころは誤算だった。今更、彼をだますことをしても無駄だろう?」
「いったい。どういうことなんだ? あれはハルカじゃないのか?」
かおるは、動揺しながら言う。
目の前にいるのは確かにハルカの顔をしている。だが、直感が彼女ではないことをかおるに告げていた。
「違うよ」
田中が言った。
「あれは、彼女じゃない。彼女に擬態している別の者だ。体を使ってるんだよ」
「え?!」
かおるは、ハルカを見た。
ハルカはそんなかおるに微笑む。だが、それは今までのものではなく。どこか不気味な。気持ちがざわつく類のものだった。
「ははは、わけがわからないという顔をしているね」
ハルカが、今までみたことがない顔で言葉を発する。
「お前は、ハルカじゃないってことなのか?」
「それは定義によるね。井上 ハルカ。それを体を主として言うなら、私は井上 ハルカそのものだよ。でもそうだな。精神、心を主とするなら、私は井上 ハルカではない」
ハルカがまた微笑む。いや、彼女の顔をした。体をした別の何かだ。
「なら、お前はいったい誰だ! どうしてハルカの体に入っている!」
かおるは相手に叫ぶ。感情が抑えられなくなってきていた。
「私? 私が誰かだって? はは、なんて愚問なんだ。三つの大罪の力をその身に宿しながらまだ私の偉大さがわからないとは、おろかな人間だ」
(こいつは何を言っている・・・・?)
かおるは、頭がついてきていなかった。
「ふん。まあ良い。教えてやろう。私は、神だ。この土地に、この大木に存在していた神だよ。すべてをつかさどるものだ」
ハルカの体は両手を広げてそういった。
「神・・・だと・・・・」
かおるはさらに意味がわからなくなる。
確かに、異能力があれば神もいるだろう。その理屈はわかる。だが、頭で理解していても、心が追いついてこなかった。相手がハルカの体を使っているのも理由かもしれない。
だが、なんとか冷静さを取り戻す。
「その神が、どうしてハルカの体を使っている? あの映像は本当だったのか?」
「何も知らないというのは、やはり罪だな。せっかく、ヒントをいくつも与えてやっているというのに結局は答えにはたどり着けない。ああ、本当におろかだ」
「俺の質問に答えろ!!」
かおるは無意識にそう叫んでいた。
「まあ、いい。答えてやらんこともない。だが、それには条件がある。その悪魔を殺せ」
「何・・・・?!」
かおるはゆっくりと、そばで立つ田中を見た。
「かおる」
田中が言う。田中に今までそう呼ばれたことはなかった。いつも君としか呼ばれなかったからだ。
そして、その声に聞き覚えがある。
「まさか・・・、良太郎なのか?」
田中はその言葉を聞いて、ゆっくりと微笑んだ。そして、彼の姿が変わっていく。
「正解だよ」
そしてそこに良太郎が現れた。
「お前がルシファーだったのか・・・・」
「うん。そうだよ。今までだましててごめんね」
かおるの口角は不思議と上がっていた。
もう何がなんだかわからない。
今まで、守ろうとしてきた幼馴染は、神と名乗るものになってしまっているし。これまで仲間として接してきた人が、まさかの最初に戦ったものの黒幕で、しかも、それが実はクラスメイトだった?
そして、今かおるはその人物を殺せといわれている・・・。
どうにかなるなというほうが無理じゃないか・・・。
「はは」
かおるは笑った。
「うわあ、主人公が狂ってしまった」
「お前のせいだけどね」
「え?」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。