人間の順応能力は自然と発揮される件について(仮)
「わたし達三人が中学から切磋琢磨してきた仲間だってことは言いましたよね。」
リビングにはかおると宮内の二人、先ほどまでとは違い。重い雰囲気が漂っていた。
先ほどの話は設定ではなかったのだなと、彼女は本当の能力者なのかと、かおるはこの状況を再確認した。
「言ってたね。」
「で、わたし達がいるこの町は本当に能力者からすれば温厚な地域で、争いもなく平和なんです。それもこれも、この地域にいるわたしの祖母が協力な力を持っていて、そのおかげで平和が保たれていたんです。でも、つい一ヶ月前に祖母が・・・・・。」
その雰囲気からかおるは察した。亡くなったのか。
「祖母が・・・、老後のバカンスにイタリアに行きました。」
「え? バカンス?」
「そうです。」
なんとも、雰囲気に合わない内容だな。バカンスなんて、一番この流れに合わない言葉といってもいいだろう。かおるは心で突っ込みを入れる。
「それで、祖母の変わりに、この土地の管轄理事にわたしが代理として選ばれました。」
「そんなものがあるのか。」
「ええ、一般人には知られていませんし。かおるさんのような無所属の方は結構しらない方も多いです。なにか、問題を起こしたりしないかぎり、能力者であっても一生かかわりを持たないものなので、本当に何かあったときのためのものです。」
「そっか。」
かおるは内心少し焦っていた。土地を管轄をしている機関があることを、能力者が知っているものだったなら、失言だ。自分が能力者であることを演じているのを忘れていた。
気を取り直す。
「でも、それなら、言い方はあれかもしれないけど、宮内さんが弱いて言うなら、宮内さんよりも強い人だっていたはずだよね? なんで宮内さんだったの?」
「ええ、わたしよりも強い方はいます。でも、単純に個人で強くてもいけないのです。広範囲に満遍なく力を伝えられる人じゃないといけなくて、そうでないと同時に複数の場所で問題が起こったときに対処ができないので、形だけでも、そういう人を管轄理事にすえるんです。」
なにか結構、詳しい話になってきたな。知らないことばかりだ。だが、先ほどよりも落ち着いているからなのか、混乱はしていなかった。口は挟まないでおこうとかおるは思う。
宮内が続ける。
「宮内家と言うのは、代々、この土地にある大きな湖に住まう覇竜から力を得ています。なので、その力を持っている宮内の人間は広範囲に複数個所に攻撃ができます、なので同時に争いを鎮圧することができるのです。しかし、宮内の人間が誰でもその力を使えるわけではなく。覇竜から洗礼を受けることができたもの、しかも女性に限られます。そして、宮内家には女性が祖母と私しか現在いいません。」
「あの、答えたなかったら、いいんだけど、お母さんは・・・?」
「わたしが、幼いころに病気で亡くなったらしいです。」
「そっか。悪い。」
「いや、大丈夫ですよ。記憶もないので、ドライな言い方かもしれませんが。悲しいとかいうときがそもそもなかったので。」
やってしまった。つい、聞きたいことを聞いてしまう。かおるは己の愚かさを恥じる。
「いや、悪い。」
かおるは小声で言う。それが、聞こえたのか聞こえなかったかはわからないが、宮内が続ける。
「まあ、なので、祖母の変わりを勤められるのがわたししかいなかったのです。といっても、わたしがそんな力が、そもそもないのはさっきから言っているのですが。」
「それじゃあ、あくまで、空席を埋めるための処置ってこと?」
「いえ、万が一のために祖母が限定的ですが、わたしが覇竜の力をより使えるように覇竜と掛け合ってくれました。本来、覇竜に認められることによってたくさんの力を使うことができるのですが。祖母が使っている力の一割をわたしに譲渡してくれたのです。なので、本来のわたしよりも10倍くらい今は強いです。」
「そんなに違うのか。」
「ええ。」
10倍とはすごいな。流石に土地を管轄する人間ともなると、そこまで違うことになるのか、といっても本来の力をかおるは知らないし、そもそも、能力者の力だって、さっき少し見たくらいだ。
このとき、かおるは自然と異能力の存在を受け入れていた。