キラーパスならぬキラー質問な件について(仮)
「それで、その・・・どうしてそれを俺に言うんですか?」
青沼は体をベンチにのけぞりながら、顔だけ向けてかおるを再度見る。
「君は、あれだな・・・・、まあ、そんな君のことがいいのかもしれないか・・・」
青沼は、かおるの問いには答えず。一人で物思いにふけりだした。
かおるはあなたもあれですよ。と思った。
「俺はね。こんなことを言うのもなんだけど、結構努力して生きてきたんだよ。だから、欲しいものは。こんなこというと嫌なやつだと思われるかもしれないけれど、手に入れてきたつもりだ。さまざまな大会での優勝、そして勉学での成果。たくさんの場所での評価。正直、こんな人間は日本でも少ないだろうね」
「はあ・・・」
かおるは、青沼の自分語りには正直全然興味はなかったが、なんとなく付き合うことにする。
(こんな姿を見たら、これまで青沼先輩を見て来たの半分の女子は幻滅して、他の半分は歓喜するだろうな。もしかしたら、ナイーブな人が好きなほかのファンも増えるかもしれない)
「でも、こういう経験もいいものなんだと思うよ。失恋は必ずこの先の未来で俺の糧になると信じているよ。だって、失恋もしたことがない順風満帆な人生の男なんて、つまらないだろ? なんの深みもないさ」
青沼はベンチに背を預けるのをやめて、体を正す。
「すまないね。つまらない話をして」
「ああ、いえ。先輩の意外な一面を見ることができて感動です」
かおるは、半分本音。半分嘘の言葉を言った。
どうしても、かおるは彼に対して興味を持てなかった。それは自分でも不思議だった。
青沼は、よっこいしょっと立ち上がり。かおるの前に出る。
「なんか、あれだね。君相手だとなんでも話してしまうよ。どうしてかな?」
「さあ、そんなことは初めて言われましたよ」
「そう? でも多分、俺の言葉は正しいよ。おそらくだけど、君の周りの人間はみな本音で話をしているんじゃないかな? ただ一人を除いてはだけどね」
青沼の言葉には含みがあり、かおるはそれに気が付き。首をかしげる。
「まあ、そんなことはいいや。多分君が人畜無害に感じるからだろうね。影が薄いのかな?」
なぜかいきなりの。ディスりにかおるは苦笑いを浮かべる。
はにかめば、何を言ってもいいわけじゃない。
「最後に一つだけ聞いてもいいかな?」
「なんですか?」
「君はこの先ハルカ君とどうなりたいんだ? ハルカ君のことはもちろん好きなんだろう?」
かおるは微笑む。
(おっと、これはいきなりのキラー質問じゃないか。どうしてこうも俺の周りは色恋ばかり考えているんだか・・・)
「それを、俺が先輩に言う理由がわかりませんけど」
かおるは少し語気を強めて言う。
しかし、相手はあの青沼だ。そんなことを引くような人間ではない。
「はは、そう邪険にしないでくれよ。そうだね。理由ね・・・・。ハルカ君は俺ではなく。君を選んだ。だから、俺はあきらめることにしたんだ。だから、彼女が選んだ君が彼女とどうなりたいのかということを知りたいんだよ。これはただの興味だね。まあ、答えたくないならいいよ。でも、それだとハルカ君をきっぱりあきらめられないかもしれないね」
青沼は微笑む。いやはにかむ。
おいおい、先ほど、男らしくきっぱりあきらめるとか言ってなかった? とかおるは思った。
「はあああああ」
かおるは、今まで避けていた深いため息を漏らす。
青沼はかおるの次を待っていた。
「まったく、面倒なことを言ってくれますね」
「俺は面倒なやつなんだよ」
「自覚があったんですね。それはもうここに来てから気が付いていましたけど・・・」
かおるは考える。
そして、青沼を見据えた。
「俺はね」
それから大きく間を空ける。
青沼は待つ。
「ハルカとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ですね」
2人の間に沈黙が流れる。
「へえ、そうかい」
青沼は、かおるの言葉に感心したというような表情となる。
「俺が言うのもなんだけど、俺に対してそこまではっきりと物を言うのはなかなかできないよ。はは」
「俺が言うのもなんだけどってやめてもらえませんか? なんかいやみですよ?」
かおるは、気を使うのはやめて、本音を言うことにした。
先ほどの言葉ですっきりしたのかもしれない。
「そう?」
「はい、もしかしたらあれですね。それがハルカがあなたのことを好きになれない原因かもしれませんね」
かおるは、わざと笑顔を作る。
青沼はそんなかおるに、少し驚いた表情をしながら口角が上がった。
「手厳しいね」
それから青沼とかおるはその公園で別れた。
青沼は最後にこういった。
「これなら、君といい刺激を分かち合えそうだよ」
かおるは特にそれに対して何も返答はしなかった。
「なんの話だったの?」
ハルカはかおるが家に戻ると、そう聞いてきた。
「ん? ああ、たわいも無いことだよ。なんか先輩の話をずっと聞いてた感じかな。あ、それと、もう明日からは約束はいいって伝えてくれって言ってたよ。俺にはなんのことかわからんけど、なんなんだ?」
かおるはわざととぼけた。
「そう。わかったわ」
ハルカは、かおるの最後の問いには答えずに、食卓に夕食を並べた。
「さ、食べましょう」
「何? なんていったの!? 教えて!!」
「いやだあ」
「教えて教えて!!」
「絶対に教えん!」
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お読みいただきありがとうございました。