カルピスばかり飲んでいる件について(仮)
「おーい、かおる?」
「あ、すみません」
江良さんが、かおるの目の前で振っている手で、かおるは思考から現実に戻った。
「少し、考え事してました」
「ほいか、なあ、今から、時間あるか?」
「時間ですか?」
どうするか、とかおるは考える。
時間があるといえばあるが、やりたいことはある。
「すみません。ちょっと用事があって、これから、中央図書館に行きたいんです」
「それやったら、一緒に行こうや、実はこれから、一緒にそこに行かんか? っていおうとおもっとってたんじゃ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、実はそこでわし、ちょっとしたバイトしとってな。それを手伝ってもらおうおもっとったんじゃけど、まあ、調べ物があるならしゃーないわな。とりあえず。一緒にいこうや」
「あ、はい」
江良さんが、両手に持っている人を、適当にその辺に放り投げて、歩いていく。かおるは、その人物たちに対して、少し心配な気持ちはあったが、まあ、息はしている模様だったので、そのまま、江良さんについていった。
- - - -
「今、戻ったぞ」
上野は、かつて自分がこの土地に来た時に最初に拠点にした場所へと戻った。そこは、ある人物の隠れ家の一つだ。
「お疲れ様だね。はいこれ、飲み物」
上野は、自分に向けて投げられた500mlの水を片手でキャッチする。そして、ふたを開けて、それを一気に飲み干した。
「ぷふぁー、でもよかったのか? すぐに会って話しなくても」
「うん、まあね。あそこで、あのまま、かおるを連れて行くことはできなかっただろうしね。絶対に江良さんが、登場する予定になっていたんだからさ。神のご意思ってやつだよ。万が一のときは、必ず彼が登場して、かおるを導く、そうできているんだよ」
上野は、部屋にあるソファーに適当に腰掛ける。
「でも。お前はそのご意思ってやつに逆らうつもりなんだろう?」
そういわれて、この部屋の主は、上野に微笑む。
「だって、七つの罪を消して、この世界から罪を強制的に消そうなんて、それこそ、傲慢でしょ?」
「それを、お前が言うかねえ? それで、あいつの行動は把握できたのか?」
あいつとは、上野に力を与え、かおるが最初に関わることになった事件でも、さらに、その後の出来事でも、裏で関わっている人物のことだ。
「なかなか、厄介だねえ、さすが、僕たちの元の存在ってことになるのかな。でも、そろそろご退場願いたいところだけどね。でもやっぱり、一番厄介なのは江良さんだよ。彼には誰も勝てない」
「お前でもか?」
「はは」
上野の言葉に彼は自虐的な笑みを浮かべる。
「僕はただの人間だよ」
「まあ、そういうことでいい。それよりも、俺はこれからどう動けばいい?」
「そうだねえ」
彼は、彼の目の前にあるパソコンを操作する。
「まずは、また宮内家に攻撃を仕掛けようか。そのために、僕は川口家との交渉に向かうよ」
「その川口家は信用できるのか?」
「信用も信頼もできないような、糞連中だよ」
「マジかよ・・・」
「でも」
そこで、彼はまた笑顔になる。
「要は使いようさ、起爆剤にでもなってくれればいいんだよ。例え小さなものでも、それが今は欲しい」
彼は冷蔵庫に向かう。そして、飲み物を取り出して、自分の机の上においてあるコップにそれを注いだ。
「ちなみに、木藤家に関しても、すでに交渉済みだよ」
「え? ってことは、全部の土地が、この土地の敵になったのか?」
「そうなるね」
「でも、どうやって、あの木藤家を?」
彼は椅子に深く腰掛ける。
「簡単だよ。向こうだって、利益があれば、そこに噛みしかない。そうでないと、自分の土地が守れないからね」
「つまり、相手が欲しがる利益を提示したのか?」
彼は首肯する。
「それはなんなんだ?」
「僕が、周りの土地に提示したものはただ一つ、この土地の神の所有権、ただそれだけだよ。そして、それは神殺しを成し遂げたものだけに与えられるもの。だから、夏には、この土地は戦火にまみれることになるだろうね」
「人がたくさん死ぬってことか・・・」
「仕方がない犠牲だ。だって、僕は傲慢なんだ。小さなものには価値を見出せない。戦争するなら、大きな敵じゃないと」
「つまり、それが神か」
「そういうこと、嫌かな?」
「はん! 俺がそんな面白そうなこと降りると思うかよ? もちろん最後まで付き合うぜ」
彼は、その答えに満足したのか、今日で一番の笑顔になった。
「それで、いつ全員が集まるんだ?」
「みんなが、一斉に集まるのは、学校が終業式の夜。最後の作戦会議だね。それで、後は各自の判断での行動をしてもらう。万が一のときは、個々の判断にゆだねるよ」
「そうか、向こうは神で、こっちはただの人間が、七人か・・・」
「まあ・・・・」
彼はコップを持って、窓の向こうを見る。
「いい感じだね。いい勝負になりそうだ」
上野はそれを見て、どうしてそんなに余裕なのかと不思議に思った。
だが、確かに、これまでの計画はすべて順調に行っている。
「ってか、お前本当にそればっかり飲んでるな」
「これ? まあ、僕の栄養源だからね」
彼が飲んでいるのはカルピス。
そして、彼の名前は、梅本 良太郎、宮内家の情報屋であり、大罪悪魔ルシファーをその身に宿しものだ。
「俺が僕に代わっているのにもちゃんと理由があったりなかったりするんだよね」
「つまりどっち?」
「それは考察してね」
「考察できるほどの小説じゃねえ」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。