ご主人様がいる件について(仮)
かおるのクラスメイトが地面にひざをつく。
「かおる。こんなやつら、お前ならすぐにやれるだろう? どうして、こんな世界で暮らしているんだよ?」
「・・・・・」
かおるは臨戦態勢に入る。
明らかに、昨日の上野とはレベルが違っている。
「な、何が起こったの・・・・?」
「きゃあああああ」
予期しない出来事に、クラスメイトが混乱する。女子は悲鳴を、男子は沈黙をしている。
「なんなら、俺が代わりにこいつら全員殺してやろうか?」
「テレポート(転移)」
その瞬間、かおると上野は、街の端にある人があまりこない高台に転移する。
「けっ、なんだよ。せっかく俺がいい提案をしてやったのにさ」
上野は周りを見ながら言う。
「お前は何が目的なんだ?」
「俺か?」
「!!」
かおるの目の前から上野が消える。かと思うと、上野に肩をたたかれる。振り向くと、後ろに上野がいた。
(何が起きた?!)
「びっくりだろう? これが俺の新しい能力だ」
かおるは、まず上野との距離をとるために、後ろに下がる。そして、自身の周りに黒雷炎のバリアを張る。
「お前は、何者なんだ?」
「何ものも、何も、俺は上野だ」
「違う。俺が聞きたいのは、そんなことじゃない。お前はもう人間じゃないだろう?」
その言葉に上野はにやっとした。
「ああ、そうだ。俺はもう人間じゃない。言うなれば泥人形とでもいうのかな。俺がお前にやられてからのことを話してやろう。俺はフードをかぶったやつから、あの能力をもらった。だが、その副作用のせいで、俺は全身が燃えて、死んじまったんだよ」
「死んだ・・・・?」
「ああ、だが、俺の魂は普通の地獄にはいかなかった。幽冥界をさまようことになる。だが、そこで、あるやつが俺の魂に目をつけたわけだ。なんでも、俺の傲慢さが気に入ったらしい。それで、俺のそいつの能力で、現世に舞い戻ったってわけだ」
「昨日のお前と、今日のお前は別人なのか?」
「いや、同一人物だ。あのときの俺は、お前の能力が今どれほどのものなのか、試すためにほとんど能力を持たない状態で、お前に挑んで消えた。だが、また俺は生き返ったわけだ」
かおるは、上野の話がどこまで本当なのかと思案していた。
もし、彼の話が本当ならば、彼をよみがえらした人物、おそらくルシファーは、どれだけの制限があるのかわからないが、何回か人をよみがえらすことができるし、その人物に対して、能力を付加できるというわけだ。
「それで、お前は俺に対して復讐をしにきたのか?」
「はは」
上野が笑う。
「まあ、俺もそうしたい気持ちがないわけじゃないが、残念ながら、俺は今ご主人様がいる立場でな。そのご主人様は、お前と話しをしたいらしんだよ」
「話?」
「ああ・・・」
「なんや、かおるやんけ?」
そのとき、かおるの耳に聞きなれた振動数の声がした。
かおるは、その声のする方向、左を見る。
そこには、いつもの通り、両手に人を引きずって歩いている人物がいた。
「江良さん・・・」
「おう、こんなところで何してんねん?」
江良さんは、2人に近づいてくる。人をまだ手に持ったままで。
「いや、その、話をしてます」
「ふーん」
江良さんは、上野を見る。その目は、相手を値踏みするような目だとかおるは感じた。おそらく、上野を警戒しているのだろう。
「お前の名前は?」
江良さんが、上野にたずねる。
「人に名前を聞くときには、まず自分からだろ?」
「ああ、せやったな。悪い。わしは江良や、かおるの友達やな」
「俺は上野だ」
かおるは、上野が、江良さんを警戒していると感じた。
江良さんは、超えし者と呼ばれる存在。つまり。異能力の世界でも例外的存在の人物だ。おそらく、上野はそれをなんとなく、肌で感じているのだろう。
「じゃあ、俺は今日のところはこれで失礼する。近々、俺のご主人様から、連絡があるだろうから、また、そのときに会おうじゃねえか」
「・・・・・・わかった」
上野はそういうと、その場から一瞬で消えた。
(あいつの能力はいったい・・・・)
かおるが、先ほど使った言魂によるテレポートと同様の力なのか、それとも別の力なのか・・・。
「かおる!」
かおるは、江良さんに、肩をたたかれる。
急に江良さんが、近くに寄ってきていたので、かおるは一瞬びっくりした。
「そないな真剣な顔してどないしたんや? さっきのやつになんかされたんか?」
「いや、別にそういうわけじゃないんですが」
そのとき、かおるはふと思った。江良さんは超えし者ではあるが、異能力系の知識はまったくない。だが、目の前から、人が一瞬で消えたのに、特になんの反応も示していなかった。そこに、かおるは疑問を感じた。
「江良さん、さっき、上野がどうなったように見えました?」
「え? どうも何も、あっちに歩いていったやろ?」
江良さんは、手でかおるの右方向を指差す。その返答は、何を言ってるんだ? という雰囲気だった。
「え? 歩いていきましたか? 消えませんでした?」
「はあ? 何言ってんねん。人が消えるわけないやろう」
江良さんは、笑みを見せる。
(そういえば、江良さんも俺からしたら、急に横にいたな)
「江良さんは、そのとき、俺に向かって歩いてきてましたか?」
「まあ、そうやけど、なんや? お前、そんな天然やったっけか? そういえば、さっきもずっと止まってたもんな」
間違いない。
かおるは、上野の能力について、見当が付いた。
「どんな能力なの?」
「まあ、いずれわかるよ」
「何々?」
「だから、いずれわかるって!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。