友達よりも深い関係だった件について(仮)
教室には、掃除当番と、彼らの友達だけとなる。
かおるは、自分以外の掃除当番のメンバーを見て、唖然とした。
教室の掃除当番は全員で今回は五人だ。そのうち、2人が、前回揉めたカースト上位陣であり、岡本が、彼らを教室で待っている。そして、残りの2人は、その場にはいなかったものの、どちらかといえば派手なグループの女子である。彼女たちの友達も数人残っていた。
かおるはどうして、こんな自分にとってカオスな状況になったのかと、内心で頭を抱えた。幸い、かおるの顔面を殴った安元は、いつも榎本に放課後はこき使われているのでいない。
かおるはできるだけ、その場の誰にも目を合わせないようにして、掃除用具を適当に取って、掃除を始めた。他の四人プラス何人かは、だべりながら掃除をゆっくりと始めた。
「何それウケるー」
「それは間違いないわ」
「あの芸人のネタ、もう見飽きたんだけどお」
「俺、最近腹筋してるから、結構おなか硬いぜ」
「ってか、あの2人が熱愛とか、私ショックなんだけど」
「夏休みは絶対海に行こうな!」
かおるは、彼らの会話をなんとなく小耳に挟みながら、一人で教室の半分くらいまでを掃除した。
かおるは、残りの部分を見る。
(後は、任せてもいいか)
かおるは、そう判断して、掃除用具箱に箒などを戻しに掛かった。
「なんか稲垣が、一人だけ終わろうとしてるんだけど・・・」
そのとき、女子の一人がボソッといった。
その言葉で、みながかおるのほうを見る。かおるは、その視線に気が付きながらも、無視した。正直、今回ばかりは彼らに付き合ってやる義理はないと思ったからだ。こちらには用事がある。
「おい!」
さっさと、帰り支度の準備に取り掛かったかおるに対して、一人の男が言う。
「何帰ろうとしてんだよ! 残りもやれよ!」
威圧的な態度だ。だが、かおるは動じない。彼は男をまっすぐと見た。
「いや、そっちは、そんなに人数がいるわけだから、できるだろ?」
かおるは普段なら、こんなことは言わない。もしかしたら、最近の喧騒のせいで、こういう状況にうんざりしていたのかもしれない。それか、昨日言っていた良太郎の言葉を借りれば、精神に異常をきたしているのかもしれないなと、冷静に自分を分析していた。
「は?」
男の顔色が、先ほどよりも激しいものになる。
だが、その男を、今回は早くに岡本が止める。
「まあまあ、落ち着けって、かおる! お前も言い方が悪いぞ、後もう少しなんだ。みんなで残りをやろう」
岡本のみんなでというのに、もちろんかおるも入っている。
まったく、この男は、本当に大事なところを理解していない。とかおるは思ったが、これ以上争うのは流石に面倒だなと思って、かおるは、ちりとりを取り、地面にそれを置き、ごみが入ってくるのを待つ。
岡本に催促されて、他の掃除当番も、本当に少ししか残っていない部分に四人もの人間が動くという、なんとも贅沢きわまる動作を開始した。
そして、ごみが、かおるの目の前に集められてきたとき、かおるの頭に箒がおかれる。
「あ、悪い。ごみかと思ったわ」
「やだあ、やめてよー」
「ぶふ」
一人の男のその行動に、笑いが起こる。
「おい! やりすぎだぞ」
すかさず岡本が、みなを咎めに入る。
「かおる、勘違いしないでくれ、悪気があったわけじゃないと思うんだ」
岡本は、かおるの頭に箒から移ってついたごみを払いながら言う。
かおるは、人の頭を故意的に、箒で掃くという行為に、悪意以外の何が、どのくらいのパーセンテージで含まれているのか、詳細をレポートにでもして出してもらいくらいだ。と思った。
だが、自然と怒りなどはこみ上げてこなかった。これが俗に言う。強い武道家などが、一般人にどれだけ絡まれても相手にしようとしないというものなのかもしれない。それほどに、かおるの気持ちは先ほどとは違い落ち着いていた。わずかの間での、驚異的な進歩だなと思った。
「いいよ。ありがとう」
かおるは、岡本にそういい。残りのごみを手でかき集めてちりとりの中にいれて、ゴミ箱に捨てた。そして、そのゴミ袋の口をしっかり縛る。
かおるは、そのごみ袋を持って、教室を出ようとした。そのとき、ドアの前に立っている人物と目が合う。
「上野・・・」
「昨日ぶりだなあ!」
目の前にいるのは、間違いなく上野だった。
(まさか、学校で攻撃を仕掛けてくるとは、予想外だ・・・)
かおるは、ゴミ袋を地面に下ろす。
目の前にいるのは、確かに上野だ。しかし、正確には彼は生きてはいない。本物の人間ではないのだ。昨日、かおるの家で襲ってきた上野と同様に泥から作りだされた人形。魂を焼き付けることによって、死者をよみがえらす術、それが、傲慢を司る大罪悪魔ルシファーの力だと、ベルゴが言っていた。
「それよりも、お前がまさか、いじめられてたとは傑作だぜ」
上野はにやにやしながら、教室に入ってくる。そして、周囲の人間を見渡す。
「なんだ。お前?」
上野に向かって、男の一人が言う。
「稲垣の友達か?」
「まあ、それよりも深い関係だな」
上野が答える。
かおるには、彼と深い関係になったつもりはなかった。それは不快だ。
「なんだ、なんだ? まさかのコッチ系の趣味でもあったのかお前?」
クラスメイトの男の一人が、おねえのしぐさをして爆笑する。
そして、上野の肩に触れて言う。
「なら、少し黙っててくれよ。ちょっと、こいつに対してむかついててさ。俺は今から、ちょっとこいつのこと締めるからさ、あ、そうだ。お前と稲垣のキス写真なんか取って、校内にばら撒くとかいいな!」
男の顔は見事な悪人顔になる。
「おい」
「あん?」
上野が、クラスメイトに振り向く。
「ああああああああああああ」
その瞬間、クラスメイトの男の腕が、反対方向に折れ曲がった。
「いやあ! まさかの再々登場とはね」
「びっくりだろ?」
「実は作者彼のこと好きだよね?」
「そりゃそうだろう」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。