根本的に違う件について(仮)
良太郎が、かおるを見る。
かおるに、この先を続けてもいいのか、確認しているのだ。
かおるは目を開けて、良太郎に軽く微笑んだ。
「青沼の登場により、かおると彼女の関係性は少しずつ変化していく」
「具体的な変化っていうのは、なんなんだ?」
竹市が聞く。
「それは、お互いがお互いを意識し始めたってことだろうね。そして、この時期にかおるは意識するべきではなかった・・・」
「どうしてですか?」
正子が聞く。
「そこで、燃え尽き症候群が加速することになったからだよ」
良太郎が、再度、顔を見た。
「簡単に言うと、自分のライバルとなる人物が出てきて、かおるは、彼女をあきらめたんだよね」
「その青沼とかいうのが、すごかったからなのか?」
竹市が顔をしかめながら聞く。
良太郎の言葉をそのまま取ると、男としてどうかということなのだろう。
「それは、大きな理由じゃないよ」
良太郎は、軽く否定する。
「ここでの一番の大きな原因、要因は、自分の立場の変化、ここは精神的要因じゃなくて、異能力者になったのが原因だね。かおるの言葉の節々に、井上 ハルカさんを大事にしている言葉が見える。だからこそ、みんなが彼女をライバルだと感じているわけだけど・・・」
かおるには、最後の言葉の意味がよくわからなかった。
「その中での、今のかおるは、だめなんだよ。彼女を危険にさらしてしまう可能性がある。しかも、これからは、この前、宮内家に呼ばれたように、本格的に異能力者の世界に踏み入れ始めているわけだよね? どんどん、2人の物理的距離はもちろん、精神的距離もそれによって、離れていっているんだよね」
「・・・・・・」
「つまりは、自分は、これ以上、彼女の中で必要な存在ではないという結論に、かおるの中でなったわけだ。まあ、これは半分くらいは憶測だし、あえて大きく言ってるけどね」
良太郎は微笑んだ。
「そして、彼女のことを任せられそうな人が現れた。まあ、青沼じゃなくてもいいんだ。これから先、誰でもいいけど、将来、彼女を危険にさらすかもしれない自分ではなくて、普通の人に任せる選択肢を選び始めてるんだよね。これは、あきらめからもあるわけだよ。精神の異常からなわけだよね。満足してしまったんだ」
かおるは、空を眺めた。
良太郎がこれまで説明したことは、自分の中であたっているところがほとんどだった。ただし、根本的に違うところもある。
最近の、ハルカの行動については、クラスメイトたちのうわさばなしから、ある程度把握していた。
彼女が、昼食を、一緒に取らなくなったのは、青沼と一緒に昼食を取って、その後、彼の部活が終わるまで待っているからだ。
ハルカがどうして、そういう行動を取っているのか、そもそも、部活をなぜやめたのかなどは、かおるにはわからないし、考えてもいなかった。
だが、ハルカは、それは一週間だけだと言っていた。そこで、別に彼と付き合っているとかどうではないというわけだろう。
「ここまでで異論はあるかな? かおる・・・」
「別に、ない。確かに、そうなのかもしれないな、くらいに思っているよ」
「そう・・・」
かおるは、公園にある時計台を見た。
「もう、三時だな。俺は帰るよ」
かおるは立ち上がった。
「かおるさん!」
「? なんだい、宮内さん・・・」
「その・・・、本当に契約のこととか、そのほかのこととかはいいんですか? ハルカさんのことも・・・」
「いいも、何も、俺がいいって言っているから、別に宮内さんが気にしなくてもいいんだよ? この力を手に入れてしまったわけだから、仕方がないよ・・・」
かおるは、右腕を見る。
「おい!」
そのとき、竹市の手が、かおるの胸倉をつかむ。
「そんなんでいいのかよ?」
「何が?」
「お前が、そんなんでいいのかって、聞いてるんだ!! お前はその幼馴染のことを大事に思っている。つまりは好きなんじゃないのかよ?」
竹市の腕に引っ張られて、かおるの体は揺れる。
「・・・・」
かおるは黙っていた。
「まあまあまあ」
良太郎が、2人の間に入り、2人を引き離す。
「今日は解散にしようよ。ね? かおるもすまなかったね。勝手にいろいろといってしまって」
「別にいいよ」
かおるは、その場から、去っていった。
良太郎の説明の中で、根本的に違うところ、それは、別に最近、ハルカに対しての立ち居地を決めたわけではないということだ。
ハルカの両親と、かおるの両親が、飛行機事故で死んで、奇跡的に助かった俺と、ハルカ、そのときに、ハルカを大事にすることは心の中で決めた。どんなことがあっても彼女を守ると、それと同時に、彼女の側にいることもあきらめた。矛盾した考えで、情けない話だが、自分ではハルカを幸せにはできないと思ったからだ。
ハルカが将来幸せなら、それでいい。それが、かおるが自分の中に中心としているものだった。
といっても、良太郎の言う通り、これをしっかりと意識しだしたのは、あの、青沼があわられてからかもしれない。
結局は、あのイケメンに引導を渡された形なのかもしれないなと、かおるは思った。
「寝てなかったんだね」
「寝てないって!」
「いきなり話すからびっくりしたよ」
「はあ?」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。