目を瞑って何を考えるのかな件について(仮)
竹市が手を上げる。
良太郎が彼に手を伸ばし、竹市の発言を許可する。
「ボッチっていうのは、つまりいつも一人でいる人間のことか?」
竹市が、かおるの傷をえぐってくる。
「まあ、そうだね」
「つまりは、友達が少ない人のことですよね?」
正子が言う。彼女も塩をぬってくる。
「少ないというか、ほとんどいないね」
「要するに、孤高の存在だってことだろ?」
トシコの解釈はポジティブなもので、かおるは少し救われた。
「それが、どうしたのですか?」
孝子が尋ねる。
良太郎が、やれやれといった顔をする。
「まあ、予想はついていたよ。君たちは、異能力の社会じゃ、人とかかわっているけれど、一般社会ではそうでもない人たちだからね。一般社会でのボッチがどんな存在なのか、知識では知っていても、精神が理解できていない。ボッチの人っていうのはね? 自分が一人でいることによって、周りとの壁を作って、自分をある意味で守っているんだよ。なんていうか・・・。ほら、サヴァン症候群っていうのがあるよね?」
「言葉を話すことができない変わりに、絵がものすごい上手だったりするやつか?」
竹市が言う。サヴァンについては、かおるも知っていた。
「そう。あるひとつに特化するかわりに、別の領域がまったくできないってやつだね。ボッチもつまりそれなんだよ」
良太郎が微笑む。
「ボッチであることによって、自己のアイデンティティーを保っているんだ。これは、別に自分で意識しているわけじゃないよ? 一人でいるうちに自然とそうなるわけだね。でも、最近、かおるはボッチではなくなった。常に誰かに注目される人生に早代わりしたわけだよ。サヴァン症候群はね。欠如している部分を補ってしまうと、特筆しているところもなくなってしまそうだよ。つまり。言葉を話せない人に言葉を教えて、話せるようにすると、絵の才能もなくなってしまうんだよ」
「それが、俺にもおきてるってことなのか?」
良太郎はうなずく。
「まあ、サヴァンなんかは、大きな例だけどね。だから、かおるの中の何かがなくなったわけではないとは思うけど、今までにない人生、これから歩むはずではなかった人生を体験することによって、かおるは、精神に異常をきたしはじめている」
かおるは、良太郎の話を、理屈を思考していた。
確かに、ここ二ヶ月で、クラスメイトからの視線は今までの人生のすべてを足し合わせても足りないくらい受けた。そして、話しかけられることも多くなった。昨日なんて、初めて、殴られたり、応援されたりした。良太郎の言う変化は確かにあるわけだ。
だが、それが、いったい自分のなんの変化を与えているというのだろうか?
「それの異常っていうのは何なんだよ?」
トシコが聞く。
「簡単だよ」
良太郎が一呼吸おいてから答える。
「燃え尽き症候群だね」
「燃え尽き症候群?」
竹市が言う。
「うん。つまりは、人とのかかわりに満足してしまったわけだ。だから、やる気がもう出ない。今はまだ初期症状だろうけど、それはこれからひどくなると思うよ」
「どうして、そうだといえるんですか?」
正子が聞く。少し前のめりだ。
それは、かおる以外のみなが同じだった。
「勘違いしてほしくないのは、これは別に、みんなのせいではないってことだよ? それは、かおるも思っているだろうけど、仕方がないことなんだ」
良太郎はいったん正子たちの熱を下げる。
「どうして、俺がこの判断をしたのかっていうとね。それは、簡単だよ。かおるの井上 ハルカ、彼女に対する関わり方が、一番大きいかな」
「・・・・・・・」
かおるは黙っていた。
「ハルカさんとの関わり?」
「そう。みんなも、かおると、彼女の関わりの変化については気がついているよね? いや、変化ではなく。正確には、もう彼は彼女に対しての立ち居地を決めてしまっているってことなのかな?」
良太郎は、かおるに対して微笑む。
なんとも、いやみな笑顔だ。とかおるは思った。
まったく、完璧に、探偵と容疑者だな。とも思った。
「立ち居地? ですわの?」
孝子が聞く。
「そう。つまり、これから先、彼女に対して、自分がどうするのか、自分で決めているんだよ。しかも、かなりネガティブな立ち居地だと、俺は思っているんだよねえ」
かおるは、参ったなといった顔をする。
「まあ、順を追って説明をしようか、かおるはさっき言った通り。序所に、精神に異常を起こし始めていた。簡単に言うと、自分を見失っていったんだ。そんなときに、事件が起こる。これは、かおるにとってだけどね」
そう、あれは事件だったのかもしれないな。とかおる思った。
「事件?」
誰かが言った。
これはみんなの疑問だ。
「2人の関係性に疑問符がもたれるものだよ。それは・・・・、彼女を想う人間が現れたことだ。しかも、それは、自分なんかよりもよっぽど、彼女にふさわしい人だと、誰もが思い。そして、かおる自身も想った人物、青沼 正治、彼が出てきたことが大きい」
かおるは、その場で目を瞑った。
「目を瞑って、そのままかおるは眠った・・・」
「いや、違うから!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。