かみ合っているようで、かみ合っていない件について(仮)
正子は、周りからの視線に気が付き、少し顔を伏せながら座る。
「どうしてですか?」
正子の声はさっきよりも低く、小さい。
「どうしても何も、宮内さんは俺との関係性が変になるくらいなら、俺に今回の契約についてのことは断ってくれってことだろ?」
正子が首肯する。
「なら、大丈夫だよ。別に契約を結んだところで、俺と宮内さんの関係が多少は変化するかもしれないけど、変になったりはしないからさ」
かおるは、そういいジンジャエールを飲んで、微笑んだ。
「でも・・・」
「いいんだよ。俺がオーケーしたこと、宮内さんから、伝えてもらってもいい?」
「それは、構いませんけど・・・」
正子は急な展開に、混乱しているといった様子だった。
かおるが、今回の契約の話を受けたのには理由が2つあった。
一つはもちろん、この土地のこと、さらには正子のことなどを考えてのことだ。そして、もう一つは、ハルカのことを考えてのことだった。
かおるは、この前宮内家に赴いた際に、自分があまり歓迎されていない、よく思われていないのは確かだと確信した。
つまり、向こうは、もしかすれば、この契約、つまり宮内家に隷属することを、かおるが断れば、何をしれくるかわからない。その影響がハルカに及ぶかもしれないというわけだ。
かおるは、それだけは避けたかった。
「なら、この話はこれで終わりだね。それで、本題っていうのは?」
かおるは、本題についてはここまでの会話から、思い当たるものがあった。それは、契約の話とも直結してくるものだとかおる考えていた。
「多分、今後の俺のことだよね?」
「・・・はい・・・・」
契約をかおるがすれば、彼は宮内家に隷属する。つまり、忍の言い方でいけば、彼らの手中に納まることになる。
ということは、これから、宮内家においても、彼の立ち居地が与えられることになる。
そして、もし、かおるが、契約を反故にすれば、それはそれで、宮内家が納める土地で、かおるの立ち居地がどうなるのかということになる。
かおるは、それを考えないといけない時期なのだろうなと考えていた。
「今後、ハルカさんと、どうしていくおつもりですか?」
「へ?」
かおるの口から、間抜けな声が漏れる。
「えっと・・・、今後の俺の立ち居地の話だよね? 多分・・・・」
かおるは、今度はしっかりと確認する。
「はい。そうです。今後、かおるさんは、ハルカさんに対してどういう立ち居地で接していくのかということです!」
正子は気合の入った声で言う。とても先ほどまで神妙な面持ちでいたとは思えない・・・・・。
そして、2人の会話はかみ合っているようでかみ合っていなかった。
(おっと・・・、ここでもこんな話になるのか?)
かおるは心の中でため息を漏らす。
「その・・・、どうして、それが本題になるんだろう?」
かおるは首をかしげながら尋ねる。
「それは・・(ライバル)・・だからです」
「ん?」
かおるには、正子の言葉が小さくておそらく肝心であるであろう部分が聞き取れなかった。
「まあ、なんでもいいじゃないですか! とりあえず。どうするんですか?」
正子は、かおるの疑問符を無視して続ける。
「いや、どうするも何も、別にいつも通りだけど・・・」
「いえ、かおるさん。かおるさんはいつも通りではありません!」
いつもの正子からは想像が付かないはっきりとした物言いだ。
かおるは、どうして、彼女がここまで熱を出して話をしているのかわからなかった。
「そう?」
「はい、そうです。といっても、わたしはかおるさんとは最近知り合ったばかり、つまり、かおるさんが力を手に入れてからですから、本当の詳しい変化のことはわかりません。なので、今から話すのは推測です」
「ちょ、ちょっと待ってくれない」
かおるは手を前に出して、相手を制する。
「その、話がいきなり飛躍していて、ついていけてないわけなんだけど、つまりは、この会話の中心議題は何なのかな?」
「つまりですね!」
正子は机に手を付く。
「は、はい。なんでしょうか?」
かおるは、その圧に気おされる。
「わたしはライバルとして、ハルカさんとは正々堂々と戦いたいわけなんですよ!」
「ライバル?!」
「はい!」
かおるには、この状況が何がなんだかわからなかった。最近のかおるの身に降りかかっている出来事の中でも今の現状が、一番謎で、どうすればいいかわからなかった。
だが、なんとか、かおるは頭を働かせる。
「えっと、つまり、宮内さんは、ハルカと戦いたいと?・・・・」
「そういうことです!」
「それは、正々堂々となんだよね?」
「ええ!」
「ってことは、能力の類は使わないってことだよね?」
「えっと・・・、とりあえず。小細工なしに正々堂々とです!」
かおるは、頭を抱えた。
まさか、正子がハルカとの対決を望んでいたとは・・・・。
もちろん、というか確実に、正子が雷の能力を使えば、確実に勝てるだろう。だが、彼女は正々堂々と戦いたいといっている。ということは、素手で能力を使わないでというわけだ。
かおるは、正子の腕を見る。
か細い腕だ。
(いや、無理だろう・・・)
「かみ合ってないねえ」
「だろ?」
「まあ、かおるが悪いけどね」
「え?」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。