一礼は必要な件について(仮)
かおるは次の日の朝、午前3時ごろに突然目が覚めた。そのとき感じたものは、何か嫌な予感がするというものだ。
「な、なんだ?」
かおるはそこで、脂汗が顔ににじみ出ているのに気が付いた。
その汗を手で拭う。
「ふう」
かおるは、その後、朝まで眠れなかった。
「どうしたのよ。その顔?」
案の定、朝七時、珍しくちゃんとした時間に、リビングに下りてきたかおるにハルカが言う。
「まあ、あんまり眠れなくてな」
「まあた。ゲームとかしてたんでしょう? 本当に、いい年して、何やってるのよ・・・」
ハルカは、かおるの顔を見て、あきれたという感じで、朝食の準備をすぐに始めた。
かおるは、重い頭を揺らしながら、いつもの席に座り、テレビをつけて、それをぼうっとした頭で見る。
テレビでは、将来有望な青年に対しての密着取材の映像が出ていた。なんとなく見ていたかおるだったが、テレビに映っている人物に見覚えがあるのに気が付く。
(おいおい、マジか・・・)
かおるは、しばらくしてやっと、脳が動き始め、テレビに映っているのが、誰か認識する。
青沼だ・・・・。
テレビで密着を受けていたのは、間違いなく、青沼だった。なんでも少林寺拳法関連の大会での実績などから、取材を受けているようで、現在、将来の夢についての取材を受けている。
「そうですね。将来は、貧しい子供たちのために活動できたらと考えています」
青沼がさわやかに言う。
その彼に、もう取材をしている女子アナの顔は、ホノ字である。
「その、青沼選手は、好青年で、学校でも人気なようですが、お付き合いしている人もいるんじゃないですか?」
かおるは、その質問は、女子アナ個人でも聞きたかった意見だろうなと思った。もしかしたら、アドリブなのかもしれない。
「はは、いや、残念ながら、それは今はいません。好きな人ならいますけどね」
そういい。青沼は微笑んだ。それがなんともさわやかだ。
「え? それは、誰ですか?」
おいおい、アナウンサー、マジ驚きじゃないか、とかおるは思った。
「それは、その・・・、後輩ですね」
青沼は頭をかきながら恥ずかしそうにして言う。
「それは、同じ部活のですか?」
「そこまではいえませんよ」
そこで、かおるはテレビのチャンネルを変えた。
なぜなら、ハルカが、キッチンからリビングに戻ってきたからである。
その行動は無意識のものだった。
「さ、食べましょう。って、どうしたのよ? リモコン握って固まって・・・」
「ん? ストレッチ?」
ハルカはその言葉に、とうとう頭がおかしくなったのかと、本当にかわいそうな目でかおるを見て、彼の前の席に座り。一人でいただきますをして、食べ始めた。
かおるも、少しの恥ずかしさを覚えながら、リモコンから、箸に持ち替えて朝食を頂く。
今日の朝食は、食パンと、スクランブルエッグと、サラダという組み合わせだった。
かおるは、スクランブルエッグとサラダを、食パンで挟んで、ほおばる。
「うん、うまいな」
「それは、ほとんど素材の味よ。生産者にお礼を言うのね」
その日、2人は一緒に登校することとなった。かおるが珍しく朝起きてきたのもあるし、ハルカが自由な時間が増えたのもある。
2人が、学校に向かって歩いていると、後ろから、かおるに対しての小言が聞こえてくる。相手はおそらくクラスメイトだ。内容は、どうして井上さんと、青沼先輩とがいい感じなのに、空気を読めないのか、と言ったような内容だった。おそらく、朝のテレビをクラスメイトが見ていたのだろう。あれを見た人間なら、必ず青沼の好きな人というのが、ハルカであると予想できる。あんなものは、所謂公開告白みたいなものだ。
かおるに対しての言葉が聞こえているのか、いないのか、かおるの隣に歩いているハルカの機嫌は悪くなっていっていた。時折、かおるのクラスメイトを睨む視線を送るが、彼女たちは、かおるを見ているので、それには気が付いていない。
「かおる!」
そのとき、後ろから声をかけられる。そして、その声は聞き覚えのあるものだ。
「あ、江良さん。おはようございます」
かおるは足を止めて、あいさつをする。その横で、ハルカも軽く頭を下げた。
「なんか、見んうちに、有名人になったのお」
「え?」
「だって、さっきあの子達がお前の話しとったで、なんやったかな?」
そういうと、江良さんは、小言を言っていたクラスメイトたちに近づく。
「君ら、なんかいいたいんやったら、直接本人にいったりいや! ほら!」
「え・・・いや、ちょっと・・・」
江良さんは、それを、他の小言を言ってた人達にもする。それを受けて、彼らは江良さんから急ぎ足で逃げていく。
江良さんはかおる達の元に戻ってくる。
「なんやろなあ、皆にげてしもたわ」
そう言うと、江良さんは大声で笑った。
それにつられてかおるも、軽く笑う。
「じゃあな、かおる」
「え? 学校に行かないんですか?」
「今日はちょっと、用事済ましてから行くねん。まあホームルームには間に合うから大丈夫や。元気でな!」
江良さんは、颯爽と走っていってしまう。
「なんか、豪快な人ね」
「だな、なんか助けてもらったな」
かおる達は、江良さんに向かって、一礼した。
「かっこいいねえ」
「だよなあ」
「俺もああなりたい」
「俺も」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。