ずっと一緒に住んでいるのにな件について(仮)
かおるの目に映る正子は、申し訳なさそうに、かおるを上目遣いで見る。
かおるは、努のほうを見た。
「結論は、今出さないといけませんか?」
「いや、流石にすぐとはいかないだろう。夏休みに入るまでに結論を出してくれればと、こちらもおもっているよ」
「そうですか・・・」
かおるは席を立った。
「なら、もう帰ってもいいですか?」
「せっかくきてくれたんだから、少しおもてなしくらいはしたいと思っていたんだが、どうだろう?」
宮内家のおもてなしを正式に受けてみたい気持ちはあったが、かおるは首を横に振る。
「いえ、帰ります。家にハルカが待っていると思うので・・・」
では、と。かおるは頭を軽く下げて、扉のほうに向かう。
「かおるさん!」
そのとき、正子の声がかおるに届く。
かおるは軽く振り返る。
「わたし・・・」
「いいんだよ別に」
かおるは、今にも泣きそうになっている正子に対して、やさしくそう言う。
「特に気にしてないからさ」
かおるは、そういい。そのまま扉に手をかけて開けて、その場を出て行く。そのとき、扉の横に立っていた竹市と目があうが、かおるも竹市も特にリアクションはしなかった。
ガチャン・・・
かおるの後ろで、扉の閉まる音がする。
そのとき、あることに気が付く。
(あれ? 俺ってどうやって帰ったらいんだ?)
宮内家はただでさえ、大きな家だ。その中はかおるにとっては迷路みたいなものである。
一瞬、戻って、誰かに付いてきてもらおうと思ったが、流石に戻りにくい。
「まあ、なんとかなるか」
かおるは仕方なく、迷路を進む。
- - - -
「遅かったわね」
かおるが家に帰ると、リビングには夕食の準備を終えているハルカが待っていた。かおるは急いで、スマホの通知画面を見る。いつも夕食の準備が整ったときにかおるが家にいないとき、ハルカはいつになるのかという確認連絡を寄越してくる。
だが、今日はそれが来ていなかった。
時刻は午後七時、昼食にはちょうどな時間だ。もしかしたら、夕食が出来上がったタイミングで、かおるが帰ってきたのもしれない。
しかし、ハルカは「遅かったわね」といった。ということは待っていたということではないか?
そんな思考が、かおるの頭の中を一瞬のうちに駆け巡る。
「ハルカこそ、早かったんだな。いつ帰ったんだ?」
「そうね。五時くらいかしら? ちなみに、食事は6時にはできていたわよ」
「え?」
そういえば、机に置かれているお皿には、サランラップがされていた。つまり、ハルカは、1時間ほどかおるを待っていたことになる。
「そ、そうなんだ。その・・・」
「別に怒ってなんかいないわよ。さ、食べましょう」
「お、おう」
ハルカの態度がどこかおかしい。なんというか、やさしい。それが、かおるには何か奇妙だった。
ハルカは、お皿を一つずつ電子レンジに運んでいき、温めをする。
そして、すべての料理が、出来立てほやほやのように湯気を立てて机に並ぶ。
かおるはハルカの顔をじっと見る。
「何よ? 食べないの?」
「いや、食べるよ。腹減ってるし」
お腹が減っているのは確かだった。
あの、宮内家の中でかおるは案の定、迷った。そして、結局、家を出るのに一時間、そこからさらに、自宅に戻ってくるまでに1時間近く掛かってしまい。その間、歩いては走り、歩いては走りを繰り返したので、このおいしそうな食事を見て、箸を進めずにはいられなかった。
「な、なんだよ?」
そんな、かおるのことを、ハルカはにやにやしながら見ていた。
「別に、なんでもないわ。ただ、おいしそうだなって思ってね」
「そりゃ、おいしいから、食べているわけだろ?」
「へえ?」
「だから、なんだよ?」
「別にぃ」
ハルカは意地悪な笑顔をかおるに向けてくる。
かおるは、何か照れくささを感じながら、いつもと違う雰囲気に戸惑っていた。
ハルカの意図が見えない。
かおるは、話題を変えようと思い。発言する。
「そういえば、何で、お昼、一週間なしなんだ?」
発言した瞬間、これはあまり良い話題ではないなと思ったが、仕方がない。かおるは続ける。
「部活も最近行ってないみたいだしさ。まあ、なんだ。話したくなかったらいいんだけど・・・」
かおるは、ハルカの様子を見る。
彼女の様子は至って変わらなかった。
「お昼っていうか、その、午後? は用事があるのよ。っていっても一週間だけだけどね。まあ、部活はやめようと思ってるわ」
「ふーん。そっか。怪我でもしたのか?」
ハルカが部活をやめる発言をしたのは、別に意外ではなかった。あのハルカが、二日間も部活をサボるなんてことはない。つまり、それに近いことなのだろうと、かおるは思っていた。
「あんたと違って、至って健康よ?」
「俺も健康だよ」
「あらそう? じゃあ、その顔は病気じゃないのね?」
また意地悪な顔だ。
「生まれてこの方、そんな診断は受けてないな」
「それは知らなかったわ。ずっと一緒に住んでるのにね」
「俺だって、ハルカのことを全部知ってるわけじゃないよ」
「じゃあ、私の好きな人って知ってる?」
「・・・唐突だな」
一瞬、かおるは固まってしまうが、それを悟られないように高速で返す。
「ちなみの、俺の好きな人はね。あれ?・・・誰だっけ?」
「自分の好きな人なのに、忘れたのか?!」
「うーん。失念した」
「信じられん!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。