奴隷契約な件について(仮)
正子が口を上げる。
「結界の耐久力を上げるために、かおるさんのお力を貸していただくわけですが、そうですね。最初に結界についてお話をしましょうか。結果は発動すると、時間とともに耐久力が落ちていきます。そして、その耐久力がゼロになると、結界が解けます。なので、結界に強力な力が加えられると、一瞬で耐久力がゼロになってしまい、結界が破られるわけです。ここまでは大丈夫ですか?」
かおるは首肯する。
「そして、現在のわたしと竹市さんのお力では、到底、耐久力のある、規模が大きな結界を作ることはできません。そこで、かおるさんのお力というわけです。最初に結界を張る際にかおるさんのお力を借ります。そうすることで、耐久力の強い結界を張ることができます。ですが、耐久力は時間とともに落ちていく。しかし、かおるさんほどの力を媒介にすれば、結界の耐久力は強大で、おそらく一ヶ月は、一流結界士が作った結界ほどの耐久力を保つことはできるでしょう。なので、常にお力をお借りするのではなく。一ヶ月に一回ほどお借りする形になると思います」
「そう」
かおるは、短くそういった。そして、疑問を口にする。
「でもそれは、何事もなかった際のことだよね? 攻撃があれば、結界の耐久力は落ちるわけだから」
「そうですね」
正子はかおるの言葉を肯定する。
「その際はまた、お力をお借りすることになると思います。ですが、強大な結界を張れば、相手もその結界を破るのに時間を要します。つまり・・・」
「強大な結界を張ることさえできれば、簡単には手を出してこないということ?」
「そうです。時間がかかってしまえば、相手に捕まる危険性が増しますから」
正子はそういうと、微笑んだ。
かおるは、いすに深く腰掛けて、背もたれに存分に背を持たれかける。
「協力してくれるかね?」
努が聞く。
「後、ひとつ説明してもらってません。契約についてです」
「ああ、契約というのはだね。いちいち力を借りるのには、相手に合う形でそれを変換させないといけないだろう? それを自動でするための変換機器みたいなものだ。契約さえすれば、力の受け渡しが容易となるわけだよ」
努の言葉は正しい。
かおるも、自分の力を誰かに譲渡する際、その力をできる限り使いやすいように変換してから、譲渡している。といっても、そのほとんどはベルゴが行っているわけだが。
「それに関しての、副作用的なものはないんですか?」
確かに、契約自体には利点しかなさそうだが、そこまで簡単なことなのか、かおるには疑問だった。
「副作用はない・・・」
その言葉にかおるは、何か歯切れの悪さを感じる。
「他には何があるんですか? それを教えてもらえないと、今回の提案には応じかねますね」
かおるは、自分でも驚くほど冷静であった。少し、今日の学校のことでいらだっていたことも原因しているのかもしれない。
バン!
「貴様ごときが、努様に口答えするな!」
そのとき、努から二席右側に座っている人物が机を叩き、叫ぶ。
身なりからして、それなりのお金持ち、さらに年は目の前にいる努よりも多少上と思われる白髪頭で、おそらく、地位もそこそこあるであろう人物である。
「いや、いいんです」
「しかし! あんな小童!」
「今、彼とは対等に対話したいと思っています。私もここまで彼が来るまでは、あなたと同じ思いでしたが、流石、漆黒の力を持ちし者だ。はだがびりびりしますよ」
その言葉を聞いて、その人物は苦虫をかんだような顔をして引き下がった。
「わかった。正子、教えてあげなさい」
努は、正子に説明を任せる。
「承知しました」
かおるは、説明なら、努がすればいいものをなぜに正子に任せるのか疑問であったが、その意味は後にわかる。
「契約の利点は先ほど、お話があった通りなのですが、かおるさんのご指摘の通り、副作用とまではいかないでも、ある条件があるのです」
正子の表情は先ほどよりも暗いもののようにかおるは感じた。
「条件?」
「はい、正確には条件というか規約みたいなものです。契約を結ぶ際、契約者に親と子というものを決めねばなりません」
「親と子?」
「そして、ここが一番大事なところです。親と設定されたものは、子と設定されたものから、無制限に力の譲渡を受けることができます。いえ、正確には無理やりにでも力を奪うことができるというわけです。つまり、わたし達が、かおるさんに提示している契約とは、かおるさんを言うなれば、わたしの力の源、燃料になれと言っているも同然というわけです」
かおるはそれで、いろいろと納得した。努がわざわざ正子に説明を任せたのもだ。つまり、宮内家はかおるのことを支配したいわけだ。土地を守るということもあるだろうが、かおるの力を利用したいわだ。そして、それにより、正子の力を強めたい。そうすることで、将来正子が管轄理事に就任したとしても、安泰というわけなのだろう。
正子は言葉を濁したが、今回の提案は、彼に宮内家の奴隷になれというわけである。力を奪われるのならば、かおるが正子に戦闘で勝つことはできなくなるわけだからだ。
そして、その事実を努は正子に言わせることで、かおるの中にある反発心を少しでも除去しようというわけである。
まったく、何が対等なのか・・・、策士だなと、かおるは思った。
「かおるもついに奴隷か・・・」
「なんで、そこしみじみしてるんだよ?」
「だって、やっと、奴隷まで上がったんだよ?」
「え、どういうこと?!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。