完璧な男な件について(仮)
ハルカが遅くに帰ってきたその夜、かおるは右腕の激痛で寝ることはできなかった。
「おはよう・・・」
「おはよう、って、何よあんた。その陰気な顔をさらに陰気にした顔は?!」
リビングに入って、ハルカからすぐに罵声が飛んでくる。
「いやあ、昨日、パソコンでネットサーフィンしていたら、気が付けば朝になっててさ」
「はあ、あんたは少しはまともになったのかなって思ってたけど、やっぱり最悪だわ。どうして朝から、あんたみたいな人間の顔を見ないといけないのかと思うと、もうやってられないわね」
かおるはリビングの長机の椅子に座る。
「俺は、そうでもないけどな。むしろ、安心する」
「はあ? 何がよ?」
かおるは、ハルカのほうを見る。今彼女は、机を挟んだ正面に座って、先に朝食を食べていた。
「ハルカの顔を見ることだよ」
「なっ!」
ハルカは、席を立ち。かおるの横に回ってくる。
「え?」
ドコン!
鈍い音がリビングに響く。
気が付けば、かおるは、仰向けに倒れていた。
「変なこと言わないでよね!」
ハルカはリビングから駆け出していき、2階に上がっていく。
(おい、ベルゴ、お前、俺を守ってくれるんじゃなかったのかよ?)
《あれは、愛情の裏返しだろ?》
(そんな、漫画みたいな話あるかよ。少林寺拳法部のエースが、素人相手に全力のパンチかまして来るんだぞ? しかも、いちいち周りこんできて)
《そんなこといいながら、表情がほころんでるぞ》
かおるの口角はあがっていた。
別に自分がMだという認識はない。だが、なぜか、彼女に殴られることに安心する自分もいた。
「よっこいしょ」
かおるは起き上がり、倒れた椅子を直して、席に座りなおす。そして、机に残っている朝食を食べ出した。
そのとき、ふと思う。
(あれ? ハルカが朝いる?)
今日は土曜日だ。なので、学校は休みである。
とはいえ、部活道は別である。特に、ハルカが所属している少林寺拳法部はさらに別だ。昨日彼女が言っていたとおり、テストが終わると、その分できなかった分追い込みをかける。
なので、今日、彼女は七時には学校にむかているはずであった。
(昨日、遅かったのもあるし、休みなのか?)
だが、昨日遅くなったのは部活以外の原因もあると、かおるは思っていた。
かおるは、朝食を食べ終わった。
ピンポーン!
そのとき、玄関のチャイムが鳴る。
かおるは、いつもハルカがいるときは、インターホンには出ない。だが、なぜか今回はハルカが上から降りてこなかった。
ピンポーン!
もう一度チャイムが鳴る。
かおるは、インターホンの内部カメラの場所まで向かう。そして、訪問者を見た。
「・・・・・・」
かおるは、玄関に向かう。
そして、扉を開けた。
「何でしょうか?」
かおるがそう問いかけた人物は、かおるを見ると一瞬驚いたという顔をしてから、平静を保った。
「彼女の言葉は本当だったんだね。まったく、驚きだ」
「はあ・・・」
「おっと、すまないね。俺の名前は青沼 正治、男子少林寺拳法部部長だ」
「はあ、まあ知ってますけど」
青沼、正治は、かおる達の2つ上の高校三年生だ。少林寺拳法部の型で、昨年全国優勝を果たし、団体演舞でも優勝を見事に達成した人物である。
彼の業績はそれだけではない。その他にも、中学時代には空手で全国ベスト4、柔道で全国大会出場、高校一年生のときには、掛け持ちで所属していた弱小ボクシング部で初のインターハイ出場を果たしている。
しかも、彼の特筆すべきところはそこだけではなく、勉学もできる文武両道というところである。
模試ではいつも全国上位10人に名前が載っており、高校卒業後は日本の大学に行かず。海外の大学を視野に入れていて、今年、将来はこの世の中から貧困の子供をなくしたいという作文が、文部科学大臣賞を獲得したと学校で表彰されていた。
そんな彼を、いくら教室の隅、(最近では中心となりつつあるが)にいるかおるといえども知らないはずはない。
「そうか、なら話は早い。ここは君だけじゃなくて、ハルカ君の家でもあるんだよね?」
「はあ、まあそうですね」
かおるの態度は横柄なものだった。だが、正治は特に気にしていない様子である。
「彼女を呼んでくれないかな?」
「どうしてですか?」
「君には関係がないことだよ?」
「そうですか。ちょっと、待っててください」
そう言って、かおるはドアを閉めた。
「ふー」
かおるは大きなため息をひとつ漏らす。
目的はハルカか・・・・。
かおるは2階に向かう。そして、ハルカの扉をノックした。
「ハルカ」
「何?」
ハルカはドアをゆっくりと開いた。その表情は少し悲しそうな感じであった。
「男子少林寺拳法部の部長が来てる」
「そう・・・」
ハルカは短くそういうと、部屋から出てきた。そして、玄関へと向かう。
「あんたは、来なくてもいいわ」
かおるは、彼女の後に続こうとしてそういわれる。
「そうか。気をつけろよ」
「相手は、あの青沼部長よ。変なことはしてこないわよ」
ハルカはそういい、微笑んでから、下に下りていった。
かおるは、階段の上から、2人の会話を聞く。
「すまないね。こんなところまできてしまって」
「いえ、私も悪かったですから、あの、ここじゃあれなんで、外でもいいですか?」
「ああ、そうだね」
バタン・・・
扉が閉まる。
「かおるに勝ち目はない!」
「おい!」
「でもそれが真実でしょ?」
「まあ、その通りだけど・・・・」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。