トリガーが必要な件について(仮)
典夫は、じりじりとかおるに近づいてくる。
「君をどうにかしないと、彼女を僕のものにはできないみたいだね」
「トシコは、ものじゃねぇぞ」
その発言にまたトシコが顔を真っ赤にする。
いいかげん慣れてほしいと、かおる思った。
かおるは、自らの周りに黒炎のバリアを張る。そして右腕に黒炎を纏う。
「それが、漆黒の力というものか、この距離でもわかるすばらしい力だ」
そういいながらも、典夫の顔は自身満々であった。
完璧にかおるのことをなめている顔だ。それについては特に何か感じているわけではなかったが、この忍のごたごたに巻き込まれてから、いろいろとデリカシーのない言葉を投げかけられていた中で、後に典夫が戦闘中に言う言葉がかおるの激情を誘うこととなる・・・
「だが、いくら強大な力を持っていたとしても、それを扱うものが未熟だと意味がないよ」
典夫は、両手にクナイを持ち、かおるに向かってくる。
「かおる!」
「トシコは、下がってろ!」
かおるも、典夫に向かう。
典夫がかおるの目の前から消える。これは正確には消えたのではなく。かおるの動体視力では付いていけない速度で動いたわけだ。
「!!」
気が付けば、典夫はかおるの目の前にいた。
彼が、クナイでの攻撃を仕掛けてくる。だが、クナイはかおるの目の前で消え去る。これはかおるが、張っているバリアのおかげである。が、典夫は続いて、もう一つ手に持っているクナイで攻撃を仕掛けてくる。
「!?」
そのクナイが、バリアを通って、かおるの顔に迫る。それをかおるはなんとかかわすが、その切っ先が頬を掠める。
かおるが膝を着く。
「はあ、はあ、はあ、毒か・・・」
典夫がかおるを見下ろす。
その後ろでは、敏夫とその息子で、トシコの弟である勇次が、かおるを見ている。
(しくった・・・)
かおるのバリアは、破られたのではなく。気が付かないうちに消えていた。
ただでさえ、消耗していた力が、無理な川くだりでさらに消耗してしまった。かおるの中にはもう、漆黒の力を扱うだけの力が残っていなかった。
それに副作用も出始めている。
これを典夫は自分の力だと、勘違いしている。
「安心してくれてもいいよ。この毒は死に至るようなものではないから、でも体に激痛は走るだろうけどね」
かおるは、免疫が落ちてきている中での毒で、もうすでに激痛に襲われていた。
「かおる!」
トシコの言葉もよく聞こえない・・・
「まあ、君みたいな愚鈍で愚かな人間が忍の世界に足を踏み入れてたのがよくなかったんだよ。これを機に自らの行動を反省するんだね。その幸が薄そうな顔に似合った生活をするべきだと思うよ」
耳が遠くなっている中でも、その典夫のかおるに向けられた言葉は、はっきりと聞こえた。
普段なら、聞き流すことができただろう。だが、今回はそうは行かない。かおるは、今までの流れからストレスが溜まっていた。
「はあ!?」
かおるの中に激情が隆起する。
その瞬間、かおるは自分の中の力が増すのを感じた。
漆黒の力は宿主の感情が大きく作用する。それは人によって違うが。かおるの場合、普段あまり怒ることが少ない彼にとっては、怒りがそのトリガーとなっていた。
(ベルゴ、体の毒を消せるか?)
《できるぞ。多少体に痛みが走るがな》
(今でさえ激痛なんだ。やってくれ)
少しして、かおるの中から激痛がなくなり、視界、聴覚がクリアになる。
「な!」
典夫の下から、黒炎が飛び出す。
それを、典夫は身をよじってかわし、かおるから距離を取る。
かおるは、立ち上がり、トシコの周りに再度結界を張る。
「いくらなんでも、俺でも怒るぞ。そこまで言われたらな・・・、誰が幸薄男じゃ!」
- - - - -
かおるは、黒炎を典夫に放つ。
だが、黒炎の速度は彼の速度よりも遅いので、典夫は避ける。
「どうやって、回復したのか知らないけど、さっきも言ったよね。君が未熟なら無駄だって」
典夫がかおるの後ろに回りこむ。
「君のそのバリアは強力みたいだけど、それだけじゃ忍には勝てないぞ!」
典夫が、かおるに向かって催涙弾を投げる。いくらバリアであっても物理攻撃以外なら聞くと思ったからだ。
爆炎が起こる。
この催涙弾は典夫には聞かない。なぜなら、忍は常に何かの耐性をつけるためにいつも努力をしているからだ。
典夫は相手が、弱まるのを待つ。
だが、彼の思惑は外れる。
彼が放った催涙弾による爆炎は、彼の目の前ですべて焼き放たれる。
「どんなものでも、焼いてしまえば無駄だろう?」
油断していた典夫の前には、気が付けばかおるが目の前にいた。
典夫は、距離を取ろうとするが、足に黒炎を巻きつけられ、ひきつけられ、典夫の顔面にかおるの鉄拳が叩き込まれる。
典夫は、なんとか受身を取り、距離を取る。
ダメージがひどい。これでは、満足に戦うことができないな・・・
典夫は敏夫の下に行く。
「すみません。あれをいただけますか?」
「わかった。俺達もあの男を倒す手助けをしよう」
典夫がもらったものは、篠原家秘伝の薬で、ある程度の傷なら一瞬で回復するものだ。副作用はあるが、重宝されているものである。
自分ひとりで倒したかったが仕方がない。典夫は頷く。
「行くぞ勇次!」
「はい!」
3人で3方向からそれぞれ攻撃を加える。その攻撃の連携した数は数百にも及ぶものだった。
「そんな・・・」
「ありえない・・・」
「・・・・」
だが、彼らの攻撃は何、一つ、かおるに届かなかった。
「トリガー!!」
「いや、そんな感じのじゃないから」
「トリガー! オン!」
「それ違うやつ!」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。