格好の悪い男な件について(仮)
「何言ってるんだ。お前は漆黒の力を持ってるんだぞ。こんな崖楽勝だって」
「いやいや、これは関係ないだろ!」
「もう! 早くしないと父上が来ちまう! 行くぞ!」
「ちょ!?」
トシコはかおるの手を引っ張って、崖がら飛び降りる。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
かおるの目からは涙が下ではなく上に流れていく。
これは、どんな絶叫マシーンよりも怖い。そりゃそうだ。だって、本気で死ぬかもしれないから・・・
- - - - -
「父上! トシコが逃げました!」
「何!?」
トシコの父親、敏夫の元に、トシコの兄であり、篠原家次期当主、篠原 義信が急いで来る。
彼は2人が捕らえられていた場所の監視を行っていた。
「どうやってあの鎖を・・・、いや、そんなことはいい。トシコはどこに行った?」
「崖に飛び込んでいきました。今、勇次が追いかけています。ですが、トシコは俺達が知っているときよりも大分力を増しているので、勇次ではまかれてしまうかと・・・」
「そうだな。勇次も、まだ数えで14・・・、よし、俺が出よう」
敏夫は、横に座っている人物を見る。
「そういうことなんだ。すまない、少しお待ちいただいてもいいかな? 典夫君」
典夫と呼ばれた人物、彼のフルネームは、阿久津 典夫。
トシコと見合いをする予定であった人物だ。
「そういうことなら、僕も行きましょう、未来の花嫁ですからね。迎えに行くというのも粋ですよ」
典夫はそういうと、笑顔で立ち上がった。
「君が居てくれると、安心だな。何せあの阿久津家の次期当主で、忍界でも、すでにトップクラスの力を持っているんだから」
「しかし父上! 相手には、あの漆黒の力を扱う者がいるのですよ。いくら典夫殿がいるとしても、何か策を練ったほうがいいのでは?」
「ああ、あの、お前が利用価値があるかもしれないと連れてきたやつか、だが、あのかおるというのと対峙してみたが、しょうもない男だったぞ」
「しかし・・・」
義信が煮え切らない表情をする。
「まあ、安心しろ。阿久津君がいれば、漆黒の力なんて屁だ。な!」
敏夫が典夫の肩をポンと叩く。
「ええ、任せてください」
「さ! それでは、2人で行ってくる。義信、後は任せたぞ」
「わかりました」
敏夫が颯爽と典夫とその場を出る。
それを、不安そうに義信が見送る。
- - - - -
「があ、があ、があ、があ」
「いやあ、いい気持ちだったな!」
腰に手を当てて、背をピンと伸ばしてトシコが言う。
怖かった・・・
今回のダイビングで思ったことはそれだけだ。
トシコは崖の下の地面が見えた頃に、どこからか風呂敷を取り出して、それをパラシュート代わりにし風の抵抗を受けて落下速度を落とすことによって、着地するという。なんとも忍らしいやり方だったのに対し、かおるは、地面まだ後、二メートルという距離になっても何もできず。最終的にベルフェゴールが黒炎でクッションを作ってくれて、それで着地するというなんとも格好の悪いものだった。
そして、現在かおるは、地面にひざを着き、手を付き、自分の命があることに心から神様に感謝をしていた。
(サ・・・サンキュー、ベルゴ・・・)
《構わん・・・、ここでお前に死なれても面倒だからな》
(はは、流石だぜ・・・)
かおるは、なんとか息を整える。
「ふー」
着地から数十秒経って、やっとかおるの息が整う。
「それで、篠原、これからどこに向かうんだ?」
「そうだな。まずはここがどこなのか、詳しく知りたいところだけど、俺の予想だと西にいるわけだ。ってことは東に向かえば、どこか知っている場所に出るだろう」
そういうと、トシコは胸から方位磁石を取り出した。
「こっちだな」
「え?」
トシコがいきなり走り出す。かおるもあわてて後を追う。
「それ正確なのか?」
かおるは獣道を走っていくトシコに必死についていきながら聞く。獣道でかおるに当たる木の枝などは、かおるが張っているバリアで防がれるので、彼に傷は付かない。
「これは、特殊なやつで、どこでも正確に北を示してくれるんだ。安心してくれ」
「それと、もう少しペース落とせないか? ちょっときつい」
かおるは、普段運動しない帰宅部で、しかも休みの日はゲームをしているというインドア派だ。漆黒の力を手に入れてから、体力がなぜか上がったが、それも忍であるトシコに比べれば、素人に毛が生えた程度のものだ。流石にきつかった。
「匂いから、後少しで川にたどり着くと思うから我慢してくれ」
「わ、わかった」
トシコは後少しだといったが、それから、結構な時間が経ってから川にたどり着いた。
かおるは、すぐに川の水を飲む。
かおるが水を飲んでいる間、トシコは周りを見渡していた。
「はあ、はあ、どうかしたの?」
「いや、少し誰かに見られてるような気がしたんだ」
「誰かに付けられてるってこと?」
「いや、もう視線は消えた。もしかしたら、たまたま俺達を見つけた他の忍かもしれない」
「そっか。よし、俺はもう大丈夫だ」
かおるは伸びをする。
「ナイスダイビングだね!」
「マジで死ぬかと思った・・・」
「またまたあ」
「いや、マジで、どんな戦いよりも怖かった・・・」
小説の中身で気になることがありましたら、感想でもなんでもお尋ねください。書けていない裏設定など、そこで説明したいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
二十四日まで、感想のご返事が遅れるかもしれません。申し訳ありません。