右手になんか刻まれちゃった件について(仮)
漆黒のときは来たり
闇に飲まれる日は近い。
今目覚めのとき、暗黒廠雲皓
貴殿だけが、救いとなるのだ。
そのとき、彼は目覚めた。時刻は午前二時、体には汗がぼんやりと染み付いている。稲垣かおるはその汗がいやで着替えることにした。こんな時間に目が覚めるなんて不吉だな。そんな風に思いながらである。
そのときある閃光が彼の部屋を照らし出した。
「うわ!」
彼は自分の目を覆う。少しして目を開けれるまで落ち着いた。
「えっ? なんだこれ?」
彼は自室の窓に近づく。そこにはある魔方陣がおかれていた。見るところ見覚えがないものだったので、恐る恐るそれを手に取る。するとその魔方陣が紙から解き放たれ右腕に吸い込まれるように刻まれていく。そのあまりの激痛にかおるはもだえる。
うあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
そのとき、ドアがたたかれる。
ドンドンドン!
かおるはその音にびくっと反応する。
「ちょっとどうしたの? うるさいんだけど。」
その声は、かおるが居候している家の井上さんの娘である幼馴染のはるかであった。彼女はかおるの横の部屋である。
「あっ・・・いや、ごめん。ちょっとゴキブリみちゃってさ。大声出しちまった。ほんとごめん。」
「男なのにだらしがないなあ。勘弁してよね。明日お昼おごりだからね。」
「ああ。わかったよ。」
はるかは隣の部屋へと帰っていった。彼女が来たころにはだいぶ痛みが引いていたので普通にやりとりができたのでよかった。それにしても夜うるさかったくらいでお昼をおごらせるとはとんだ野郎だ!
そのときふと激痛のはしった右腕が大丈夫かどうか見る。
「なんじゃこりゃああああああ!」
ドン!
「うるさい!」
かおるの声にはるかが壁をたたいて抗議した。しかしかおるはそれどころではなかった。右腕にまがまがしく文様が刻み込まれていたからだ。それはよくみると右腕のひじまで伸びていた。
その夜、かおるは寝ることができなかった。朝、寝不足の彼の顔を見てはるかが言う。
「もともとぶっ細工な顔が、今日はさらにひどいわね。やっぱりバイトでもしてお金をかせいで、整形でもしないといけないんじゃない?」
「お前は相変わらず元気だな。はは。」
かおるは、はるかの辛らつな言葉を受け流す。これはいつものことである。しかし、今日はいつも以上に覇気のない様子にはるかは気に入らないのかさらに突っかかる。
「そんなんだから、女の子に気味悪がられるのよ。みんな言ってるわよ。稲垣君てなんか変な人だよねえって。ほんとこんなやつと一緒に暮らしてるなんて、人生最大の悲劇よ!」
「こんなやつと話をしてくれて、心からの感謝でいっぱいですよ。」
相変わらずのかおるの反応に、はるかは見るからに不満があるらしく、朝食を食べてからすぐに学校へと出ていった。といっても、一緒に学校に行っているわけではないので通常通りである。
かおるはゆっくりとパンを食べている。現在彼の頭の中は、怒っている幼馴染をどう諫めるかというものではなく、昨夜の不可思議な出来事により身に起こった変化についてであった。