ケンタの願い
「こんにちは!そしておめでとうございます!!見事、貴方が天国宝くじの当選者に選ばれました!!」
一人ぽっんと託児所の本を読んでいた少年に元気良く告げたスーツ男。
暫く沈黙が流れ………
「……おじさん、だぁれ?」
ぽーっと不思議な生き物を見る目でケンタはスーツ男を見た。
「お、おじさんって歳でも無いんですけどねー」
スーツ男は悪意のないケンタの言葉に若干傷付いた。
何故、子供の無垢な言葉はこんなにも破壊力があるのだろう……
「おじさん、ママのおともだち?それともパパもおともだち?」
そんなは知らずと首を傾げ、ケンタはスーツ男に訪ねる。
「(ここで違うって言ったら怪しまれますしね……)」
「うん。そうだよー。お兄さんはパパとママの友達だよー」
一先ずパパとママの友達という事にした。
違うっと言えば不審者確定になる。
「そうなんだ……でも今パパとママいないよ」
「今日はお兄さんはケンタ君に用事があるんだー」
ケンタの隣に座りスーツ男は、にっこりっとほほ笑みかけた。
「ぼくに?」
「うん。ケンタ君の願いが一つだけ叶うんだよー」
「ねがいこと………」
「そうだよー!好きなおもちゃが欲しいとか!」
スーツ男は楽しそうにケンタに説明をした。
しかしケンタは首を横に降った。
「ぼく………おもちゃ、いらない」
「ん?おもちゃ欲しくないの?」
「うん……」
「んー…じゃあ!今人気の戦隊ヒーローに会いたいとか!?」
「ううん………あいたくない…」
「(え!違うの!?鉄板だと思ったのに!!)」
スーツ男は少し慌てた。
5歳の男の子が欲しそうな物を調べたのが全部外れたからだ。
「え…えーっと…じゃあケンタ君は何が良いのかなぁ……」
「ぼく……パパとママをげんきにしてほしいの…」
小さな声でケンタは呟いた。
しかし、とても悲しそうな声だ。
「パパとママを……元気に…?」
「うん。パパとママ…ずっとげんきないの……」
段々と声に元気が無くなり、ケンタは俯いた。
スーツ男は白の鞄から、分厚いファイルをとり出し、パラパラっとページをめくった。
「(……えーっと、この子はナカムラケンタ。男の子……ん?)」
「ケンタ君。一つだけ質問しても良いかな?」
「うん」
「ケンタ君のママ……今病院にいるのかな?」
「うん。ママね。少しだけちがうばしょで、ねんねするんだ……ってパパいってた」
「(なるほどね……しかし…まぁ、これ位なら問題はないでしょう………)」
ファイルを閉じ、ケンタを励ます様に話し掛けた。
「よし!じゃあケンタ君!君の願いを叶えてあげよう!!」
「…ほんとうに?パパとママげんきにしてくれるの?…」
「もちろん!」
よしよしっとケンタの頭を優しく撫でた。
「おじさん!ありがとぉ!」
「おじさんでは無くて、お兄さんですよー。じゃあケンタ君、君の願いはパパとママが元気になることだね?」
「うん!!」
「かしこまりました!ではケンタ君!貴方に幸あれ!!」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ケンタ!遅くなってごめんな!!」
「パ……パパァ?」
寝ぼけ眼でケンタは父親の顔を見た。
「ケンタ!嬉しいニュースだ!ママが帰ってくるぞ!!」
ケンタを抱き上げ父親は心底、嬉しそうに言った。
それを聞いたケンタの表情がみるみる明るくなり始めた。
「ほんとうに………ほんとうにママかえってくるの!!」
「本当だぞ!ケンタ!ママが家に帰って来るんだ!」」
もう、ずっと一緒だぞーっと嬉しそうに父親はケンタを抱き締めたまま、くるくると回り始めた。
「やったぁ!!あのおじさんがねがいをかなえてくれたんだ!!」
おじさんっと単語が出た途端、ピタッと父親の動きが止まる。
「おじさんって……?」
「うん!パパとママのおともだちっていってたぁ!」
「……それってどんなおじさんなんだ………?」
「んとね………ぜんぶまっしろけのおじさんだったよ!」
「(少なくとも全身真っ白の友達はいねぇ!!)」
ニコニコと嬉しそうに伝えるケンタとは裏腹に父親は冷や汗をかいた。
「病院の託児所だから大丈夫って思ったが……やっぱ防犯ブザー持たせよう……」
ケンタに気付かれない様に小さな声で父親は呟いたのであった。
それから暫く経ち、ケンタの母親は無事に退院した。
母親の担当医は信じられない、信じられないっと退院するまでずっと言ってたそうだ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「パパー!ママー!はやくー!!」
トラの形をしたリュックサックを背負い、ケンタは父親と母親を呼んだ。
今日は退院祝いで家族全員で動物園でピクニックだ。
「ケンター!そんなに走らなくてもゾウさんは逃げないわよ!」
「ケンタは動物大好きだな!!」
父親と母親はケンタの手を繋ぎ優しく話し掛けた。
「うん!大好き!はやく!はやく!」
ケンタは太陽みたいな笑顔を浮かべながら、二人の手を引き動物園に向かい始めた。
その様子を眺めている姿が……
「ケンタ君の願いも無事に叶いましたね」
缶コーヒーをひと口飲み、スーツ男は満足そうに微笑んだ。