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天国宝くじ  作者: 三毛猫
2/5

ミネコの願い

パッ!パーン!!

「こんばんは!そして、おめでとうございます!見事天国宝くじが貴方に当選しました!!」




「…新手の詐欺ですか……?」



ミネコは警戒心丸出しでクラッカーを片手に持った……

スーツも白

ネクタイも白。

Yシャツも白。

靴も白。

持っているスーツケースも白。

掛けている眼鏡も白。

全身真っ白のスーツ男を睨み付けた。

ただし髪の毛は黒。



「やっぱり警戒しますよねー」



スーツ男も苦笑いで答えた。



「すいませんねー。これ私も嫌なんですよー。でも上司の命令ですからねー」



クラッカーで飛び出た紙屑を手際よく片付けながらスーツの男はミネコに謝罪した。



「はぁ……」



「まぁ。新手の詐欺では無いのでご安心ください。あ、これ燃えるゴミなので」



「てか、天国宝くじって何ですか?」



思わずクラッカーの紙屑が入ったゴミ袋を受け取ると同時にミネコは訪ねた。

怪しいオーラ満々だが、不思議と悪い人には見えない。

何故だろう?



「天国宝くじはそのままの意味でございます。」



胸を張って答えるスーツ男。

少しドヤ顔で。



「いや。そのままの意味って言われても分かんないし…」



「では、改めてご説明しましょう。少々長いので、中に入ってもよろしいでしょうか?あとミルクを一杯くださいな」



こんな時間に知らない(おまけに怪しい)人間を部屋に入れるのはどうかとミネコは迷ったが……



「(まぁ、何かされたら防犯ブザーとフライパンあるし…大丈夫か)」



どうぞ…っと中に招き入れた。



「まず、天国宝くじとはこの世にある宝くじと同じでございます」



スーツ男は白の鞄から天国宝くじが詳しく記載された書類をミネコに渡した。



「私が勤めている天国会社では、この世で生きている全ての生き物に個人番号を振り当てております」



「(天国会社!そのままやん!)」



ミネコは心の中で突っ込みを入れた。



「そして!年に一度、社長がスロットで決めた番号と同じ個人番号の持ち主の願いを叶える!!そう!それが天国宝くじ!!まさに夢の宝くじなのです!!!」



やりきった感、満載でスーツ男はミネコを見た。

ミネコは冷静にミルクを出して一言。



「ミルクどうぞ。飲んでいる間に110………いや119の方が良いかな?」



スマホ片手に真剣に110、119のどちらに助けを求めるべきなのかミネコは悩んでいた。



「ナチュラルに警察と救急車を呼ばないでください。地味に傷つきますよ」



「いや、不審者通り越して可哀想な人なのかなって……」



「少し泣いても良いでしょうか?」



「(もう泣いてるやん…)」




「だって、どう見ても普通の……いや、かなり可哀想な妄想に取りつかれたサラリーマンにしか見えなくて」



少し言い過ぎたっと反省し、ミネコはスーツ男に箱ティッシュを差し出した。



「可哀想は余計ですね……まぁ、つまり私が天国の人間に見えないから信用出来ないと?」



豪快に鼻水をかみ、スーツ男はミネコを少し睨み付けた。



「それね。 だって背中に羽根無いし、頭に輪っか無いもん」



「輪っかとか背中に羽とか今は廃れてますよー。とは言え、証明するのは少し難しいですね………この世のサラリーマンと変わりませんからねぇ……ただ」



「ただ?」



「天国宝くじ当選者の個人情報が解る事位ですね」



白のスーツケースから、分厚いファイルを取り出し、パラパラとめくり始めた。



「じゃあ、私の情報も?」



「勿論!えーっと、貴方のお名前はヨシムラミネコさん。女性。19XX年1月26日産まれ、好きな食べ物は賞味期限ギリギリの納豆を食べること。あと人生最大の汚点は間違えてお父さんのパンツを履いたまま初デートに挑んだこと。あとは……」



「もう良い。やめて本物の天国の人間って解ったから」



賞味期限ギリギリの納豆とお父さんのパンツを履いて

初デートに挑んだ事はミネコのトップシークレットなのだ。



「ご理解頂けて何よりです。」



にっこりっとほほ笑み個人情報が入っているファイルを閉じた。


「しかし何故、お父様のパンツを…」


「それ以上言うなら警察呼ぶから」



「誠に申し訳ありません」



ミネコの怒気の含んだ声に直ぐ様スーツ男は謝罪した。



「とりあえず信じるとしても……当選したら何か貰えるの?現金?」



大きなため息をついてミネコはスーツ男に訪ねた。



「先程もご説明した通り、願いを一つだけ叶える権利が与えられるのです」



「んー……じゃあ億万長者は?」




「勿論、可能でございます。ただ……」


苦い顔をするスーツ男。



「ただ?何か問題があんの?」



「はい。この願いですと、億万長者になるには、まずヨシムラ様にこの世の宝くじをご購入いただきます」



「(結局、こっちの宝くじ買うんかい!!てか宝くじの当たって億万長者なんかい!!!)」



再び心の中で突っ込みを入れたミネコ。



「ヨシムラ様がご購入した宝くじが一等当選し、そして見事に億万長者になるのですが、本当にどうしようもない屑で下衆な男10人に言い寄られて、最終的には裁判になってしまい、身も心も疲れ果てる結果になります」



「…………なにそれ?本当に屑で下衆な男しか言い寄ってこないの?」



「誠に残念です……」



とても可哀想な目でミネコに合掌するスーツ男。



「合掌はやり過ぎじゃない?…じゃあ……絶世の美女は?」



「それも可能でございます。明日の朝、目覚めたら絶世の美女になるっという感じになります。ただ…」



「ただ?また何かあんの?」



「ヨシムラ様が絶世の美女になり、町を歩いていると有名デザイナーから直々に声を掛けられ、その方のファッションショーに出る事が決まり、トップモデルの仲間入りになります。」



「トップモデルになれるなら、ハッピーエンドじゃないの?」



首を傾げるミネコにスーツ男は言葉を続けた。



「が………トップモデルの女性達からネッチネチ!!もうドォロドロ!の嫌がらせ&いじめにあい、更に絶世過ぎる為に整形疑惑でスキャンダルな感じになり、身も心も疲れ果てる結果になりますが?」



「え?整形して綺麗になる感じなの?」



「違いますよ。絶世の美女の顔をヨシムラ様の顔に当てはめるだけで、整形ではありませんよ!メスは使いませんし!!」



「当てはめる……のは整形では無いよね…うん………大丈夫…か?」



当てはめるってのも、どうなんだろう……っとミネコは少し疑問に思った。



「でも結果的には身も心も疲れ果てるんでしょー」



「左様でございます」



「悲劇過ぎる………てか、他の人はどんな願いだったの?」



「それは個人情報保護法に違反してしまうので、教えるわけにはいかないのですよ」



スーツ男は首を横にふる。

天国でも個人情報の取り扱いは慎重らしい。



「参考にしようと思ったのに……あっ!素敵な恋人と幸せになる!!…………って身も心も疲れ果てる結果になるか…」



バタリっと力なく倒れるミネコ。

しかし予想外の答えが返ってきた。



「恋人でしたら……身も心も疲れ果てる結果にはなりませんが?」



「うそ!マジで!!」



嬉しい答えにミネコは勢いよく飛びスーツ男に近づいた。



「うぉぅ!?は……はい。それでしたら疲れ果てる結果ではありません。ただ何時出会えるかは不明になりますが………それでも大丈夫でしょうか?」



まぁまぁっとスーツ男は興奮しているミネコを落ち着かせ様とする。



「それだと、こっちも解らないじゃん……何とかしてよ」



「うーん……今ヨシムラ様にお相手を教えるのは少々、厄介な事になるもので……あ!それでしたら、そのお方にお会いした瞬間、ヨシムラ様の頭の中で一番好きな音楽が流れる様になるのはどうでしょうか?」



名案だ!っと言わんばかりに、今度はスーツ男がミネコに近づいた。



「えぇ!?…頭に音楽が流れ……って……まぁ、良いや……」




「では、改めてご確認させていただきます。ヨシムラ様の願い事は素敵な恋人と幸せになる!でよろしいでしょうか?」



スクっと座布団からスーツ男は立上がり真面目な顔でミネコに確認をした。



「うん。それでお願いー」




「かしこまりました!それではヨシムラ様!貴方に幸あれ!!」



そうスーツ男が言った瞬間、目も開けられない位の光がミネコを襲い、そのまま意識が遠のいていった………



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「んぁ!?…ん………朝……?」



ヨダレが垂れた口元を拭き、ミネコは自分の部屋を見渡した。



「何か……すっっごい変な夢……だったなぁ……あ!」



目覚まし時計を見てミネコは青ざめた。



「会社遅刻する!あとゴミ出しもしないと!!」



社会人として許される範囲の化粧をして、急いでゴミをまとめアパートから飛び出したミネコ。

その勢いのまま、ゴミ袋を収集場に投げ入れた。



「げっ!!あと5分で電車来るんですけど!!!」



説教1時間は嫌だぁぁぁぁぁ………っと叫びながらミネコは駅に走っていった。


その後ろ姿を眺める男がいた。

全身白のスーツ男だ。



「あれを変な夢とは……全くひどいですね…っと、おやおや」



白の分厚いファイルをめくる手が止まった。



「思いの外、ヨシムラ様の願いが叶いそうですね……」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「…ギリギリ……セーフ……」


息も絶え絶えにミネコは無事に遅刻することなく出社出来た。



「あー……朝ご飯食べてないからお腹空いた……昼まで持たないな………」



机に座ると、そっと周りにバレない様にお菓子ストックが入っている引き出しを見たが、あめ玉一つ入ってなかった。



「…マジで……」



ミネコは絶望した。

これではお昼ご飯まで体がもたない。

確実に倒れる。



「おはようございます!お届け物でーす!!」



空腹で絶望しているミネコとは真逆の元気な声で挨拶をした宅配便のお兄さん。



「あ…ふぁーい……何時もご苦労様でぇー…すぅ………」



「どうしたんですか……?」



まるで幽霊の様にサインをしているミネコに、宅配便のお兄さんが心配そうに話し掛けた。



「あ、朝ご飯食べてなくてぇ…お…お菓子のストックもなくてぇ………」



今にも死にそうな声でミネコは宅配便のお兄さんに理由を話した。

すると……



「あの…これ意外と腹もち良いですから……」



小さな声でミネコにスティク型のお菓子を手渡した。



「あぁ…ありがとうございますぅ………でも運転手さんは大丈夫ですか?」



スティク型のお菓子を握り締めてミネコは、お礼を言ったが、すぐ申し訳ない表情になった。



「俺、何時もトラックの中にお菓子あるんで、大丈夫ッスよ!」



にっ!と歯を出してミネコに微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、ミネコに変化が訪れた。



「(…ん?…あれ……?何で私の好きな曲が流れるんだろ……?)」



「じゃあ、また明日。失礼しました!!」



「あっ!はい!ご苦労様です!」



お辞儀をして元気よく出ていった。

ミネコは受け取った荷物を抱き締めたまま、暫く固まった。



「(何で……ドキドキするんだろ………)」



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