赤い糸
「すみません。」
声を掛けられた。見知らぬ女性。
こちらを見ながらニコニコしている。
「はい?」
「あの、ゲーム売り場ってどこらへんですかね?」
ああ、またこれか。と思ってしまった。
私はどうやら、家電量販店に行くと店員に思われてしまう率が高いみたいだ。
このお店には何回も来ているし、忙しい訳でもないので案内してあげることにした。
「こっちですよ…」
女性が後ろから付いて来る。
ゲーム売り場に到着すると女性は
「ありがとうございます。」
そう言って、新作ゲームを探してた。
それにしても、驚いた。私もゲームをするほうだけれど、あんな綺麗な人もゲームするんだなーって。
とはいえ、私も欲しかったものは買ったし、帰るか…。
それにしても、あの人どんなゲームするんだろうな…なんて考えながらお店を出た。
そして、駐車場に向かって歩こうとした時、また声を掛けられた。
「あの〜…。」
先ほどの女性だった。
「どうかしましたか?」
おかしいななんて思いながら声をかける。
「これ、良かったら!」
女性は私に袋を渡すと何処かに去って行ってしまった。
変な人だ…。そう思いながら袋の中身を確認してみる。
あ…これ。
さっき買おうとして金欠だったので買わなかったゲームだ…。
その横にメモが添えられていて、『よかったらどうぞ。』とだけ書かれていた。
…変な人、つくづく変な人だなぁなんて思いながら私は家に帰ることにした。
「………うーん…。」
目の前には女性から貰った?欲しかったゲームがある。
「これ、貰っちゃって良いのかな?」
気持ち的には今すぐにもプレイしたいのだけれども、やはり遠慮してしまう。
「明日…また会えたりしないかな。」
淡い気持ちを抱きながら、明日も同じくらいの時刻に家電量販店に行ってみようと思った。
次の日、車で家電量販店へ向かう。
そして、暇だしとゲーム売り場を見ていた…ら。
「あの〜。」
また女性に声を掛けられた。
「あ!昨日の人!」
「ゲームは気に入って貰えましたか?」
オドオドとしながら、聞いてくる女性。
「初対面の人に貰ってもやっていいのかなって迷いますよ。」
正直な気持ちを伝えてみた。
「はは…ですよね。」
ショボンとする女性。
「あ、いやいや、嬉しかったんですけど…その…よかったらこれからご飯でも行きませんか?」
「え、本当ですか?」
女性の顔がぱぁーっと明るくなった気がした。
はぁ……。私は何故知り合ったばかりの人と食事しているんだろう…。
いや、とても綺麗な人なんだけれども、ご飯も美味しいのだけれども。
ご飯といっても大したところには行けないので、近くのファミリーレストランに来ていた。
そこでやっと自己紹介をする。
「自分は東雲 有って言います。」
「私は、尾賀 美玲って言います。」
女性の名前は美玲さんって言うみたいだ。
「あの、なんで自分に声変えてくれたり、ゲームくれたりしたんですか?」
単刀直入に疑問を聞いてみると、美玲さんは顔を赤らめて、もじっとしながら答えてくれた。
「その…一目惚れだったんです。」
よほど恥ずかしかったのか、顔を下に向けてしまっている。
一目惚れ…ねぇ。
私はバイセクシャルで普段から男っぽい格好をしているのだけれど、きっと間違えてしまったんだろう。
そう思って答える。
「自分、女なんですよ。すみません、わかりにくくて。」
きっと間違えてしまったんだろうな、そう思いながら言うと
「私、知ってましたよ。」
と今度は力強い返答だった。
詳しい話を聞くと、なんと私と同じマンションに住んでいる人で、私に初めて会った時からずっと一目惚れしていてくれたらしい。
それから私が近所の家電量販店によく行くのを知って、後をつけてみたら、ゲームが好きだということが分かったらしい。
それで、ゲームをプレゼントしようと思ったんだと…。
「え、ええええええ!?」
私はてっきり、勘違いされているのだと思ってばかりいたから驚いてしまった。
こんな可愛らしい女性に一目惚れしましたなんて言われたら、素直に喜んでしまうし。
しかも、自分が女ってことも知っていたみたいだし。
「良かったら、私を彼女候補にしてください。」
美玲さんが言う。
「是非、宜しくお願いします。」
私も返答した。
これから、新たな恋が始まりそうな予感がした。
赤い糸で結ばれてるような気がした。
〜おわり〜