カーテンのむこう
あるとき、特に重病だった女がいた。
その女はペプシにいった。
「どうやら私は今日で退院のようだ。 最後の一日だ、ベッドを貸してくれないか? 最後ぐらい外を見てみたいんだ」
だがペプシは一ヶ月元気でいれたら見せてやろうといってかわらなかった。
二日後、女は冷たくなっていた。
そう、誰もが外を見たい。 だからペプシが死ねばいいのだ。
ペプシが死ねば僕が見れる。 この僕が見れるのだ。
僕はその女が死んでからペプシが死ねばいいのにと思い続けていた。
その女に惚れていたのかもしれないがそれよりペプシが憎かった。
ペプシがカーテンの向こうの話をしても顔しか笑えない。
憎すぎて心から笑えないのだ。 いや顔が笑ってるのかもわからない。
その年の冬は例年になく寒かった。
コンクリートでできた病室はしんしんと冷え込んだ。
ペプシにみんな話してくれと聞きたがったがペプシは話さなかった。
どうせ寒いから唇を動かしたくなかったのだろう。
次の日の朝、調子の悪そうなペプシは震えた声でゆっくりしゃべった。
「明日は...いい天気だろうな。 ...朝は太陽と雲が綺麗な雪景色をつくり夜は...綺麗な星がいっぱいでるだろう...な」
その後寝てしまったのか動かなかった。
寒いから起きれないんだろう。 窓際にいるからそうなるんだ。
二日後の朝、看護師がペプシが息をひきとっていたのを確認して連れて行かれた。
みんなが悲しんだ。 泣いて悲しむ者もいた。 僕も悲しい顔をしていた。
けれども、どこかで嘲笑う僕とこれから見る景色を想像しよろこんだ。
これで外の様子を独り占めできる。 ペプシと同じようにベッドは貸さない。
いや景色のことも一切話さない。 ひとりじめする。 特権を持っているのは僕だ。 多分顔にでているのだろう。 ニヤニヤが止まらない。
とうとう窓際のベッドに移ることになった。
昨晩は全く寝れなかった。 楽しみで声を荒上げそうだった。
看護婦に動かされるベッドに乗りながら睡魔に耐える。
そこから見える外の景色、人。 それこそ僕が望む期待だった。
期待に胸が打ちふるえた。 声が少し漏れるほどニヤニヤしてしまった。
そこから見えたもの――
カーテンの向こうはとても大きなレンガだった。




