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家から追い出されろ!

うーむ、主人公が能動的に動けるようになるまでのハードルが高過ぎる^^;



 

 追い出された・・・。



 

 とは言っても追放とか放逐とか勘当とかじゃなくて、「王子も傷心でしょうから」という建前の元、保養地としても知られる王の直轄地であるレーベテインという土地に行く事になったのだ。



 

 まあ、居ても役に立たないし、かといって無視してしまうのも色々と問題があるんで、どっかに行っててもらってその間に色々な事を進めてしまおう、って事だと思う。

 当事者が居ちゃ都合の悪い事ってのも世の中には多々あるしね。




 まあ、傷ついちゃいないんだが、アホらしく感じてる部分がある事は否定出来ないからね。


 なんで、彼女も居ない俺が人の恋路応援する羽目になってるんだか・・・?




 なもんで、お供のアヤメと運の悪い(大じゃんけん大会が開かれ、その敗者だという話だ)侍女を伴い、馬車をあやつる御者を含めたわずか4名という総勢でトロトロと向かっている。


 

 「王族の移動風景じゃねーだろ!」って話もあるが、まあ、この国での俺の価値はこんなもんである。


 国内の主要な街や道路は治安がかなりいい為、女性だけでの旅行も可能な程であるって事もあるが。


 うん、息子のどうしようも無さが更に強調されるレベルで親父さんこと国王は有能だ。

 




 今回の目的地レーベテインは小さな湖とこじんまりとした森に張り付くように点在する多くの貴族の別荘地と、ちょっと高級な旅館を中心とした小規模な町から出来た典型的な観光保養地で、以前の俺だと保養に来た貴族の娘やら、下手すると奥方、着いて来た侍女なんかにセクハラをかませたりトラブルを起こしたりする危険があるからと、子供時代以来10年以上行かせて貰えなかった土地だ。


 そう考えると中身俺になってだいぶ信頼回復したんだなぁ、としみじみするが、一方では「フラれて凹んでるだろうからセクハラかます余裕もないだろ」と見られてるなんて噂もあるんで「なんだかなぁ」って感じでもある。




 ちなみに中身が俺に変わってから、周りから見れば落馬事故の死の淵から生還してから、俺はまったくセクハラはしていない(てか、出来るわけがない、中の人的に)。


 まあ、俺、というより王子の事を知っている宮廷内の女性が、全く近寄っても来ないからその機会自体が無いって事もあるんだけどな。


 普通に見ててもエロい目で見てると思われ、微笑みかけても誑そうとしてるとしか思われず、声をかければ二歩ぐらい後ずさられるんで、挽回のチャンスがあっても評判を変えるのは至難の業だし・・・。



 剣の練習でもしようかと思えば「誰かを闇討ちにしたがっている」と噂されて警戒されるし、勉学に励んでみようかと書庫に行けば「ここには艶本はありませんよ」と追い払われる。


 自分を高めるチャンスすら無いって、ホント見た目だけじゃん、今の俺・・・。





 まあ、こんな事をつらつらと考えているのも、馬車の中には俺と例の運の悪い侍女の二人きり(御者は御者席だし、アヤメは俺が馬車に乗る際は大抵屋根の上が指定席だからな)だという、非常にいやーな感じの沈黙に包まれているからだ。


 下手に動きを見せようものなら侍女の警戒ゲージが一気に上昇、鼻がかゆくなったから掻いただけで泣きそうになる相手を前に「そういや、こんな感じの隙を窺うフラッシュエロゲがあったなぁ・・・」などとくだらない事を考えてしまう。


 もうね、これだったら最初に目を覚ました時に記憶喪失のフリでもしておいた方が良かったかもね?


 あの時は混乱してて、王子の知識のままに周りの人間に応対しちゃったからなぁ・・・。


 そこから急に記憶喪失とか言い張ってみたところで、この王子だし誰も信用しちゃくれない(アヤメだけは信じてくれるかもだけどな)。


 そう考えるとアヤメは今の俺にとって実に得難い存在だし、その辺意識して大事にしてるつもりではあるが、この世界の常識に疎い上に女心なんて分からない俺であるから、かなり頓珍漢で致命的な事を既にしでかしてしまっている可能性もある。



 それになぁ・・・もともとのアヤメ自身もちとヤバい。


 忠誠心に溢れてるのはいいんだが、「それが必要な事であって」「俺が命令すれば」死ぬ事すら厭わないって感じがするんだよ。


 現代日本人、それもモラトリアム真っ最中の高校生からしてみりゃ、そうした人のあり方は理解出来ない。


 漫画やラノベなんかのフィクションの登場人物ならまだ分かるが、現実に存在する人間がそういった思考で行動する事にどこか耐え切れないものを感じているのだ。


 だから、俺がアヤメに何かを頼む際には「死なずに無事に戻ってくる事」を優先順位の第一位として、自分でも「くど過ぎんじゃね?」と思うくらい念を押している。



 この間の花嫁強奪にしろ、アヤメが居たから取り敢えずはあんな形になったけど、アヤメが居なければコントロールも何も無く俺は流されるままでいるしかなく、その結果「こいつ居なけりゃ結婚チャラじゃね?」ととち狂った強奪犯くんに斬られたり、花嫁の味方をしてたっぽい彼女の親族に毒を盛られたりして死んでた可能性だって無いとは言えない。



 情けない話だが今の俺は、赤子にとっての母親以上と言ってもいいくらいアヤメに頼っている部分があるのだ。


 だから「アヤメにもっと自分を持って欲しいなぁ」なんて俺のヌルい望みは、安全確保のロープに自分で切れ込みを入れているのも同然、アヤメにもっと人らしさを求めるならば俺自身に力を付けて、色々な意味で自立する必要がある。




 「力が欲しいよなぁ・・・。」



 ・・・だから、独り言にそんなに過剰に反応しないでくれ、名も知らぬ運が最低レベルの侍女よ。


 

 王子の記憶にも全く無いという事は、今まで王子とは全く縁の無い部署で働いていたか、それとも新人かだとは思うが、こうもビクつかれるとこちらも神経に障る。


 Sっ気があれば、その反応を楽しむ事も出来るんだろうが、生憎とそんな趣味は無い。




 「なんだかなぁ・・・」と更に落ち込んだ俺と、更に涙目になった侍女を乗せた馬車は、こうして嫌な沈黙と共に目的地へ辿り着いた。



  

感想&お気に入り登録ありがとうございます^^

自分で書いてて忠志くんが不憫になってきました

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