ザコキャラストーリー
色々なゲームが、沢山あります。私達は、何気なく、ゲームを楽しんでいます。しかし、そう言ったゲームの、簡単に倒せる、ポイントと、アイテムを稼げる数多くのザコキャラ達。でも、突然自分が、そんなキャラクターにされてしまったら。無論死ねば、私の人生も終わる。超科学先進世界の一企業の企画によって、収集され、ターゲットとして、絶対逃げ出せない、遠くの銀河系の一惑星にたった一人リリースされてしまった、主人公、東郷真琴の、数奇な運命の物語です。
銀河帝国の事情とある企業
時は今、たった今現在のできごとです。ただ場所は、遥かに遠い別の銀河系でのお話です。
その銀河系は一千億もの恒星を有しており、驚くべきことに、これを一つの帝国が、殆ど支配しています。彼らは、自らの帝国を銀河帝国と呼んでいます。
銀河系統一の頃、約五百年ほど以前の段階で、恒星系をすら一撃で、撃滅させた帝国艦隊は、現在も健在で、艦隊自体を含めて、その装備も日々新鋭化されたりしております。この様な帝国が、拡大政策をとっていたら、地球も簡単に勢力圏内に出来ていたでしょう。
ところが、この銀河帝国、自分達の銀河系内をその勢力圏と定めたりせざるをえなかったのでした。理由ですか、支配する人材が、決定的に足らなかったからなのです。なんと、この帝国の支配者は、不死では無くても、不老なのです。
銀河帝国皇帝陛下を頂点に、貴族と呼ばれる大公爵~男爵、約二百万人と、准貴族、ナイトとも呼ばれる約二百万人で、一千億恒星系を治めているのが、限界だったのです。しかも、いかな不老の支配者でも、その全てを治める事など不可能で、勢力バランス、一般市民による支配統治、企業、企業総合体などによる、経営的支配など、まあちょっと考えられない程、複雑な世界でのお話です。
そのような世界で、ベスト10にランクされる、ガゼル社は、千七百二十一恒星系を経営、支配いていました。そのガゼル社が、帝国中央研究院と言う、帝国の頭脳集団による協力の元、あるレジャー惑星プロジェクトに着手したのです。このお話は、ここから始まります。
ガゼル社の極秘プロジェクト。リアルハンティング惑星パラダイス。
不老となった貴族の方々は、常に新しい遊びを探しています。無論これまでに、ハンティングゲームは、定番的に、考えうる、あらゆるゲームが、リリースされ、そして、廃れて行ったのでした。最もこの手のゲームが多い理由は、貴族たるもの、個人同士の争いなどは、平民、いわゆる市民階級のものとされて久しく、個人的にストレスを発散する手段としては、「らしからぬ」の一言で一蹴されております。と言って、廃れた貴族のリアルハンティングなどですと、通常数百~数千の臣下やアンドロイドを狩場に配して、更に自らの周りにも屈強な警護、強力な戦闘特化型アンドロイドを侍らせ、獲物をいかに至近距離で倒すか。これなど、一時かなり流行した事は事実でした。
バーチャルリアル系では、手軽さもあって、流行はしたものの、銀河帝国には、特許制度が全く存在していなかった為、群小乱立の状態の内に、廃れてしまいました。
すなわち、銀河帝国の企業は、いかに極秘の内に、企画を立ち上げ、他社が真似の出来ない、真似しにくい内容の製品開発にしのぎを削っていたのでした。
事の始めは、ある貴族の方に融資していたガゼル社が、融資の焦げ付きの一部の代償に、テラフォーミング可能な惑星を含む千七百二十二個目の恒星系を、入手した事が最初でした。元の持ち主である貴族が、帝国中央研究院に、所属していた事から、とある提案が、更なる借金棒引きの交換条件と共に示されたのでした。新たなるアイディアは、極めて企業として魅力的だったのです。それが、リアルハンティング惑星パラダイスだったのでした。無論、障害が無い訳でも有りませんでした。しかし、新たなる企画には、この程度の事は、常識の範囲だったのです。最大の障害は、ホワイトクラウド「帝国動物愛護協会」でした。帝国の艦隊すら動かせる実力者が、揃っていた為です。よって、ガゼル社では、最大級の極秘プロジェクトとして、単にテラフォーミング惑星の開発と共に、より価値観を出すという名目で、帝国外の銀河系から、惑星環境に適合した動物を放つ計画として、直営の宇宙艦隊の大半を比較的近い、別の銀河系へ派遣して、計画は、順調に進みはじめたのですが、さすがに、武器を持たせるターゲットの回収で、ホワイトクラウドに気付かれてしまいました。全計画の七十%で、計画は頓挫させられた。帝国内でそう思われていた時、ガゼル社では、既にこの事態を予測していて、次の手段が、進行中だったのです。一般的な動物に関しては、さすがに帝国外で在るために、自社の艦隊で、狙う恒星系を妨害が入る前に、次々と変えて、必要定数の小動物、やや~かなり危険な猛獣を確保し続けていました。
そして、捕獲したターゲット一匹ゝ全てに、複数のマイクロチップを射入したのです。帝国共通語が、一瞬で理解出来る・・・まあ、そのレベルは色々ではありましたけど。そして、各ターゲットのポイント、仮にターゲット間でも、猛獣が、捕食した場合、倒した相手のポイントが、自動的に加算されるマイクロチップも射入されたのでした。銀河帝国法では、例え帝国外であっても、人類に対しては、この様な捕獲、取り扱いは、厳禁されています。ただ、その人類と認められるボーダーラインは、その惑星の者が、宇宙へ進出した時点で、初めて最低ランクの人類と認められます。よって、まだ、宇宙へ進出が出来てない惑星の者は、亜人種として扱われておりました。そして、ガゼル社の狙いは、この武器を持って抵抗出来る亜人種だったのです。当然、彼らには、より高度なマイクロチップを多数射入し、武器や装備なども、相応に与えて、ハンターに対して、歯応えの在るターゲットに仕立て上げていたのです。とは言え、自然発生による、帝国をして人類、あるいは人類候補たる亜人種は、決して多くはなかったのです。お客様の満足されるターゲットの確保は、最も大きな課題だったのでした。
しかし、予想外のうれしい問題が、発生していたのです。リアルハンティング惑星パラダイスでは、地表を百のエリアに区切り、それぞれのエリアに、シティーまたは、タウンを設け、十万人のハンターを受け入れる為の万全な準備を整えつつあったのです。そして、惑星上空には、惑星自体の防衛を兼ね備えた、衛星軌道要塞都市が、二十基も配備されつつあったのです。あらかじめ予約頂いたお客様には、この衛星都市の体感カプセルに入って頂きます。すると、あらかじめ本人そっくり、又は、オーダーにより創られた生体アンドロイドが、指定されたシティー、又は、タウンで目覚め本人の感覚のままに、リアルに地表を動き廻れるしくみなのです。本人単独でも、気の合った仲間とでも、護衛も部下も、煩わしい仕事からも解放されて、本当の意味で自由に動き廻れるのてした。しかも、死ぬかもしれないのです。と言っても、生体アンドロイド体が死んだ場合、臨死体験と共に、元の体に戻るだけの事なのですけどね。無論、傷を負えば、設定レベルによって、かなり~極めて軽減されますけど、痛みは感じますし、激しい動きをすれば、疲れも感じます。空腹も、味覚も、倒した獲物の手触りも、全てリアルに感じられるのでした。しんも、自分の武器や、装備、食料、水など全て、自分で持たねばなりません。当然、その重さや、担ぐ辛さすら実感できるのでした。と、貴族相手を想定したプロジェクトでしたが、帝国内には、支配者では無い、一般市民の富裕層の人々も、極めて多く、特に高齢者が、若い頃の生体アンドロイドを特注して、不自由な肉体から開放される目的での、問い合わせで、回線増設が間に合わない状況に追い込まれていたのでした。
十万人分のハンター席は、予約開始から、僅か十六秒で完売で、キャンセル待ちも、経営者トップのガゼル・フェデリック氏が、絶句するレベルだったのでした。
そして、ターゲットの数はともかく、レベルが、目標値に達して居ない事実は、予想外の好評ゆえに、深刻さを増していたのでした。ガゼル社に残された切り札は、後一枚だけでした。帝国ベストランキングの企業では、常識的に在り得ない非常手段が、極秘裏に進められていたのでした。そして、帝国は、正に出し抜かれたのでした。
それは、下請け企業、傘下の下請け企業では無く。全く関係ない、ただし、ある程度以上の戦力を持つ宇宙艦を保有する、帝国レベルでの零細企業への発注でした。その数二千三百隻。大型艦は、一千万トン級の超旧式戦艦から六万トン級のこれまた超旧式軽巡航艦まで、まさに、なりふり構わずでした。しかも、それらの企業の、生業としている業務を無視。ゆえに最初の内、「帝国動物愛護協会」ホワイトクラウドすら、出し抜かれたのでした。
ガゼル社による、彼らに対する発注条件は、極めて厳しい内容ではありましたが、その対価は、倒産寸前の零細企業が、向こう十年は、安泰と言う破格な内容でもあったのでした。弱小企業の二千三百隻の宇宙艦は、帝国辺境艦隊の警戒網を突破して、帝国レベルで、まあ、比較的近い銀河系へ、ランダムにターゲット捕獲の為、文字通り散って行ったのでした。
私はマコト
私、東郷真琴は、何時ものように、テレビを観ながら朝ごはんをたべています。テレビでは、中央アフリカのナンタラと言う、資源が如何とかで、ドタバタしてたみたいな、紛争地帯で、十万人からの人々が、消えたか、殺されたか・・・で、政府側と反政府勢力が、激しく非難し合って居る様な事を言ってるけど、何やら、取材記者まで、行方不明で、何を言いたいのか、全く分りませんなあ。興味も無いけど、そんな事より昨日いきなり言われた、英語の抜き打ちテストが、気にかかるのよね。だいたい何が悲しゅうて、日本人の私が、英語なんぞ、覚えにゃならんのだ。とは言え、最近のネットゲームやってると、PCのチャットなんか、英語で問いかけられるしねえ。とっと、時間ですよっと。ディバックに教科書他一式を昨夜準備したのを背負って、刀袋に納めた愛刀、ん~本物の日本刀ですけどね。訳有って華空高校一年生の私は、通学時、携帯しております。両親が、スポーツ系なもので、幼稚園の頃から、空手、極神会実践空手やっとりまして、只今二段とお、居合道の三段だったりしております。
私の愛刀は、三段が受かったお祝いに、お祖父さんがくれた、その昔造られて、何でも軍刀に改良され、普通より短くなったものの、高校一年生でも、少々小柄な私にちょうど良いと言う理由もあって、貰ったシロモノで、勿論、銃砲刀剣類登録証付きの、正規品です。とは言え、平和ボケの続く日本では、学校へ到着したら、職員室の、鍵付きのロッカーに預けなければなりません。使用するのは、放課後の部活の時だけなんですよね。
内の学校、スポーツが盛んでしてね、空手部なんて、男女合わせて六十名以上おりますが、・・・ヘボイ。全国大会などで、毎年良い処まで行く・・・まあね。でも、私は極神会実践空手で二段、元々女子部は気にもしてませんでしたが、男子部の主将・・・弱すぎ。指導に来ている何とか言う流派の六段の先生が、二段の私が、極神会実践空手と知って、相手すらしてくれません。で、部員たった十一名の居合道部の十二名目の部員兼主将として、一年生の身で、三年生までの先輩諸氏の部長をやっとります。まあ、理由は指導の先生が、私の師匠でして、断れなかったからですかねえ。それより、年功序列より実力評価が気に入ったからですかあ。
本身、ん~とねえ、本物の日本刀の事をいいます。私と師範以外は、全員居合刀と言う、練習用の刀を使っております。基本技は十二技しかありません。これを制定居合と言ったりしております。他に古流と言う、昔から各流派に伝わる技が、ゴッソリとありますね。私の師匠の流派は新陰流、当然私も同じですね。で、時々、他の部活を牽制する内々の威嚇も含めまして、私の入部以来、畳表を巻いた、いわゆる巻き藁を試し斬りなんてのも、やっております。実はコレ、意外と難しいんですよね。ちょっとした油断で、刀が曲がったり、刃が欠けたり・・・易々と自分の刀は使えませんって。
英語の予告付きぬき打ちテストの鬱憤をはらすため、初めてじぶんの刀で試し斬り、スパッと決まってルンルン気分で家に帰る途中までは、記憶に在るのですが・・・
帝国動物愛護協会の陰謀
ガゼル社より、ターゲット捕獲の依頼を受けた内の一社である、メデューサ号の艦長兼社長の メデューサ・ウィルは、頭を抱えていました。思わず愚痴が洩れてしまいます。
「ちくしょう、スパーグ号のやつらめ ! 」
一番価値の高い亜人種が、既に人類に昇格、すなわち、宇宙へ進出し始めていたからでした。元重巡洋艦でスピードのあるスパーグ号が、十万匹の亜人種を捕獲したと言う情報によって、旧式戦艦ゆえ、足が遅いメデューサ号は、あえて進路を変更して、燃料の関係上ギリギリの距離となってしまったこの、一三一三0恒星系に狙いを変更していたのでした。まあ、この方面のナンバー、銀河系のナンバー、などその前に十二桁の数字がならびますが、鬱陶しいので、無視しております。は、置いといて、お互い経営の苦しい零細企業です。背に腹は替えられません。違反には、気付かなかった事として、直ちに捕獲用に改造した、連絡艇を全て発進させたのです。七十万トンのスパーグ号が、十万匹の亜人種の捕獲が限界だったのに対して、一千万トン級のメデューサ号は、二百万匹のターゲットを捕獲出来る準備がされていたのでした。
ところが、その直後、帝国艦隊の最新鋭高速巡洋艦が、出現したのでした。まあ、完全に待ち伏せを喰らってしまったのでした。「帝国動物愛護協会」の面目躍如でした。その為帝国艦隊が、引っ掻き回された事は伏せられて、この完全な違反行為を帝国中に知らしめる、やっと捕まえた船だったりしていました。しかもその目的は、如何にしてガゼル社の下請けを請け負った企業を帝国中の笑い者に仕立て上げるかが、本来の任務より優先された、極秘命令として、彼ら艦隊士官ですら、一切逆らえぬ、雲の上から出ていたのでした。その結果メデューサ号は、逮捕される処、劣悪なる装備、観測要員の未熟さの為、この惑星の人類が、既に宇宙へと進出している事を見落とし、亜人種として、人類を捕獲する寸前に、帝国艦隊最速巡洋艦により、制止させられた事と、事実を捻じ曲げられてしまったのでした。無論それは、メデューサ号としても、逮捕されずに済みますし、決して悪い事では無かったのです。一旦発進した改造連絡艇は、全て呼び戻されました。そして、艦隊士官、下士官の査察の結果、真っ先に飛び出した一隻が、たった一匹だけ捕獲している事が、確認されたのでした。それは、全て計算され、観測されていた事でもあったのでした。
「本来であれば、君達を逮捕せねばならん。しかし、この様な旧式の探知システムと、無能な人員では、過失であると、思わざるをえん。しかたあるまい。この一匹だけは、亜人種として認めよう。しかし、我々の最新鋭探知システムでは、この惑星は、既に原始的ではあるが、宇宙へと進出しておるようである。よって、君達は、この惑星の人類を以後捕獲する事を禁止する。その旨、帝国艦隊本部へも報告するので、今回は、始末書の提出にとどめるものとする。」
この決定の裏には、既にこの船の燃料残から、他へ廻れない事を艦隊のベテラン下士官が、遠隔スキャンシステムで、掴んでいた事も、在ったのでした。極秘命令にこれ程ピッタリな船は、無かったからでした。現に、不幸な零細企業艦が、数十隻逮捕されていた事は、事実だったのですから。
現実的問題としては、帝国外の他所の銀河系の、人類ないし亜人種の事など、過去問題になる事等、一切無かったのですから。メデューサ号は、逮捕の上、倒産する事を紙一重で、切り抜けた代わりに、帝国中の笑い者にされたのでした。そして、倒産するより、まだマシとばかりに、この惑星の動物を二百万匹かき集めたのでした。惑星パラダイスでは、飛行能力の在る動物は、リリース禁止でした。この為、この惑星から、多くの犬、猫、羊、馬、牛、カンガルーなどが姿を消したのでした。一部地域で、大量盗難騒ぎが起こったようでした。なお、この惑星の人類は、自らの惑星の事を地球と呼んでおりました。
捕獲したターゲット用動物は、全て帝国艦隊士官、下士官の監視のもと、一匹ごとに、医療用睡眠カプセルにおさめられました。逮捕、倒産の替わりに、その全てを記録され、「帝国動物愛護協会」が買い占めた帝国レベルでのギガネットで、面白可笑しく編集されて、ある意味メデューサ号は、有名になっていました。
そしてその帰路、彼らメデューサ号のメンバーは、与えられた、まとも~怪しげなマイクロチップの射入によって、少しでも商品価値を上げるべく努力しておりました。しかし、彼らの動きは、ダレダレでいた。
「情けねえなあ、二百万匹亜人種が、捕獲出来てたら、今の軽重力鉱山衛星をひきはらって、新しい軽重力鉱山惑星が買えたのになあ」
「ふん、無理だね。ホワイトクラウドに、モロ狙われてたのさ。逮捕されなかっただけでも、まだラッキーさ」
「ああ、でなきゃあ、あんなタイミングで、帝国艦隊が現れるはずが無い。待ち伏せをされたのだろう」
「だよな、こっちが、二百万匹捕獲の準備をしていて、一匹捕まえた瞬間だぜ。ありえねえ」
「まあ、逮捕されて、倒産に追い込まれた所も、かなり在るって聞いてるしね。見逃されただけでも、運が良かったと思わなきゃね。」
「その代わり、帝国中の笑い者にされてやすぜ。俺達の船の事、フーリッシュ号とか、トント号、ガビー号なんて、帝国じゃあ有名になっとりやす。愚か者号、のろま号、ドジ号なんすよね。全員の名前まで公開されてやす。」
「まあ、その替わり、この動物を、価格は別にして、ガゼル社が全部引き取ってくれるんだ。更にもう一度、特別にオーダーを出して呉れたしな。さあ、全員頑張って、ターゲットのレベルアップ作業を続けよう。」
「とは言っても、全自動システムすから、みてるだけっすよ。にしても、この変なマイクロチップ射入器は、ランダムに、使用せよとなっとりますけど、これ亜人種用です。」
「帝国中央研究院の実験用マイクロチップだなあ。」
ガゼル社が提示していた仕入れ価格は、レベル1~8のランク別料金で、彼らの獲物のリスト送信に対する返信では、レベル2と3だったのです。無論その様なターゲットに、帝国中央研究院の実験用マイクロチップなどと言う特別なシロモノは使えません。結果、乗組員は、やる事も無く、単に見回っているだけでした。そして、
「ありゃー、そういや一匹だけ亜人種が居たんだよなあ。これ如何する ?」
「めんどくさい、捨てるか。こいつのせいで、帝国中の笑い者にされたんだからな。」
「勿体無い事を言うなよ。一匹でも、レベル8にできりゃあ、二千セルなんだぞ。」
「は~、情け無いのよねえ。でも、これのおかげで、逮捕も倒産も免れたのよね。」
「ああ、ガゼル社でも、さすがに頭に来て、もう一度特別にチャンスをくれたしな。それと、これは、特別に一万セルで仕入れてくれると連絡が、さっき入ったところなのだ。無駄にしては、もったいないぞ。」
「はあ~、貧乏はイヤだねえ。にしても、一匹だけだと、自動システムより、手動の方が手っ取り早いですぞ。」
「だな、フン、特製品のマイクロチップありったけ射入してやれ。」
「そうですわね。通常のレベル8ターゲットの五倍ですもの・・・でも、この特性マイクロチップ大丈夫かしら。あそこの、完成品サンプルって、かなり眉唾物なのよね。」
「まあ、そう言ったってだなあ、二百万匹分もあるしよう」
「私の方でチェックして、最高のモノだけを射入、出来る限り沢山準備はしてあるわよ。」
「では、手動でロックを外してと、さあ、頼む。つうて、随分在るなあ。」
「このターゲットが、もし逆にハンターを倒せたら、一定の別途入金もあるのよ。手抜きはしないわ。」
「えーっと、コレ」
「何この変わった射入器は、マイクロチップも、見た事無い・・・けど・・・かなりなシロモノね。」
「へへえ、いやあ、ドカッて渡されたもんで、一応暇つぶしに、仕分けしてた時に見つけたんすよ。自分に使ってみようかなんて思ったんすがね、やっぱり怖いし、よっと、射入完了す。」
「あーあ、ひでーなあ。いったい何のチップなんだ。」
「一応ここに書いてあるんすけどね。無限容量記憶チップでやす。」
「何かヤバそうなちっぷまで射入されちまって、見りゃあまだ未成年の雌じゃねえの、早死にはするなよなあ。」
などと、やる気の出しようの無いメデューサ号は、巡航速度で、帝国へと帰還の途についたのでした。ガゼル社の惑星パラダイスまでは、二十日間の航程でした。
私の仕事は殺される事 ?・・・!
私が途中で目覚めたのが、機械の作動不良なのか、マイクロチップによるものなのか、手動射入の為カプセルを開けたせいなのかは、後から考えても分りませんでした。ただ、その時点では、メデューサ号では、かなり大きな騒動になっていた事は、はっきりと、覚えています。
「ん~ ? ここは何処だ。」
えーっと、部活で、自分の刀での、試し切りが、予想以上に上手くいって・・・暗くなった帰り道・・・う~ その後の記憶が無い。何か見た事の無い、太いパイプみたいな所に寝かされておりますか。うっ、体が何時もの様に動きません。体が、ギシギシと言っている感覚。とりあえず、少しずつ体を小刻みに動かして入る内に、本来の感覚が、少しずつ戻ってきております。ふむ、私のディーバックと、刀は在ります。真っ暗では無く、薄暗いと言う感じですね。
「誘拐されたのかなあー」
と言う事が、第一感でしたね。目の前に透明な扉らしきモノが有ります。押してみたら、何の抵抗も無く、軽く開きました。何やら、ブザーらしき雑音がうるさいですね。はっとして、はっきりヤバイと言う直感にしたがって、袋から、刀を抜き出し、鞘ごと左手に、どうせバックの方には、今役に立つ物は、入っていませんので、そのままにして、入れられて居たパイプから抜け出して・・・
「何じゃこりゃあー」
隣のパイプには、犬が寝かされていますよ。とにかく、移動しないと、私は、パイプの影から別のパイプのかげへと、素早く移動しました。まず相手が解りません。なにせ、目の前のパイプには、大きな牛が、押し込められております。この大工場か倉庫、その時は、そう思っていました。何とか逃げなければと、真剣に考えておりました。
にしても、広いと言うかデカイ。出口が全く解らない。まるで夢かと、ほっへたをつねってみたら、思いっきり痛かった。マジこれは、現実ですか。神経を研ぎ澄ませ、こわばった体をほぐしつつ、四方に気を配っていました。
その時、カツ、カツ、カツと多分複数の足音が、響きました。近づいて来る。相手が誰であれ、連中が入って来た処が私にとって、脱出口です。予想以上に大きな出入り口でした。開くと同時に明るくなりました。相手は、4人の多分男の大人、さほど肉体派では無いようですが、片手に拳銃を持っている。『マジかよう、不利だなあ』などと思っておりました。何やら話しております。
「いったい、何が原因なのだ。」
「さあー、臨時に取り付けた装置の作動不良か、もしかしたら、先日手動で、マイクロチップ射入した時、ロックをし忘れたか。」
「マイクロチップの射入しすぎのせいかもしれやせんぜ。なんせ、アソコの実験用なんすから。」
「どちらにしろ、一万セルのターゲットだ、他のターゲット50匹分なんだからな、中央電子脳、問題のターゲットは何処におるのか。」
「47列、4787番ポッドノ陰ニ居マス。武器ラシキ、棒ヲ持ッテイマス。要注意。」
あっちやー、こちらの隠れて居る場所が、モロにばれてます。如何逃げるか、相手は、拳銃らしき物をもってるし、冷や汗が脇の下を伝っています。
「おーい、ターゲット№1313000000、大人しく出てきなさい。」
その瞬間、私の頭の中で、何かのスイッチが入りました。と同時に
「帝国共通語の最高レベルチップを射入してやったのだから、言葉は、完全に理解出来ているはずだ。」
体がブルブル震えて、全身に、冷や汗がでました。思わず、歯をくいしばる。そう、さっきから、彼らが話していた言葉は、英語でも、ましてや日本語ではありませんでした。全然知らない言葉。でもその言葉が理解出来るのは ? 私はいったい如何なってしまったの ? 震えが止まりません。ターゲット№1313000000が、私のターゲット登録ナンバーだと言う事も、当たり前の事として、認識しています。以前から在った当然の知識のように・・・更に、私の運命、任務も解りました。知識として理解出来て、本能と言うか、気持ちの上で、それを否定しようとする。私の心の中で、知性と感情がせめぎあっていました。
彼らが、用心しつつ、近づいて来ます。『くう !』臍下丹田に力をこめて、気合一閃、震えをねじ伏せ、彼らから距離をとり、立ち上がりました。刀の鯉口を切って、間合いに入れば、斬る! マサカ今日始めて自分の刀で、切った畳表を巻いた物とは、根本的にちがう。でも、斬ってやる。自然と殺気が・・・
「おいおい、無駄な抵抗はするな。武器、装備、取り扱い用のチップも、最高レベルのモノを射入してやったんだ。俺達の構えている武器の事も、理解できるだろう。」
「フン、パルスⅡ、もう製造されなくなって久しい旧式の、対人麻酔銃でしょ。射程は短くて、麻痺させるパルス波のレンジも狭い、連射速度も遅い上、バッテリーも長持ちしないのよね。まあ~取り得としては、思いっ切り安い事くらいね。・・・って、何で!私に分るのよう!」
などと混乱している私に対して、
「ふ~む、帝国共通語の発音も正確だし、あれだけ大量に射入した、マイクロチップも、予想以上に機能しておるなあ。」
「あの、ちょっとレベル高すぎますよ。まさか、あの惑星で使用される以外の武器の明細、誰そんなチップまで射入しちゃったのは。」
「ああ、まあそれはそれとしてだな。おい、とにかく、まず落ち着きなさい。暴れたりしなければ、撃たないから。」
「ふっ、だからあ~、私は、ちゃんとそっちの射程外に居ますって。撃っても効果無いよ。」
素早く彼らを振り切って、開け放したままの出入り口から、逃げ出せる。何時もより体の動きが、スムーズに感じられます。短距離競争なら、陸上部男子レギュラーにだって引けは取りませんからね。よっと、よし、逃げ切れる。よし、逃げ切った。・・・うっく!・・・
工場から飛び出して、絶句しました。そこは、行き止まり、左右に細長い通路が延びていました。至る所に、ハッチが在ります。そして、窓も・・・私の正面にも大きな窓が・・・感情が最後の抵抗をしました。夜空だと・・・でも、星の数がおお過ぎるえ、みごとな、星雲が見えています。さらに、穂壺氏は、瞬いていません。少なくとも、私の知っている夜空ではありませんでした。何故か解る私の知識が、勝ってしまいました。ここは、宇宙船の中、私は、銀河帝国の民間企業ガゼル社によって、狩り集められたターゲットのひとり・・・訂正、一匹に過ぎません。ハンターに狩られるために集められた、大量のターゲット達から見ても、たった一匹だけのザコにすぎませんでした。多分直に殺されてしまう定めなのかなあ~。・・・っつうて、殺されてたまるか!
などと、頭グルグルの内に、麻痺銃を突きつけられてしまいました。
「はっ、抵抗はしないよ。」
「そうか、まあ、とになくこっちに付いてきなさい。」
そう言われて、個室の様な、機能的ではあるけど、かなり狭い部屋に連れて行かれました。
「そこに座りなさい。サーシュを二つ手配せよ」
「ん?」
明らかに人間では無い、でも、ロボットにしては・・・う~む、アンドロイドですか。出された飲み物は、何やらコーヒーみたいな飲み物ですか。そういや、かなり咽が渇いておりました。で、出されたサーシュなる物を飲むべく、手を出そうとした時、むっ? 何ですか ? えー視界の下の方に、
『警告、睡眠薬入り、飲むな』
ですと? ちょうど映画の字幕が下に出てる感じですねえ。無論日本語では在りません。見た事の無い多分文字なんでしょうねえ。いったい如何言う事なんでしょうか。
『我は、総合指導を目的に試作されたマイクロチップだ。他のマイクロチップと連動し、そなたを指導する。』
はあ、そうですか。で、二つのサーシュと言う飲み物を見比べますと、相手のサーシュには、何の表示も出ておりません。そう言う事、黙って、カップを取替えまして、このサーシュとか言う飲み物を頂きました。うーん、今一安物のインスタントコーヒーに近いかなあ~。さっぱりした感じですね。相手は、交換されたカップを脇に寄せて、苦笑いしながら、
「オレは、メデューサ・ウィル このメデューサ号の艦長兼社長だ。」
「私は東郷真琴。ここはいったい何処なの、知識として理解出来ても、納得出来ないんですけどね。」
「まあ、仕方在るまい、お前は、ターゲット№1313000000。惑星パラダイスで、ハンターに狙われる、まあ、獲物だな。ここは、お前の概念だと、宇宙船の中だな。お前の居た惑星から、約八百万光年付近を航行中、現在次のワープに備えて加速中だ。理解出来るかい。」
私には、それら全てが、何故か理解出来ていました。決して暴れない。乗員や装備を破壊しないと約束をして、不思議な事に、私は、一部船内の自由行動を許されたのでした。まあ、この船の中央電子脳によって、私の行動は、監視ビシバシでしたけどね。私自身が、全てを理解して、運命に逆らえないと、観念した事を船の中央電子脳が、了承した結果での、異例な処置だったのです。如何やら、私の射入された試作品マイクロチップが、極めて上等なシロモノで、船の中央電子脳と、コンタクトを取った事が、原因でした。
『猶予期間は、極めて短い。今なすべき事を尽くしても、決して長生き出来ぬ。』
等と、頭の中で、私の補佐役?にはっぱをかけられまして、寸暇を惜しんで、武器、装備の研究中であります。武器のメインとなりますのは、火薬式のライフルですね。使用出来るのは、ハンターは当然として、亜人種に分類されるまあ、私などですね。亜人種には、その惑星の科学力などを基準としまして、ターゲットのレベル6~8の三種類に大別されています。んで、私は、レベル8だそうです。倒されますと、8000ポイントの極上な獲物だそうです。で、問題のライフルですが、アサルトライフルとスナイパーライフルに分かれております。私の場合ですと、近接戦闘用のアサルトライフルですと、30連発で、弾は、9ミリ、一応400ライン飛びます。う~ん、1ラインは、私の知っている1メートルよりちょつと短いですねえ。で、400ライン弾は飛んでも、敵にダメージを与えるパワー、及び狙って当てる事の出来る距離は、約60%ですから、240ラインしか在りません。対して、スナイパーライフルですと、800ライン飛びます。その代り、弾は、7発しか込められません。しかも、一発ずつなのです。無論弾は9ミリです。また、アサルトライフルには、銃剣が装着出来ます。また、スナイパーライフルには、スコープが装着できるのです。拳銃も有ります。弾は、5ミリから7ミリまあ、緊急護身用ですね。他にも、券、盾、弓、ボウガン、ナイフ、斧など、随分沢山在ります事。二百万引きの亜人種に配るつもりの、大量の武器を点検して、解った事。これらの武器では、絶対に助からない。ハンター用の武器に関して、何故か知っている私は、それでも生き延びるために、無い知恵をしぼったのでした。帝国では、ある意味アイディアは、財産と同等の価値があるみたいでしたから・・・
生き残る為の八日間
私に対しては、少なくとも、二百万匹分の武器、装備の内、どれでも好きなものを与えてくれると言って貰えましたけど、彼らすら知らない、惑星パラダイスでのハンターの武器、装備の性能を何故か私は知っていました。えーっと、私に射入されたマイクロチップが、サンプルとはいえ超特製品でして、コレが、メデューサ号の地卯王電子脳を中継して、惑星パラダイスの中央電子脳にアクセスして、調べてくれた・・・らしい?
だから、既製品の武器、装備では、イチコロなのです。なんせ私は一匹だけで、仲間も居ませんからね。ゆえに、武器や装備のカスタマイズが必要だったのです。しかし、手ぶらでお願いしても、無視されるだけな事は、頭の中のアドバイザーが教えてくれていました。まあ、何事も無い宇宙空間では、暇な人は思いっきり暇なのも事実なんですよね。艦長さんも、その代表でしたね。雑談に付き合って、毎回サーシュなる飲み物をサービスしてもらったりしていました。
「要は、ネットゲームのザコキャラなのですよね。」
「ああ、お前の言う、そのゲームに近いなあ。ただし、」
「本当に殺されちゃう訳なのよね。」
などと話しつつ、心の中では、殺されてたまるか!などと、アイディアを話すチャンスを狙ってました。
「にしてもさあ、不本意ながら、亜人種は私一人で、後があれではねえ。」
「フッ、まあな本当に頭が痛いのだ。訳が有ってな、特別に少し高めに仕入れて貰えるのだが、急場しのぎにも、かなり不足でなあ。」
「何でも、逆にハンターやっつけると、別途料金が出るそうですね。」
「ああ、それどころか、そのセールスポイントがあれば、仕入れ価格も、高くなるのだがなあ」
「ふーん、その程度でいいの?」
「むっ、何か思いついたのかい。」
「まあね。」
「ふーむ、亜人種のお前がなあ。まあ、聞くだけ聞いてやろう。」
「で、対価は、どうしてくれるの。」
「むう、かなり自信が有りそうだな。まあ、お前が、昨日言っておった、武器、装備の改良くらいは、してやってもいいぞ。もし、優れていたら、バギーも一台あったはずだから、やっても良いぞ。」
「ほう、そりゃまた、景気の良いおはなしですね。」
「我々は、そこまで経済的に困っているわけだ。ガゼル社からの入金が増えるアイディアだったら、だけどな。」
「あのねえ、一人のハンターに対して、群れで、集団攻撃させるマイクロチップを射入してみたら。」
「何! 中央電子脳、その手のマイクロチップは在るのか。」
『在庫ハ、二百万個在リマス。』
「なっ!」
『元々平和的ナ、亜人種対策用ノ少々凶暴化サセル目的ノ、マイクロチップデス。動物用デハアリマセンガ、使用可能デス』
「総員通達、全員ターゲットに後一個マイクロチップを射入するぞ。経理部長、どうせ暇だから、今の会話聞いていたな。」
「いま、ターゲットの性格データを書き換えて、ガゼル社へ送ります。・・・げっ!全部ワンランクアップして、仕入れる返信です。こりゃあ凄い。」
「ほほう、じゃあ、武器の改良とバギーも頂きですね。」
「ああかまわん。ガゼル社からは、我社としても、乗組員個人にしても、ターゲットに強力してはならんと言うような、規約も制約も無いからな。それより、リリース開始まで後四日しか無い。間に合わせねば、大変な事になってしまう。そうだなあ、武器の改造なら、機関長が趣味にしておる。全艦フリーのパスに交換してやるから、自分で頼め。オレは現場へむかうからな。」
まあ、本当に切羽詰っていたみたいですねえ。びっくりしましたよう。にしても、さすが科学の進歩が半端では有りませんねえ。ボタン一つどころか、言っただけで、ポンと全艦フリーの身分証が、飛び出してきましたよ。とは言え、私に残された時間は、後七日です。急いで、支給品のスナイパーライフルSB3と自分の刀を持って、機関長の所へ向かいました。さすが凄いです。最短コースの道案内付き、床の矢印に従って、簡単に、この複雑な構造の宇宙船を移動できるのですよね。機関室は、これまた、デカイ部屋、うーん東京ドームといい勝負ですか。で、そんな広い所に、人間様は、たった四人しか居ません。その代り、アンドロイドが、その十倍以上居りまして、キビキビと働いております。人間は、それらを単に見てるだけなのかなあ。二人は何かの装置を監視してますけど、後の二人は、何やら造ってますねえ。如何見ても、ここに在る巨大な装置とは、関係無いみたいです。機関長は、その何かを造ってている方ですね。多分・・・年齢的にか、態度的にそう感じます。早速ライフルの改造をお願いしました。しかし、肝心の機関長さんは、銃ではなくて、私の日本刀の方に、興味深々でした。
「なんとまあ、鉄製なのだなあ。キサマ知っとるか、この艦の燃料は、純鉄バーなんだぞ。ふむ、燃料製の一応武器なんだなあ。それに形が変わっておるのう。片刃なんじゃな。ふーむ、刃の長さは、0.7ライン程度バスターソードと同じ程度の長さじゃが、軽い。重さが半分以下じゃのう。初めて見た武器じゃあ。」
などと、私の日本刀の方に興味深々でしたあ~。とは言え、私は、居合道の三段、古流は、新陰流少々・・・頼まれて、その技を披露したりして、何とか支給品のスナイパーライフルSB3の改造をお願いしていたのですけどねえ。
「うーむ、中々道理に合った剣技じゃのう。帝国では、わしの知る限り、そんな技と言うか剣技は存在せん。」
「ありゃあ、機関長狙ってなあ。」
「ああ言うの見ると見境無い人だからねえ。」
「多分、絶対取り上げるでしょうね。」
などと言われております。刀を鞘に納めて、逆さにして見せました。
「ほおー。」
「あれえー、抜けてきませんねえ」
「そうですよ、ここの鍔と言う金具の刀の側に、銀製の金具が付いてるでしょう。これが、はばきと言ってね、ストンと刀が抜けない仕組みなのですよね。」
「うーむ、じゃがそれでは、いざと言う時、コンマ秒遅れるのではないのか。」
「さっき見せた技、そんな事感じましたか。左手で、こうちょっとだけ抜くんですよね。鯉口を切るなんて、うー、帝国語だと説明しにくいですねえ。」
「ふーむ、とにかくフルスキャンしろ。そっちの鞘の方もだ。恐ろしく微妙なバランスじゃのう。うーん、以前デブリとぶつかった時交換した破損した装甲板、確か57番倉庫に在ったはずだ。大きめに取って来い。キサマよーく聞け、ハンターはなあ、かなり強力な防弾防刃のハンタースーツ、サバイバルスーツを着ておるのじゃよ。むっ、来たか。よし精密生製機に入れろ。鞘の方は、少し柔らかめのチタニュームを加えておけ、重さのバランス共同じになるはずじゃあ。ううん?以外に材料が少なくてすむのう。まあ、予備じゃあ。二本創って、まだかなり余るのう。」
あれえ?私の刀が三振りになってしまいましたねえ。
「ハンターを相手に戦うのなら、こっちの、新しい刀でないと、文字通り刃がたたんぞ。まあ、二本創ってしもうたから、キサマのこの燃料製剣一本と、今わしが創った剣二本と交換してやってもよいぞ。」
「一応改めても良いですか。」
「ふむ、剣士としての素質が在る。かまわんぞ。」
こっ、これは・・・長さや形だけでなく、重さやバランスまで、全く違和感が有りません。物凄い技術ですねえ。もう一振りも、全く同じ鞘に付けていた、下げ緒は、元々絹製でしたけど、いったい何で出来ているのやら、手触りまで、違和感がありません。抜刀と、納刀を繰り返して、ただ、切れ味が桁外れな凄みを帯びている感じに、少し戸惑っておりました。それを何を勘違いしたのか、私が交換を躊躇っているとでも思った機関長は、
「ちょうど、材料もそろっとる。剣を交換するなら、ついでに、キサマがさっきから言うとる、火薬式の銃も、注文通りに着くってるぞ。」
なんて、言ってくれました。無論私にとって、願ったり叶ったりでした。そして、私の注文通りのスナイパーライフルが、完成したのでした。所要一時間くらいでしたでしょうか。同じ弾でも、銃身が長いと、飛距離はのびます。また、ライフルの螺旋状の溝の精密度によって、弾は、まっすぐに飛びます。支給品のスナイパーライフルSB3は、この辺の造りが、大量生産と、コスト節約の為、地球では、考えられない合金で出来ております。結果全体的に重いのですよね。しかし、この船旧式の戦艦だった様なのですが、その壊れた装甲板を再生して、完全に作り直した為、軽いのですよね。まあ、支給品よりは、ですけどね。最大飛距離も、支給品の800ラインより長い、1000ライン。ハンターのスナイパーライフルと、互角です。しかも、これは、私がターゲット用の弾を使った場合なのですよね。何故こう言ったことが理解出来るのかは、私の頭の中の、マイクロチップが、教えてくれているからなのです。ハンター用の弾を使えば、1500ラインは飛びます。有効射程距離は、だいたいさいだい飛距離の60%と言われております。ですから、当面は、600ラインでの私にとってのみ、命のやり取りになります。さらに、余った材料で、帝国標準型のスタンダードナイフを6本貰いました。シンプルで、極めて使い勝手の良いナイフでした。仲良くなった、機関室の方達から、実に色々な装備なども貰いました。それに、現場ならではのアドバイス。ライフルの練習もさせてもらえました。支給品のバギーの改造も出来ました。この時既に、船は惑星パラダイスに到着していたのです。私は、一番最後にリリースしてもらえる様になっております。残り二日。
リアルハンティング惑星のオープン
その十日程前に、惑星パラダイスは、予定日にオープンしました。全ての設備は、パーフェクト。ただし、獲物は、計画の82%でした。なにしろお客様は、帝国の支配者中には、裕福な一般市民が、予約した席を、半ば強引に、まあ面子がありますので、それなりの無人恒星系を与える程度の帝国レベルでも、少々ヒートし過ぎの、注目を浴びておりました。
原則、職員以外は、生体アンドロイドのハンターとトレーダーだけ、後は、作業用の電子脳制御の生体アンドロイドと、通常型、戦闘型のアンドロイドだけのはずだったのですが、ギガネットを初め多くのマスコミが、生身のレポーターを送り込む事を、すったもんだの末、認めてしまったのでした。何分バックに「帝国動物愛護協会」が居たことが、決定的でした。対して、ガゼル社では、地表への往復シャトル料金、また、滞在費を、帝国貴族の料金と同額とする、法外に近いけれど、法内料金である。そう、貴族の方々が、認める。まあ気安く取材不可能な惑星として、対抗したのでした。
すでに、本社役員、関係管理職総動員体制だったのでした。そのような中。
「ターゲットが少ない上に、歯応えに、やや欠けておる。」
「亜人種を仕留めたが、今一緊迫感を感じなかった」
等々の、無視出来ない方々からの、クレームも少し出ており、その対応にも、更に苦慮せねばなりませんでした。
その様な中、はなからオープンに間に合わぬ、のろま号がオープンに遅れる事5日目にして、やっと到着。ただ、獲物となるべきターゲットの質が、さして期待出来ぬ事と、比較的軽いレベルのエリアのターゲット激減の補充として、比較的えりあナンバーの小さい付近に、リリースが開始されました。なんと言っても、二百万匹でしたので、最低3日、下手をすれば4日必要でした。そして、思わぬ計算外が発生したのでした。
メデューサ号のリリースは、夜間おこなわれます。無論ハンターの邪魔をしない事、ハンティングエリアに、無粋な連絡艇の着陸シーン等見られたく無いためでした。そして、よが明けて、ハンターの方々が、余裕を持ってハンティングを開始した直後、単独行動の多いハンターを中心に、ターゲットに返り討ちに在ってしまったのでした。特に、文句を言っていたハンターは、大半がターゲットによって強制退去、臨死体験付きの目に会わされてしまったのでした。その日メデューサ号の経理に670万セルが、振り込まれました。契約で、倒されたハンターが、特約契約によって、通常の十倍の料金で復活した場合、その1%が振り込まれる事になっていた結果でした。これは、ガゼル社にとっても、全く計算外の殆ど純利益と言う収入が、67000万セルたった一日入金された訳で、その他の武器、装備代金を合わせると、もはや隠れて笑うしか無い状態だってのでした。そればかりか、難易度の高いエリアでも、多くのハンターや、トレーダーが、オープン以来数多く強制退去させられていたのでしたから。経営戦略としては、既に選考投資分など、まるで問題にならない状況となり、帝国でも大手企業であるガゼル社としても、殆どの経営陣が、何らかの関連業務に就かざるを得なくなって居たのでした。この為、一般富裕層で、比較的安全なエリアで、お手軽に遊びを楽しんで居たハンターに対して、裏や裏の裏から、様々な良いお話、圧力が掛って、約四万人居た一般富裕層のハンター席は、帝国レベルで非常識な価格にて取引され初めておりました。
無論この様な美味しい商売を見過ごす様な、甘い帝国企業ではありません。急ピッチで、同様、改良型のリアルハンティング惑星制作に着手しておりました。帝国中央研究院にしても、実験データーが多い程良いに越した事は有りませんでしたが、元々実験プラントで、サンプル的に製造していたマイクロチップは、それ程簡単に増産出来るモノでは無かったのです。この為、後発の伝の確りと有る大手以外の、小回りの効く中小企業では、帝国中央研究院より、マイクロチップの製造ノウハウを入手して、粗製乱造的なマイクロチップを使用するしかなかったのでした。更に、ここが正念場とばかりに「帝国動物愛護協会」が、帝国中央主力艦隊まで動因して、ターゲットの入手は、困難を極める事態が予想されていたのです。
生き残る為の残り二日
結果的に、経営危機を訳が解らない内に乗り越える事が決まったメデューサ号では、とにかく、初日の昼間時間帯で、私に対する態度が、急激に良くなった事は、肌で感じられました。亜人種をリリースさせる時に渡せる支給品には、色々と制限があったのです。しかし、乗組員が、趣味で造ったり、持っている規制範囲内の武器や装備に関しては、一切無制限なのでした。
バギーには、機関員が趣味で組み立てた、光学迷彩システムが装備されました。動力のジェネレーターも、ベータジェネレーターから、イオタジェネレーターに換装はれて、エネルギーパワーと効率が約二倍以上、一応薄い防弾テクタイトの窓は、頑丈な厚い強化透明テクタイトになっております。更に、開け閉め出来る屋根には、有り合せの資材で製造された、ハンドメイドの20ミリ機関銃が、ドテンと乗っかっております。弾は200発ですけどね。ただ、この武器に関しては、
「絶体絶命以外、絶対に使うな。馬鹿デカイ音で、上物のターゲットが居ると、宣伝する事になってしまうし、弾の補充も、不可能に近いからな。だが、使わなければならないときには、躊躇うな。」
等と言われております。普段は、光学迷彩をより効果的にする為、バギーと同じ迷彩色のカバーで覆っております。また、支給品のライフル用の弾は、60発と決められていますが、アサルトライフルの場合、30発セットされたカートリッジが、本体にセットされた物と予備6本が認められています。ただ、私が創ってもらったライフルですと、ハンター用の強壮火薬でも、びくともしませんが、支給品の全てのライフル、拳銃で、ハンター用の弾を撃ったら暴発してしまいます。ただ、弾の大きさは、各サイズ統一されていました。ですから、
「このアサルトライフルは、絶対使うな。だが弾は共通だからな。分るな。」
そう言われて、アサルトライフルと実弾を210発余分に貰ったのでした。ただ、いざと言うか、逃げまくっても、いずれ弾薬は底をつくでしょう。拳銃も支給品で最強の7ミリ7連発と、予備弾14発を貰った上、ハンドメイドのより強力な拳銃まあ、見た目はソックリ、ただし、ハンター弾使用可能の、私が身に付ける拳銃も貰いました。こちらの弾も21発渡されました。
服装も、いくらなんでも、セーラー服では、動きもまま成りません。サバイバルスーツを予備込みで、頂きました。食料も、本来渡される携帯食30食を四倍の120食貰いました。水が10ウエイト・・・多分10ℓよりちょっと少なめの、携帯タンクが三つ。バケツらしき道具が一つ、調理器具らしき道具一式。うーんライターですかねえ、発火器具が二つ等々、多分5人乗りに後部トランク付きのバギーに詰め込める限りの品々を貰いました。
その間にも、連日ライフルの射撃訓練は続けていました。とは言えOKが出てから、たった七日間、避けられぬ運命なら、正面から食い破る覚悟でしたが、しょせんは、付け焼刃のはず?・・・600ライン先の的に対して、百発百中。的の中心に、一回り大きな穴を開ける腕前となっておりますねえ。なんて、余裕を見せておりましたが、生き残ると言う意味で、私は恐ろしく貴重なアドバイスをもらったのです。
「確かに凄げえ腕だ。けどよう、お前実戦の経験無えだろう。たった今、この一瞬お前は、丸腰と同じなんだ。分るか。ライフルに一発の弾も入ってねえだろうが。いいか、撃ったら、必ず弾を込めるんだ。」
「うっ、言われてみれば確かに・・・でも、この銃なんで一発ずつ、弾込めしなきゃならないの。」
「お前が送られる惑星の、まっ、なんだなルールだ。ハンターも同じなのさ、スナイパーライフルのハンディーになってるはずだ。アサルトライフルなら、30発入りのカートリッジだけどよう。あそこで生き抜くには、弾をバラ撒いてちゃあ、一月持たねえぜ。お前さんの、変な改造銃、意外と正解なのかもな。けど、実戦経験が無いのは、致命的かもなんだ。撃つときには、絶対躊躇うなよ。銃には、何時も弾を込めておきな。」
帝国には、徴兵制度がありまして、一部の人は、本物の実戦経験があります。そんなひとりからの、アドバイスでした。後に私の生死を分ける。本当に貴重なアドバイスでした。
にしましても、私、如何なってしまったのでしょう。視力は元々2.0でしたけど、集中すれば、1000ライン先の説明書が読めます。ちなみに1ラインは、1mよりちょっと短いですね。私の文具の入ったディバックの中にメージャーが入っていたので、計って見ましたら、1ラインは98cmでした。ただ、今の私にとっては、どうでも良い事でした。ついでに、これから先の世界では、一年が十二ヶ月、毎月30日で、一年は、360日なのです。1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒。まあ表示単位名は異なりますけどね。まあ、分りやすく、表現しています。ただ、どうも・・・私は携帯が嫌いでしたし、時計も持ってないので、感覚でなのですが、何か、一日が、長いような・・・突き詰めますと、一秒が微かに長いのでしょうねえ。あまり違和感は無いのですが、睡眠時間が、長くなったみたいで、楽なのですよね。
惑星パラダイスにて
は、置いといて、遂に最後の連絡艇で、深夜に、私はエリア21に置き去りにされました。私のこの惑星に対する知識ですと、両極地、赤道直下、全く関係無く、気候は同じです。そして、エリアと呼ばれる区域が、形や、大きさに差がありますが、合計100在ります。完全に別格のエリア0。お手軽、案内人付きの、超初心者専用がエリア1~5。初心者用がエリア6~9。エリア10~19までじわーっとレベルが上がっていくのです。エリア20以上からは、亜人種もリリースされており、エリアナンバーが大きく成る程、危険度が、大きくなります。更に、エリア90~99は、特別エリアで、条件を満たしたハンターのグループ、又はトレーダー以外入れません。
私がエリア21にリリースされたのは、まあ多分たった一人だったからでしょうねえ。
しかし、改造バギーと、目一杯貰った、武器、装備、食料が在っても、それだけでは、決して長生き出来ないと感じていました。夜が明けて、バギーを動かしたと同時に、その場でストップしました。さしてスピードを出す以前にです。物凄い砂煙が起きかかった為でした。これには、ちょっと参りましたね。そこで、超微速度で、岩陰に移動して、光学迷彩スクリーンを展開して、じっとして居る事にしました。そして、やる事が無くなると、急に、何が悲しくて、こんな処で・・・そう思うと、悔しくて、悲しくて、涙が止まらなくなってしまいました。
私に、こちらの世界でも非常識レベルで頭の中に打ち込まれたマイクロチップと言う、超科学の実験サンプルは、誰も予想出来ない適合度で、私に必要な知識を与えて呉れています。この世界で、戦う能力も非常識レベルで与えて呉れています。でも、私自信は、本当に人間、まあソックリな生態アンドロイドと言う人形であっても・・・いえ、実は動物ですら殺した事のない・・・そうド素人でした。それでも、私は今ターゲットの一人として、殺されても、誰も文句等言ってくれない。守ってくれる人も仲間も居ない、たった一匹のザコキャラクターにすぎないのです。ハンターは、何処に居るのか分りません。私とハンターの装備には、格段の差が有ります。獲物を探す為の探知装置は、ハンターだけが、この惑星のシティか、タウンで買う事が出来ます。全ての武器、装備などは各エリアによって、格差が在るこの事がこの惑星の売り物の一つとなっています。ちなみに、探知装置には、熱源反応型と金属反応型が在るようで、最新情報は昨日までのものですが、最大半径1Kラインまでに、制限されて居るようです。私が今展開している光学迷彩は、完全に見えなくなる訳ではありません。ただ、周りの景色に色を合わせて分りにくくする装置です。ハンターのスティルススクリーンは、完全に見えなくする装置なのです。
私が、この世界で、生き延びる為には、ハンターを逆に倒さなければなりません。なりませんが、何かそれが間違って居るような気持ちは、いったい何なのでしょうか。
そして、現実は、それどころでは有りませんでした。凄まじい射撃音が轟いて居ります。かなり遠くですが、現に何故か非常識に良く見えるようになった私の視界の中を、青い大型犬らしきターゲットが、16匹程必死に逃げております。注視すると、タサガーL2・50P と、種族名、レベル、倒して回収出来るポイント数が、視界の下に表示されたりしております。私自信誠に変な体にされた様ですねえ。便利ですけどね。遠くを注視すると、ハンターが3名、倒した数匹きのターゲットからポイントを回収、ついでに、仲間と記念写真撮ってますねえ。更に、ハンターL5・15000P 等と表示されています。ついでに、視界の下には、「反撃必要」の文字が点滅しています。これ、警告なんです。ハンターが、探知装置を装備していて、バッテリーの消耗は激しくても、最大レンジですと、私は見付かってしまいます。如何しても、人を撃つ事等出来ません。ただ、じっと隠れていました。幸い見付からずに、ハンターは、私と反対の方向に行ってくれました。私は、バギーに搭載されて居るナビゲーションシステムを使いまして、このエリア21の中心付近に在ります、タウン21から、100Kライン離れた場所を少しずつ、移動していました。このエリアには、大小の森が、沢山点在しています。水場もまた、巧妙に沢山在ります。私の頭の中の知識の固まりのアドバイスで、注意しながら森に入ると、木の実、果物、瓜らしき物、野菜ですか? 殆どの物が、食べられます。中には、調理の必要な物も在ります。実は、この惑星パラダイスは、人工的に造られた惑星で、毒物類は、一切有りません。と私の頭の中で、自称サポートチップが教えてくれております。
ただし、これらの食料が確保出来る場所は、猛獣クラスの群れが居たりして、油断は厳禁なのです。しかも、こう言った自然の恵みを採取するには、マナーが在るのです。美味そうな林檎らしき果実を集めていた時、まだチョッと早すぎるかなあ、などと思って実をもいだ時、ルーL1・10P。うーんと小さな猿かなあ?に、
「まだ、美味くない。採るな。でも、採ったら必ず食べろ。」
なんて、叱られてしまいましたよう。でも、彼らを見て、ハンターの装備のひとつペットカードが有る理由が解りました。しかし、私が、本当にこの惑星で生き抜くために、絶対必要なアイテムなのです。亜人種に限り、このカードを持参すると、タウンに24時間入る事が出来るからです。必需品の補給には、このカードと、ハンターが持っている現金が必要なのです。
とは言え、その為には、ハンターを倒さねばなりません。それは、ハンターを殺す事で、私には出来そうもありません。ですから、出来る限り、貰った携帯食を節約して、果実や木の実、野菜、瓜などを食べる様にしていました。こうして、三十日ほど、逃げ隠れしながら、少しずつエリアの中を移動していました。
もうひとつ、ターゲット同士のルールがありました。それは、水場のルールです。猛獣でも、小動物でも、亜人種でも、水場だけは、絶対に互いを襲ってはならないと言う事です。しかし、何処の水場にも、必ず一箇所以上ハンターにとって、実に都合の良い場所がさりげなく設けられていたのです。
やがて私は、一つの泉に腰を据える事にしました。それは、私が知る限り最も小さくて、綺麗な泉でした。ハンターの射撃ポイントは、直線で500ラインくらい離れた岩山の頂上近くに在ります。高さは、30ライン程しかありません。岩山と言うより丘でしょうか?泉側が、切り立っていて、水場に居る時、ハンターに陣取られたら絶体絶命の危険性があります。丘の中程の岩の割れ目から、滾々と綺麗で、美味しい水が尽きる事無く湧いています。滝つぼの様な岩に囲まれた池が出来ています。その池から溢れた水が、小川となって、500ラインほど流れていて、泥と砂地の地面に消えております。小川に沿って、瓜が生っていたり、藪が点々と出来ております。丘の向こう側は、大きな森となっております。車載のナビゲーションシステムによりますと、この森は、タウン21の真南に位置していて、付近では、最も大きな森でした。その南東のスミッコにこの泉が在るのです。森の中では、ライオンらしきもっと大きな猛獣クギューL4・1000Pと、二廻りほど小さい黒ヒョウみたいなバクラL3・500Pが、互いに縄張りを持ってたりしています。水場では、ハンター以外危険は有りません。ですから、泉の外側岩などが散在して居る場所にバギーごと隠れ住む事にしました。
もし、ハンターが、私の居る森の外側から侵入してくれば、砂埃で、直に分ります。また、森を抜けて来るのなら、私なんかよりもっと敏感な、クギューやバクラが気付いてくれるから、少なくとも不意打ちは、無いと思ったから、この場所を選んだのです。
水場では、ターゲットは種族を問わず、「みず」と言う単語が、帝国共通語で交わされます。動物が言葉を交わすのには、初めこそビックリしましたが、直になれました。まあ、種族によっては、聞き取りにくい発音も多いですけど、慣れですね慣れ。この惑星には空を飛ぶ鳥などは居ません。虫は居ますが、害虫は居ません・・・多分?
にしても、大きなクギューやバクラの群れが水場に集まると、ちょっと圧巻ですよ。しかし、そう言った猛獣が居ても、耳の丸い兎みたいな、リリーL1・10Pや中型犬程度の大きさで、姿は鹿みたいな、パピL1・15Pなどの大群が平気で水場に居るのですよね。ルーL1・10Pなども居ます。ただし、さすがクギューやバクラの内でも大物クラスが、要所で警戒のため見張りをして居るのですよね。水場の範囲は、500ラインも続く小川沿いまで含まれていました。肉食獣の獲物となる数だけは以上に多い小型の草食動物は、上手に水場へ来て、そして去るのでした。私は、常に刀を背負い、ベルトには、予備のライフル弾が20発入るケースを二つと水筒を付けています。沢山在るポケットには、携帯食のほか、色々な小物も入れています。また、6本のナイフを身に付けて、片手にはライフルをもっています。ショルダーハーネスに、拳銃も持っています。ハンターに近いスタイルなので、初めの内はかなり警戒されましたねえ。でも、ターゲットと分ってからは、全く無視されてますね。ただ、「みず」の挨拶だけでした。他にも色々な動物が、水を求めてやって来ます。
そして、驚いた事に、この泉を利用して居る宇宙人・・・ですよね。モルグ星亜人種・L6・6000P などと、視界の下には表示されすおります。大人の男女4人と、子供が2人の小さなグループでした。大人の男性二人が、アサルトライフルを構えていました。他の4人は、手にバケツと、かごを持っていました。
「みず」
と言ったら銃を下げて、
「みず。すまなかった。ハンターみたいな姿だったから、用心させてもらった。他にも食料を集めに来たのだ。」
「まあ、確かにこの水場の廻りには、瓜や果実が随分自生してるからね。」
「一人なのか。」
「まあね、その分、武器も装備も、新米ハンターには負けないだけ持ってるし、訓練も短かったけど受けたよ。クギューの大物が、あそこの多分ハンターが陣取る場所を中心に、見張っていてくれてるよ。今は安全だね。」
なんて、まともに人と話したのは、もう一月ぶりなんだなあ、なんて思っておりました。それにしても、あのアサルトライフルでは、ハンターに都合の良い、この水場で唯一の場所から狙われたら、弾が、ハンターの処まで届きませんよ。後2丁、スナイパーライフルも持っていましたが、それでも、高低差を計算すると、ギリギリ届いても、ハンターを倒すどころか、傷を負わせる事が出来るかどうか。あの武器では、戦えない。そう思いました。
彼らは、バケツ二杯の水と、水場の周囲に生っていた、少し採るには早すぎますよ~的瓜と、果実、野菜等をかごに詰めて、逃げるように、多分彼らの隠れ家へ戻って行きました。彼らの帰った後に、人形が落ちていました。う~む、罠では無いし、危険物でも有りません。単なるオモチャの人形。美的感覚が異なるのか、あまり可愛くありません。女の子が居たから、落し物でしょうか。拾って・・・バクラの警戒の吼え声。クギューもまた、警戒の吼え声。ハンターが遂に、この小さな泉にまで、向かって来ました。
私は、自分のバギーに戻りました。光学迷彩装置を入れて、防弾ガラスもセットして、万一の時には、逃げるつもりでした。私の装置は、完全に消音されています。ですから、恐ろしく静かでした。やがて、ハンターの足音さえ聞こえて来ました。何故かハンターのブーツには、滑り止めの金具が付いています。ターゲットである私にも、ブーツが支給されていますが、金具は付いていません。まあ、それ以上に、なにやら二人組みのハンターのようで、話し合いながら、やって来ます。それに、なにやら金属製品を沢山持って居るようで、ガチャガチャ音を立てております。時間的には、お昼過ぎ頃でした。ハンター達は、やはりあの場所に向かっております。その後ろを襲おうとしたクギューが、数頭纏めて倒されました。うわー、15ミリ弾のハイパワーアサルトでしょうか、30連発。あんな物持って来るハンター、とんでもない相手です。さすがの猛獣クギューが、手も足も出ませんねえ。などと、私は、縮こまって隠れておりました。視界の下の表示では、ハンター襲来、射程距離内、狙撃必要、などの文字が、点滅しつつ、まるで私を責め立てるように、色まで赤色で、繰り返しておりました。それでも私には、人間の姿をしたハンターに、その為に0から造り直したライフルの銃口を向ける事は出来ませんでした。ただ、隠れて観察していました。ハンターは、予想通りのポイントに陣取ってしまいました。そして、強いて言えば、折りたたみ傘を更にコンパクトにした様な・・・広げると、ビーチ腹そるより大きい半透明な、ふむ、視界下の文字によりますと、この惑星では、エネルギー系のバリアは禁止の為、特別に造られた、側面~後方防御の携帯装甲なんですと。ちなみに、現状私のスナイパーライフルでは、撃ち抜けません。
そして、ハンター達は、泉にまだ沢山残っていた、小さなターゲットに対して、今度は9ミリのスナイパーライフルを撃ちまくっています。まだ、この泉では、ハンターに襲われた事の無い、まあ、この地域の本来のハンターの獲物の食料用の小動物は、非常に沢山いますけど、あんなターゲットいくら倒しても、ポイント貯まりませんよ。なのに、ハンターは、完全に遊んで居るかのように、射撃を続けていたのです。
しかし、その時の私が全く知らない理由が有ったのでした。その責任が、実は私にあったと知った時には、震えるほど後悔したのです。
最終的に、倒されたクギュー4頭、リリー、パピ、ルーその他泉の周りは、血の海と化していました。惑星パラダイスのターゲットには、夜行性の動物は居ません。元々夜行性でも、全て、暗くなると寝る様にされています。夜動き廻れるのは、ハンターと、亜人種だけなのです。やっとハンターは、夕暮れ前に引き上げてくれました。にしても、耳が痛くなるほどの、轟音でした。今でも耳鳴りがしています。回りには、多くの犠牲となったターゲット、それも、本当に小物のターゲットが死んでいました。そして、倒され殺されてポイントを奪われたターゲットに対しては、視界の下の表示が、全く異なっていました。
「食用可、毒性無し」「生食可なるも、加熱処理が望ましい」思わず私の頭の中に、文句いっちゃいましたよ。
「これは、パピでしょう、こっちはルー、それにリリー、ハウナも居るわよ。」
「既に生きて居ない。ポイント反応による識別不可。現状食事が果実野菜類に偏って居る。動物性タンパク質の摂取の不足は、生体活動に悪影響を与える。これらの食用肉を摂取する必要を忠告する。」
ぬぐ!・・・この血の海、死骸の山をみて、ウップ・・・そりゃまあ、理論的に理解するだけの知識や考え方は、知らない内に教えられてましたよ。・・・そう、私がこの惑星で生き延びる為には、う~・・・仕方ないですか。
リリーを捌いて、皮を剥ぎまして、骨付きのお肉の塊に、そりゃ覚悟を決めましたし、調理器具は揃ってますしね。3頭まあ、良い処取りで、バギーに備え付けの、コレまでは、アイス果実作ってた冷凍ケース満タンにはしましたよ。一部、塩と、こっちの世界での調味料を振りかけて、レンジで、チン。までは出来ました。でも、美味しそうな臭いに対して、その~・・・作業工程からでしょうか、如何にも食べられず、生肉と共に、冷凍ボックスに掘り込んでしまいました。丁度その時、昼間に会った6人のグループが、恐る恐るやって来ました。
「あれえー、また水なの?」
「いや、あの銃声の嵐。ハンターが遂に来てしまったのだな。」
「ああ、見ての通りさ。酷いものだよ。」
既に薄暗くなっておりまして、この惑星にリリースされたドア物系ターゲットは、鳥目にでもされたのか、クギューも、バクラも出て来ません。夜間行動出来るのは、ハンターと亜人種だけ。しかも、プライドの高いハンターは、寝ているターゲットに対する夜間攻撃は、絶対しません。どうやら、名誉を守る為?らしい・・・
そして、もう一つ別のルール。食用肉となった元ターゲットの所有権は、先着順なのです。これは、せっかく運んで来た猛獣が、争って数を減らさない為に、射入されたマイクロチップによって、完全制御されています。・・・あっ、そうかあー、分っていても、慣れてないからですね。
「私に必要な獲物は、既に確保したよ。残りと言っても、こりゃあとんでもないりょうだけど、お互い生き残る為だよね。欲しいだけ持って行っていいよ。っと、これ落し物かなあ。」
彼らの中の女の子にとって、それは考えられない程大切な、人形だったようでした。ないてお礼を言われちゃいましたよ。でも、良かったね。
「重ね重ねすまない。感謝する」
そう言って、彼らは、一人一匹ずつ担いで、帰っていきました。私のバギーは、フルパワーで動き廻っても、一年以上燃料バーが欠乏する事はありません。まして、現状の使用方法ですと、軽く7~8年補給は不要の優れものです。夜の内に短時間アイドリングで、全てのバッテリーに充電しておきますと、車載装置は、丸一日、二十四時間使いっぱなしでも、持つというシロモノなのですよね。運転席の座席は、簡易ベットとなる、さすがと言える優れ物です。気候の穏やかなこの惑星では、毛布と夏布団それにシートをたして、三で割ったような。柔らかな、厚い布地らしき・・・うー、布団一枚で、年中平気のはずです。まだ、この惑星にリリースされて四十日ちょっと、好戦的な、亜人種で、既に全滅した種族も居ます。えー、バギーに装備されて居る無料専用配信ネット。惑星パラダイス限定ですが、ある程度の情報入手は、可能なのですよね。2度に渡って損失を出しながらもハンターを逆襲全滅させた種族が。ついに全滅させられたのが、エリア77。私の居るエリア21と比べると、格段にレベルの高いエリアでの事でした。
「今日は戦うべきであった。」
等と、不要な教育をうけつつ、眠りにつきました。
ターゲット№13130のマコト
夜間行動する者は、ハンターと亜人種のターゲットに限られていました。そして、ハンターは、眠っているターゲットを見つけても、名誉の為、絶対攻撃しません。しかし、夜間活動中のターゲットを攻撃しても、何ら恥では無かったのでした。特に夕暮れ近くまで、泉周りの、小さなターゲットを必要以上に執拗に倒したのか。その瞬間まで、私は、全く気付かなかったのでした。
激しくシャープな連続した射撃音と、散発的な鈍い射撃音で、私は飛び起きました。普段の装備を整えたのは、一瞬の事。私のバギーは、ハンターのポジションも、として泉周りの大半をも見渡せる位置に停めています。バギーの中なら安全と一瞬頭の中を過ぎりましたが、私は即バギーから、ハンターを狙撃出来る場所へ移動を開始しました。私の体の変化の中に夜目が利くようになった事があって、昼間とさして変わる事無く、見えるし、行動出来ます。ハンターと戦って居るのは、あの6人でしょう。確認、あの6人です。
多分、あの6人は、久々に肉を食べる事が出来たのでしょう。私と違って、三十食分の携帯食しか、与えられない事が、普通だったから、みんな痩せていましたしね。そして、久しぶりに飽食したのでしょう。おそらく彼らは、まだ沢山の小動物の死骸が残って居ることを考え、朝になったら、猛獣が来て、全部無くなってしまう。そう予想したのでしょう。それは、当然の事だったから・・・っう! 待てよ? ひょっとして、ハンターはこの事を予想していた! なぜ? 如何してハンターは予測出来たの? だからあんなに、無駄に近いターゲットを殺しまくったの。如何して?
ただ、現実では、泉の近くに4人が倒れてして、今またひとり、倒されて、私が岩を盾に、ハンターを狙撃出来る場所へ辿り着いた時、最後の一人が倒されました。ハンターは、容赦なく、倒れた人達に、射撃を加えています。
その時、私の中で、何かが音を立てて、切れました。
ハンターが、やったとばかりに立ち上がった一瞬、私の超改造ライフルが、音も無く7発とも、ハンターを標的として、全弾命中。ハンターに留めをさすべく、視界の下の赤い点滅表示、「残弾0、警告残弾0」に従って、ライフルに弾を込める、短期間とはいえ、確りと練習した行動は、実戦では、難しいと感じながら、何とか7発込め、セーフティーも外して、即撃てる体制で、ハンターの倒れた場所へ移動しました。
「ハンターはよう、防弾、防刃の服を着てっかんな。狙えたら顔か頭を狙いな、体に命中だったら、近づいて反撃喰らうまえに、もう一回撃て。近けりゃハンターの服でも、貫通出来る。忘れんなあ。」
あの、メデューサ号での、射撃練習の時に、実戦経験の在る人が教えてくれた・・・生きているか、もう死んだのかまでは、今の私には分りません。ですから、50ラインで7発、目の前で7発撃ちました。更に弾を込め直して油断無くハンターに近付きました。すると、視界の下に「ゲット・ハンターL8・18000P×2。ゲット36000P。レベル8よりレベル11にアップ承認。」の文字・・・人を殺した・・・
「私、人を殺してしまったのよね・・・」
思わず独り言を呟いていました。しかし、私に射入されたマイクロチップによって、私がこの後成さねばならない義務行動を理解させられました。ハンターの武器そうび、弾薬、そして、この森に移動する為の多分バギーのキーなどの回収でした。ひれにしても、ハンター二人で良くもまあ、こんなに沢山持って来たものですねえ。今ハンターの間で流行の9ミリスナイパーライフル、ハンティングAが2丁、15ミリアサルトライフル、バトルA2丁、拳銃は、7ミリですか。2丁。ライフル弾残りで、一箱半?約100発程度かしら、15ミリの方は、30発入りのカートリッジが、一人予備6本、二人で12本他にも、剣や、サバイバルナイフ?多分。水筒や携帯食など、服装と、バックの中は、一杯でした。はっきり言って、自分のバギーまで、二往復しましたよ。特に私のライフルは、ハンター用の弾も使えます。後悔は後悔、気落ちは気落ち、欲は欲でした。
まるで腐った物でも食べた様な、不快さと、後悔、悔しさ、そんな物を飲み込んだ様な気持ちで、それでも、万一の可能性、重症でも、生きているかも・・・確率0と知りつつ、泉に向かいました。その結果、後悔の限界を越えると自分が如何なるのか、身をもって体得してしまったのでした。
「ゲット・モルグ星亜人種L6・6000P×6。ゲット36000P。レベル11よりレベル13にアップ承認」の表示・・・知識として、知って居たはずなのに・・・倒した相手、倒された者のマイクロチップは、生命反応消失確認後、約1ラインの距離まで、ポイント譲歩のシグナルを出します。だから・・・
「いっ! いらないよう。要らない・・・こんな・・・」
もしかして、生きていたらと、思って・・・僅かでも希望が有ればと、思って・・・バカ、私のバカ。
視界の下に、「武器の回収要」の文字が点滅していました。仕方なく、何処がスナイパーライフルなの?SB1型が2丁、銃身は短いし、ご丁寧にボルトアクション、第一直接照準じゃあ、あそこのハンティングポイントをねらえませいよ。アサルトライフルAB1も2丁、こっちは、弾があそこまで飛んで行きません。二人の子供も拳銃を握っていました。PP1型、一発は撃ってたけど、こんなの、嬲り殺しじゃないのよう!
そして、これだけの射撃音、クギューも、バクラも起きたはずなのに、動けないみたい。でも、私には、まだやらなければならない仕事が在ります。全部半強制的義務感による行動です。まず、私は、予備を含めて、ライフルの9ミリ弾をハンターの弾に交換しました。拳銃もハンターの強力な物に交換しました。そして、バギーのキーを持って、真夜中の森の中で、ハンターの足跡を逆に辿りました。森の北東に出た処に、駐車するのに丁度良いスペースがさりげなく在って、ハンターのバギーが一台、置いてありました。私のバギーより、多分高性能、だけど、以外に小型ですね。キーで解錠して、車載電子脳に、ハンターを倒して、そのポイントを奪った事を告げました。何やら調べてた様でしたが、バギーは、私が新しい所有者と認めてくれました。これで、やっと私は、このバギーを動かす事が出来るようになったのでした。そして、これからが、一苦労なのです。この場所まで、森の中、ん~端っこの方を歩きますと、30分程なのですが、バギーで、私の泉へ行こうとしたら、超大回りの上、迷路のようなオフロードを3~4時間掛けねば、辿り着けません。まあ、このエリア21はそう言った創り方をされております。一度、オフロードを戻りまして、危険ですが、舗装された道路に出ます。そこから、タウン21とは逆に、エリア23に向かう方向に走らせ、ちょっと見分けにくい、岩が左右に小山みたいに、沢山在る場所の、ある岩の向こう側を左に入り・・・まあ、四苦八苦です。コースを外れると、車輪が泥沼にはまったり、砂にはまったり、簡単ではありませんよ。
泉から森の外側は、南東方向に向かって、500ライン程の小川と、湿地帯になっております。また、東側から南側にかけて、小規模な岩や砂地の混ざった複雑な地形になっております。夜明けまで、まだかなり在ります。喉元通ればなのでしょうねえ。私のバギーに横付けしまして、ハンターのバギーを漁っておりました。なにせお宝の山でしたもん。予備のハンティングA1丁と、バトルAも1丁、予備弾は、9ミリ弾が4箱240発、15ミリ弾が、9箱540発。まあ、私に必要な9ミリ弾は、ハンターが持っていた分と合わせて、全部私のバギーへ移しました。その代り、私の持っていたターゲット用の弾は、ハンターのバギーに移しました。携帯食料が、48食分これは助かりました。メデューサ号で、私が貰い忘れていた救急セット一式。そして、あったあ!財布が二つ、彼らのポケットまで探して、見付からなかったから有る筈と、本気で探していたのです。ふむ、何やらこのが、お金でしょうねえ。私の知識によりますと、この世界では、カード、電子マネーが主流なのですが、この惑星では、電子マネーが使えないみたいなのです。そして、在りましたあ、ペットカードが1枚ずつ、合わせて2枚。これで、私は、月に2回、タウン21で、必需品の購入が出来ます。お金は・・・多分この財布で足りるはず。そりゃあ、当然、私はこの星にリリースされて、既に40日以上お風呂に入っていません。まあ、せいぜい絞ったタオルで、体を拭く程度の事はしていましたよ。着替えも一着、アンダーシャツと下着は、三セット貰ってましたけどね。だから、まだましな姿してますよ。それと、前にも言いましたっけ、ターゲット用の弾とハンター用の弾、素材、火薬が問題にならない程違っています。ライフルの素材強度からして、違ってます。ですから、普通ハンター用の弾をターゲット用のライフルで撃ちますと、暴発します。それだけ、火薬成分が高出力なのです。それと、地球の銃みたいに、薬莢などと言う物は、はなから有りません。完全生成火薬の先に弾丸が付いております。ただ、私の完全造り直し消音ライフルは、え~っと、再生レアメタルとか言う、ターゲットとして、ルールスレスレの素材で出来てまして、ハンター用の弾を使えます。私の頭の中の知識のアドバイザーによりますと、50%飛距離が伸びるらしいですねえ。などと、お宝の移し変え中に、夜が明け始めました。こんな処ですね。とハンターのバギーを少し離れた場所に移動しました。
ライフルと刀、拳銃は必帯品。刀は左肩から背負って、ショルダーハーネスには、昨夜ハンターから頂いた拳銃とよびカートリッジ一個。ベルトには、20発の9ミリハンター弾入りケースが二つと、水筒、そして、手に入れたばかりの携帯救急セット。沢山在るポケットにも、色々な小物を持って、ナイフは6本。で、左手にシャベルですよね。と思われる道具を持って、泉に向かいました。昨夜は、ほぼ完全な徹夜だったはずなのに、全く平気でした。体質まで変えられたみたいですねえ。目的は、あの6人の埋葬でした。ただ、視界の下には、「非論理的行動」などと文字が出ておりますけどね。そして、その注意は、現実の物だったのです。ターゲット間火戦闘区域である水場では、クギューとバクラが、競争で食事中でした。彼らにとって、食用肉と化した元ターゲットは、その個体に、先にタッチした方に優先権が在る様でして、
「こっ! こんなに居たの?」
泉へ行くにも、一苦労な程、びっしりと、全員お食事中でした。無論私が埋葬するつもりの6人も、同じでした。唖然と言う事態を見た思いでした。シャベルを戻して、タオルと、バケツを持って、改めて泉で、顔を洗い、バケツに水を汲んで、戻りましたが、
「みず」
の挨拶に対して、
「食事中」
の返事をされました。これは、水が欲しいのなら、自由に使え、ただし、この肉はオレの物だ。の意味です。朝食に、残り少なくなった、貰った携帯食を久しぶりに食べて、ふふふっ、いえね、ハンターのバギーに、サーシュが一缶あったモノですからね。道具も一式、ドリップコーヒーの入れ方と、ん~やや近いかなあー。勿体無いので、一杯分で、調理器具のポット一杯入れてみました。う~ん。美味い。だいぶ薄いですけど、メデューサ号で飲ましてもらったサーシュより格段に差がありますねえ。
私もかなりこの世界の環境に慣れたようです。だって、あの猛獣の食事シーンを見ていながら、ちゃんと食事が出来たのですからね。で、ハンターの方が如何なったのか、見に行きました。こちらは、クギューでも、頭級が食事中でした。食事済ませておいて良かったですよう。だって、人間食べてますもの。ギロリと睨まれましたよ。
「それって、美味しいの?」
「美味い。仲間が4頭も殺られた。恨みのソースが良く効いておる。ムッ、キサマの体から、火薬の臭いがする。」
「ああ、こいつら、私が倒したんだ」
と、急に殺気を向けられて、
「水場の6人も、キサマが殺したのか。」
「いいえ、私が殺したのは、この二人のハンターだけです。もっと早く殺しておけば、あの人達助かったのに。悔やんでも、悔やみきれません。」
「そうか、だが、こいつらだけは、殺すとは言わぬ。強制退去させると言うのだ。良くやった。あの6人は、我々より先に、ここへリリースされておった。大人しい者でった。ゆえに、同じ場所に住むモノとして、相互不殺の約束をしたのだ。お前は、如何する。」
「ぜひ、お願いします。」
「うむ、良かろう。森の中南側は、我らの縄張りだ。我らは食さぬが、木の実や果実なども豊富だ。欲しければ自由に取りに来れば良い。者共!聞け。我らは、このターゲットを認め、相互不殺の約束をした。」
何やら、了解の意味らしき咆哮が、響きわたりました。
「では、最初のアドバイスをしてやろう。お前は、無用心過ぎるのだ。注意して水場を見てみよ。はっきりとお前の足跡が残っておるのが分るだろう。ハンターは、最初から気付いておった。」
「まさか! じゃあ今度の・・・あの6人が殺されたのは、私の・・・私の」
「済んだ事だ。以後徹底的に注意せよ。お前のバギーも、今朝以前に移動させたバギーの位置は、簡単に分る。車輪の跡、お前の足跡。長生きできんぞ。」
目の前が、真っ暗になる程のショックでした。今回の件は、全部私のせいなの。全く気付いて無かった。足跡ですか。バギーのタイヤの跡ですか。まずは、バギー廻りの跡消しが先ですね。
そしてクギューの頭達は、食べられる全てを食べていました。岩に付いた血まで、綺麗に舐め取っていました。しかし、食べられないモノは、全て残されていました。ナイフが12本ですかあ。まあ回収ですねえ。皮革製のホルダーまで、食べちゃってました。やれやれですねえ。バギーに戻った私は、確かに、良く見える様になった目のおかげで、全力で、全ての痕跡をハンターのバギーともども消し去りました。やらねばならない事は、ある意味他の事を考えずに居られる救いでした。でも、さすがに少々疲れて来ましたね。お昼も、携帯食を食べたら、少し眠くなって来ました。昨夜の徹夜に対応すべく、お昼過ぎから一眠りしようとしました。ただ、如何にも寝なくてはと思っても、寝る事が出来ませんでした。バギーの座席をフルリクライニングにしますと、簡易ベットになります。そこで、寝るでもなく、起きているのでもなく、多分私は、悶え苦しんで居たのでした。夜になっても、寝ている様な、起きてる様な状態でした。そして、また夜が明けて来ました。また、絶望の次の一日の始まりでした。水場を眺める、視力集中、私の足跡は、クギュー一族が全て消し去ってくれていました。
そう、また一日の生き残りを賭けた一日が始まるのです。あの6人の生き残りの時間を奪ったのは、私の初歩的なミス。でも、人は目標が無ければ、生き残って行く事は、難しい。だから・・・だったら、私は、この小さな泉だけは守る。私が生きて居る限り、絶対に守ってやる。昇る朝日と、等間隔で上空に光り輝く衛星軌道都市を見上げて、本当に小さな、小さな力しか持たない私だけど、この泉だけは、守るし誓いました。 以下次巻
遂に、ターゲットとして、ハンターを倒してしまったマコト。まだ未熟なザコキャラながら、この世界の支配者層の、ハンターがこのまま見逃して呉れるはずがありません。他のターゲットより、ほんの少しアドバンテージを貰ってはいても、貴族のプライドは、想像出来ない程、高いのです。ハンターは、お遊び、倒されても、直に復活しますが、マコトが、心臓に一発弾を受ければ、即死、ゲームオーバーなのです。まだまだ、ハンターは、お遊びで、ハンティングにやって来るでしょう。