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たぶん異世界47日目 ~シリスの日記 3ページ目~

オレの拘束が解けるのと同時に転移した。


目の前には森が広がり、視界には距離があるが、先ほどまでいたと思われる館がオレの拘束術解除の反動で大きな爆発を引き起こしていた。大きな炎と煙を揚げ、爆発は収まる様子を見せない。



驚くべきことに、彼女はオレの拘束術を解除すると同時に転移術も同時に発動した。

そして、遠く離れているとはいえ、こちらに本来なら熱気や爆風が多少なりとも届くはずだが、防御壁か何かを展開しているのだろう。感覚的に姿隠しの術も展開されているようだ。どういった術式の防御壁なのかも、悟らせないなんて・・・


オレの『主』はどうやら只者ではないらしい。



嬉しい誤算だ。


心が躍る。

例え彼女が犯罪者であろうが、目的が国家転覆だろうと、構わないとさえ思えた。


不思議なことに、彼女の為なら、あれだけ大事に思えた騎士としての矜持や自国の民さえどうでもよいとさえ思えたのだ。


今のオレにはまだ、誓約は交わしていないが、『主』である彼女が最優勢事項であり、オレの世界の中心であった。命など、『主』の為に失われるならどうでも良かった。

もともと生には執着はなかったが、彼女の役に立てて失くす死以外は命に意味があるとは思えない。





なるほど。




これが、オレが望んでいた『主』か。




オレは『主』が望むのならば、忠誠を捧げた騎士としてどこまでも彼女についていこうと思った。





彼女を見つめていたが、彼女もオレを見つめていた。

とりあえず、彼女をオレの『主』にする為の第一歩として、助けてくれたお礼も言う為、名を名乗ることにした。


「礼を言う。オレはシーリウス・シリス・アドルフス・アーダンベルト・ベニート・プランドリア・ウィスタリア。シリスと呼んでくれ。君は?・・・どうした?何か?」



オレは正式名称を名乗った。普段は素性を隠す為にシーリウス・アーダンベルトと名乗っているが『主』になる方には正式名称をと思った。それに、国の守護者と精霊に祝福された証として頂いた名、シリスと読んで貰えるように願うことも忘れずに。



名乗っている最中に彼女はオレの瞳をじっと見ていることに気付いたので、思わず、聞いてしまった。

何か気になることがあるのだろうか?



暫くしてから、彼女が名を名乗ってくれた。

カオル・トウドウ。変わった名だ。彼女は迷い人なのだろうか?

オレの名を聞いても反応しなかったところを見るとオレがウィスタリアの王族であることは恐らく気付いていないだろう。


そう思っていたら



「綺麗な眼だなと思って。紅って初めてみたな~と。あ、私、最近、異世界から来たので初めて見たのでついついじっと見てしまいました。すみません」




?!



内心驚いてしまった。





オレの変化の術を見抜いたと言うのだろうか?


特に眼は厳重に掛けてある。と、言うのも紅眼と言うのはウィスタリア王家特有のものであり、特に力の強い者にしか出ない。この瞳を持っているのは現王である父と第一王子である兄とオレの三人だけであることは割と有名だ。従って、オレの紅眼を見られたら、一発で素性がバレてしまうのである。


外見の美麗さは何とか誤魔化せたとしても、眼だけはどこの誰だかわかってしまう為、眼だけは念には念を入れて変化の術を幾重にも掛けていたのだが、それを見破られるとは・・・


オレの『主』は本当に何者なのだろう?




とりあえず、褒めてくれたことには代わりないので、礼を言っておいた。

『主』に褒められると他の誰に褒められるよりも比較し難いほど、嬉しい。

こんな感情は初めてだ。



そう思っていたら、オレの『主』は踵を返して、オレの目の前から去ろうとしたので声を掛けた。

焦っていたので、自分でも助けて貰ったくせに訳の分からないことを口走っていた。



やっと、出会えた運命のヒト



オレの絶対唯一の『主』



逃して溜まるか!!!



形振りなんて構っている場合ではなかった。




常に冷静であれと育てられて来て、時には冷酷無慈悲な騎士とまで言われたオレは、初めての失態だと自分で自分を罵りながらも、一生懸命引止め、オレの『主』になってくれるように彼女に願った。



君がオレの『主』になってくれないのなら、生きてる意味がないとまで思えた。



オレに躊躇いはなかった。




騎士の誓約を願う為にオレは変化の術を解除する。



オレの本来の容姿に戻る。


地味でどこにでもいるようなくすんだ黒髪水色眼から

艶やかな黒髪に紅眼の類稀な美貌と呼ばれる姿へと変化する。


オレは本来の姿で騎士の誓約を結ぶべく、普段、滅多なことでは使わない愛剣「ジャレスト」を手にした。「ジャレスト」は我が家に代々伝わる聖魔剣のひとつでオレが幼少時にその使い手として選ばれたものだ。傭兵家業をする際はその威力と切れ味が大きすぎる為と目を付けられるのも避けるために基本的には異空間に仕舞ってある。だが、今は誓約の為に呼び出した。




初めて口にする誓約の言葉に胸が高鳴り、魂が震えた。




久々の愛剣の感触を確かめ、方膝を付き、彼女を見据え、言葉を紡いだ。




「我が魂は君のものにして、我が命もまた君に属すること。我が剣の主たるに依存なくば、我が剣を受け給え。我が忠誠の誓いに疑いあらば、この剣を押し、わが命を取ることを願わん。シーリウス・シリス・アドルフス・アーダンベルト・ベニート・プランドリア・ウィスタリアはカオル・トウドウに誓う」






オレの言葉と共に誓約の陣が現れ、オレ達を包む。






そして、彼女はオレに問うた。




「貴方にメリットは?」




オレに取ってのメリットは『主』としての君の存在そのもの。

オレは君に出逢って解ったんだ。

騎士にとって『主』と言う存在がどれほど、心に人生に平穏を与えてくれるのか。

この胸に空いた”穴”もきっと、『主』として君がいてくれれば埋められる。

確信出来る。


だから、答えた。



「君と共にいれば、オレはオレの求めるものが手に入る気がする」



君はまた、問うた。




「望みは?」



「退屈しない人生と揺るがない絆」




君という『主』だ。

君がいれば、オレの人生は素晴らしいものになるに違いない。

それにオレは君を裏切らないし、君はきっと、オレを裏切らない。

君はきっと、素晴らしいオレの『主』になる。

オレは自分の直感とヒトを見る目には自信があるんだ。



彼女はまだ、疑り深く問う。



「期待外れだと思うよ?」


「オレは自分の直感を信じる、お前はオレの唯一だ」






「諦めてくれる確立は?」






諦める気など、毛頭ない。





「承諾してくれるまで付き纏う。忠誠を誓った後に君が自殺すれば、オレは死ぬから解放されるぜ?」




オレは本心を告げた。

事実、それでも構わなかった。

『主』を得て死ねるのならば本望なのだから。




「飽きれた。それで死んでもいいの?」




「君がオレの死を望むなら」




「そこまでする理由は?」




「自分でもわからない。だから、惚れたからだろ?ひと目で」




オレは真剣に誠意を込めて彼女を見つめ続けた。




やがて、彼女は大きな溜息を吐いた。





オレは断られるのかと覚悟した。





天はオレを見捨ててはいなかった。
















































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