たぶん異世界47日目 ~シリスの日記 2ページ目~
なぜオレがこの組織に関わることになったのか。
それはオレの祖国の友人の妹がこの組織に攫われ連れ去られたようだとわかったからだ。
友人は祖国で、重役に付いていることもあり身動き出来ずオレを頼ったと言うわけだ。
これでも路銀は傭兵家業で稼いでいる。
本来は騎士であり軍人だ。何れ祖国に帰った時に腕が落ちてて使い物にならないなんて冗談じゃない。
それに、せっかくだ。人脈も作っておきたいところだ。
そうなると、傭兵家業が一番都合が良かった。性に合っていたし。
色々な国を流れていても不審に思われないし、基本は戦争屋だ。
上手くすれば、他国の軍事情報や内部情報を手に入れられる。
オレも神族であり、力もかなり強い。力は容姿に比例する。そのままだと目立つ幻術(変化の術とも言われている)を使い容姿を目立たなくした。戦う時も本来と魔術と魔法を使うスタイルから剣を基本とした戦闘スタイルに変えオレがどこぞの貴族だと思われないようにした。
オレの変化の術を見破る奴など稀だろう。
それこそ王族でもほとんどいない、稀だと思う。
その証にどこに行っても、他国の王族との謁見でさえ、オレがウィスタリアの王族であり、その気になれば高度な魔法も魔術も使えるとは誰にも気付かれることはなかった。
そんなオレに緊急連絡が入った。
一応、定期的に無事を知らせる為、情報を知らせる為に連絡しているのだが、その定期連絡ではなく急ぎの連絡が入ったのだ。
確認してみると、親友とも呼べる友人からの妹が攫われたこと。
既にウィスタリアにはいない可能性が高いこと。
自分が真っ先に助けに行きたいが、動けないこと。
妹奪還に手を貸して欲しいこと。
等が知れた。
奴にはかなり世話になったし、何よりも親友だ。
それとは別になぜか、オレはこの一件が自分にとって大事なことだと思えた。
オレはすぐに情報集めをし、ある組織が関係していることまで突き止めた。
そして、奴は自分の信頼できる部下数名をオレに寄越した為、彼らと強力。その組織に共に潜入することにした。
上手く取り入って内部に入ることには成功したが、仲間の一人がバレてしまったのがきっかけで芋づる式に危うい状況になってしまった。
オレは組織にバレてはいなかったが、仲間を見捨てることは出来ず、逃がした。
わかったことだけでも、親友に伝えて欲しかったし、騎士であり、王族でもある自分が自国の民を見捨てるなんて許されない。出来るならば、護ってやりたかったが、ここでオレが暴れると街の中心部だ。周りの無関係な人間に被害が出てしまうかもしれない。
オレは自分を囮にして、仲間を逃がすことに成功した。
だが、この組織はかなりヤバい。
例え、ここで全員逃がしても生き残って祖国へ帰れるか・・・
オレに出来ることは祈るだけだ。
本当は逃げても良かったのだが、上手くいけば友人の妹の情報が少しでも手に入れられるかもしれないと思い、囚われることにした。
それに、何故か逃げてはいけないような気がした。
囚われたオレは、尋問された。
攫われた妹を助ける為にここに来たと告げた。親友の妹のことを自分の妹だと偽って。
奴らは納得したようだった。
二つ名持ちの傭兵であることも、ウィスタリアの王族であることも知られないですんだ。
処遇は何かの人体実験に使われると決定したらしい。
オレは囚われてすぐに強力な変化の術が掛かってることに奴らは気付いた。
さすがは後ろ暗い組織と言うことか。
しかし、数人の魔法師や魔術師が解除に掛かったが、無理だったらしい。
当たり前だ。その程度の技量ではオレの術は解けない。
しかし、奴らもさすがはプロ。
オレが優れた魔法や魔術の使い手かもしれないと警戒した。
見た事もない拘束術を幾重にも厳重に掛けられた。さすがのオレにもこれは解除が難しい。
オレは判断ミスをしたようだ。
そうして、気が付いたらこの暗い牢に入れられていた。
更に厳重に拘束する術を掛けられて。
オレはかなり要注意人物にされたようだ。
これからどうなるのか。
人体実験された挙句に狂って死ぬのだろうか?
死については何とも思わない。
死ぬときは死ぬのだから、寿命が来たと思って諦められる。
だが、ここで死ねばオレの『主』に会えない。
それだけが残念だ。
振り返ると、いつものオレらしくない行動が多かった気がする。
だが、オレの直感が告げた。
オレはここまで導かれた気がする。
それを信じるまでだ。
ここにはオレに取っての何かがある。
そうして、また、オレは『主』について考えるのだ。
ふと、オレは気配を感じた。
ここでは力も感覚もかなり制限されている為、鈍ってしまっているが。
誰かが来た?
オレがここに来てから初めてだ。
いや、どのくらい前かは感覚がないからわからないが、前に複数の気配がした時があった。
ここに何かを置いていったようだった。
だが、今回は気配は一つ。
侵入者だろうか?
オレは言葉を交わそうと口元と眼の拘束を自力で解いた。
やろうと思えばこのくらいは出来ることはわかっていたのだが、解いたところで何もないのでやらなかったのだ。
周りを見ると拘束している術と鎖はもちろん、複雑な陣と結界まで視える。
そうこうしているうちに気配が近づいて来て、それはオレの前に姿を現した。
姿を見た瞬間にオレの全てが震えた。
魂が歓喜した。
オレは唐突に解った。
目の前にいるのがオレの唯一であり絶対の存在になる『主』だ。
一族の者が言っていた運命を感じるとは、このことだったのだ。
確かに、それ以外に上手く言い表せない。
オレの『主』となる人物をじっと見つめた。
茶色の髪に瞳のどこにでもいる平凡な女性のようだ。
彼女もオレの方をじっと見ている。
彼女に話し掛けてみることにした。
「こんな所に客とは珍しい」
驚いたことに、彼女は冷静に思いも掛けない言葉を返してきた。
しかもユーモアたっぷりに。
頭はかなり切れるようだ。
オレの『主』として悪くないどころかいい。おもしろい。
ますます嬉しくなった。
そう思ってると、彼女は突然踵を返そうとしたので、あわてて呼び止めた。
ここで、オレの『主』に、忠誠を誓わせてくれと言うのも断れれたら困るのでとりあえず、この場に相応しいと思われる言葉を返した。
返って来た言葉に絶句した。
彼女の思考に。
オレのことはどうでもいいこと。出来れば関わりたくないらしい。
そうはいかないが。
極めつけは何と、ここを吹っ飛ばそうとしているらしい。
そして、それにオレを巻き込むのも憐れだと思っているようだ。
第一歩として現状を何とかしないと彼女と話しも出来ないので、彼女に助けてくれるように頼んだ。
彼女は了承の意を示すと、オレの拘束術の解除に掛かった。
しかも、通常は一つずつ慎重にするものだが、彼女は一度に全てを解除しようとした。
力量はもちろんだが・・・そうか、オレの術の解除の反動で彼女はここを吹き飛ばす気か。
オレは彼女を凝視した。
オレごと吹っ飛ばすとは思えなかったのでオレはただ、ただ、彼女を見ているしかなかった。
魔法と魔術を見た事もない術式で複雑に組み上げていく。
術を発動する彼女は美しかった。
このまま死んでもいいとさえ思えた。