たぶん異世界47日目 ~シリスの日記 1ページ目~
オレは暗い牢獄の中にいた。
しかも、特別製だ。
囚われてから、一体どの位の時が経ったのかも、空間転移で連れて来られた為、現在地もわからない。
やることもないので、オレはふと、いつものように『主』について考えた。
オレはオレの『主』を見つける為に祖国ウィスタリアを出た。
『主』は、騎士としての忠誠を捧げる存在であり、唯一絶対の存在である。
己の命を、人生を捧げる者のことだ。
オレの家系は代々続く騎士の家系であり、特殊な存在でもある。
騎士にとって、『主』がいるのといないのとでは力に大きな差が出るのだ。
『主』を得ることが出来れば、もともとの力よりも遙かに大きな力を得ることが出来る。
これは血の祝福とも呼ばれ、国の守護者と精霊の祝福を受けるからとも言われている。
男だろうが、女だろうが一族の者は必ず騎士になる。
どうしてだかは解らないが他の職業に就こうとも思わないうえに、一族の者は皆、分野は兎も角も、騎士として天才的な才能を見せるのだ。例外は今の所ない。
今、オレがいる、アンブラ大陸最大の大国ローシェンナにも負けないリルディス大陸最大の大国ウィスタリアは、そんな変わった一族が他の追随を許さない圧倒的なカリスマで持って統治している。
民にも頗る人気が高い。他の大国と違って騎士の家系でありながら王族として国を治めていると言うのが最大の特徴であり、他にも色々と非常に変わったところの出身だ。
ちなみにオレはそこの直系で第三王子だ。もちろん、軍務や政務にも付いていた。
うちは他の国と違い一夫一妻制であり、恋愛結婚だ。相手の身分もあまり関係ないが、やはり、庶民よりも貴族との出会いの場が多い所為か貴族との婚姻率が高い。
恋人はもちろんいないし、いつまで経っても『主』が見付からないオレにとうとう痺れを切らした一族が、『主』を捜して来いと三年ほど前に国を出された。
大抵、『主』とは二十歳くらいまでにめぐり会えるそうだがオレの『主』は全くその気配すら掴める様子すらない。多くは自国で何となく気配を感じるらしいのだが、たまに他国にいる場合もあるらしい。
そうすると、自力で他国を巡って捜すしかないそうだ。しかし、運良く『主』に出会えるとも限らず、生涯『主』を得られない場合もある。
元からのあらゆる能力が高く、一族からも最有力の王太子候補であるオレだが、一族の掟だ。
『主』を持たぬ者は王位に付くことは出来ない。もちろん王位継承権すらないのだ。
いくら、王位が実力主義と言っても『主』がいないんじゃ話にならない。
王位に興味はないからなくてもいいが、やはり、『主』は欲しい気がする。
そう、何故『主』を持たぬ者には王位に付けないかは理由がある。
ヒトの痛みもわからず、民を不幸にすると言うのが一つ、
どんなに能力が高くても全てを発揮しきれないのが二つ、
短命であるのが三つ。
他にも『主』がいないと色々とあるが、これが代表的な理由だ。
過去に『主』の持たないものが王位についたがことがあったが、ろくな結果にならず、国が荒れ、すぐに交代となった為、掟はより一層強く護られるようになったそうだ。
だから、オレはオレの、オレだけの『主』に興味があったし、どうしても得たかったので、望みを掛けて国を出ることにした。『主』が国外にいると望みを掛けて・・・
他にも果たしたい約束があったから丁度良かった。
オレは引継ぎを済ませ、すぐに出発することにした。
一族のモノはそんなオレを支えてくれた。
皆、我々にとって、『主』の存在がどれだけ大切かわかっているからだ。
オレはまだ、見ぬ『主』のことを考える。
『主』は同姓か異性かも定かではない。
『主』と結婚する者もいるし、騎士として仕える者、一生傍にいる場合もあるし、必要な時だけ傍にという者もいる。これは当人同士の話し合いってところだ。
『主』と言うのは出逢った瞬間、ひと目でわかるそうだ。
一族曰く、運命を感じるらしい。
そして、『主』を得ると心と身体が満たされ力も溢れるのを感じるそうだ。
オレにもそんな日が来るのだろうか。
オレは未だに退屈な生を生きている気がしてならない。
一族や家族や友人に特に不満はない。
だが、飢えているような、胸に穴が空いているような感覚が消えないのだ。
『主』を得れば違うのだろうか?
未だにオレは出会えない。
オレは考え続けた。
突然、ひどく落ち着かない気分になった。
何となくオレは何かを感じた。
そう、ここの組織に潜入する時に感じたオレを惹き付けて病まない感覚が。
あの時よりも大きく感じた。
シリス視点が思ったよりも長くなってしまいました。説明ばかりですみません。