たぶん異世界40日目 ~ユージンの日記~
報告が久々になってすまない。
これと言うのも、絶対零度の空気を身に纏ったままのヒルの所為だ。
ヒルは転移で王城に戻り、その言葉通りの行動を取った。
本気のヤツは誰にも止めることが出来なかった。
まずは、カオルに嫌われるトドメの一撃をくれた奴等を叩き潰した。
それはもう、見事なまでに。
黒幕は予想通り、王妃と第一王子だった。
王も、王妃の所業にはほとほと手を焼いていたのだが、王妃の実家が隣国の王族な為に無碍にも出来ず目を瞑っていたのだった。しかし、本気のヒルは何をどうやったのか、隣国から王妃を切り離した上にその馬鹿息子共々闇に葬ったのである。ある日、突然、隣国の王室から絶縁状が届いた時はヒル以外は驚き、王宮中が大変な騒ぎになった。当の王妃もわけもわからず、何かの間違いだと主張したが、退けられ、後ろ盾を失くした王妃は今までの悪行が馬鹿息子のものと共に出るわ出るわ。しかも、証拠もしっかりあるので、誰も何も、王でさえ反論どころか何も言うことが出来ず、異例の早さで処分が決まった。
これで終わりかと思いきや、絶対零度、カオルに嫌われた魔王降臨状態のヒルは甘くはなかった。
今までも冷酷非情で、優秀な氷の王子として有能だったが、今回のこれははっきり言って神がかっているほどだった。ヒルは自分の敵を徹底排除するのはもちろん、王太子ルイスとして国の安定を図り出した。病院や学校をはじめとする村や街の整備、治安の確保や収穫、流通の活性化。次から次へと政策を発表し、有無を言わさず、取り掛からせることを決定。段取りまで行った。
王も時期、王位を継ぐ者としての自覚が芽生えたと喜び、今まで全く興味を示さなかったヒルの様子に喜び任せた。臣下たちも、元々優秀だったヒルだが、本気の彼を目の前に心酔していくしかなかった。
ヒルは新しい政策と同時に自分の敵を一掃するのも忘れなかった。
その徹底振りは凄まじく、一族郎党禍根が残らないように徹底的にやった。
俺は、改めてヒルに薄ら寒さを覚えた。
その存在に、手腕に、頭に・・・今までのヤツの様子が嘘のように・・・
さらに、情報収集の為、邪魔な者を一掃する為に今まで嫌がっていた社交界にもヒルは毎日のように出席した。次期、王太子という肩書きがある上にあの容姿だ。
女が群がって凄かった・・・
ヒルは氷の貴公子としての自分の評価を最大限利用して、ターゲットにのみ近づき情報を引き出し奈落の底に突き落とした。我が主ながら、悪魔のような所業だがまあ、それも分厚い化粧をして実家の権威を傘に着て威張ってるだけの頭の空っぽな令嬢の自業自得と言うものだから仕方がないといえば仕方がない。
ヒルはそんなことを寝る間も惜しんでやるので、俺は遠慮なくこき使われ捲った。
忙殺されるなんて甘いもんじゃない・・・
しかも、このクソ忙しいなか女は寄ってくるわで・・・
イライラしそうだったが、言い寄ってくる女を氷の刃で一刀両断にしているところを見ると少し気の毒になった。そう、あれはある日の廊下での出来事。俺はヒルに頼まれた仕事の報告をしようとしてヤツを捜していたのだ。やっと、見つけたと思ったら、とある令嬢がヒルに誘い掛けていたのだ。
あれは確か、社交界の薔薇と言われている美女で公爵令嬢だ。
落ちない男はいないという噂も頷ける。時には豊満で妖艶に、時には清純な少女に、相手の好みに合わせて自在らしい。しかも、美貌だけではなく、教養もあるらしい。女ってすごいな。そんな女に狙われ、誘われたらは確かにぐっと来るに違いない。
「ルイス様、ぜひ、明日の我が公爵家のパーティで私とご一緒して頂けませんか」
「貴女には、私などよりもよほど相応しく、素晴らしい方がいらっしゃると思います」
ヒルに無表情にツレなく言われてるにも関わらず、令嬢はヒルの顔に見惚れて頬を染めながらも、更に言い募る。
「いいえ、貴方以上に相応しい方なんていないですわ。だから、ぜひ・・・。私、叶うならば貴方の傍に生涯傍にいたいですわ」
「いるだけなら出来ますよ。今もいるではありませんか。私は私の愛する唯一の方以外はいりません。ですから、お引取下さい」
「ですが・・・」
絶対零度の空気を醸し出すヒルに、諦めきれずに食い下がろうとした令嬢が凍り付く。
「これ以上、俺を怒らせたら一族諸共消してやろう。さっさと失せろ」
ヒルの魔力と言葉に押され、社交界の薔薇も見る見る枯れるどころか存在を抹殺されそうだ。
俺はさすがに気の毒になり、助け舟も兼ねて報告の為、ヒルに声を掛けた。
令嬢は解放されるなり、真っ白い顔のまま急いで逃げ出した。
「ヒル・・・お前、ちょっとあれじゃないか?社交界の薔薇に誘われた男なら、皆、涙して喜ぶらしいぞ?」
「だったら、お前が相手をしたらいいじゃないか。俺はカオル以外はいらない。あぁ、カオルに早く会いたい・・・カオルの理想の相手になったら、俺はカオルに会いに行く!!!さ、ユージン。次だ次!!」
「お前、顔も見たくないって言われたんだから、諦めろよ・・・」
「嫌だ。カオルは俺がやるべきことを、俺の立場でしか出来ないことをおろそかにしていた上に敵もちゃんと排除しなかったから怒ったんだ。確かにカオルが俺の妻になった時に危険があっちゃ心配だし、国民からも慕われてないと、カオルがきっと、俺と言葉を交わしてくれないと思うし、俺が周りから一目置かれるくらいの賢王になって、敵も排除し、絶対的なカリスマも手に入れれば、カオルはきっと見直してくれるはずだ!!!!間違いないっ!カオルも大きな目標とそれに付随する小さな目標を持って生きることは大事だと言っていた・・・うんぬんかんぬん・・・
俺は呆れてものも言えなくなった。
聞くのも面倒なので、聞いているフリをする。
まあ、カオルと出逢って恋に落ちたヒルにはそればかりだったから、いつものことといえばいつものことだが・・・ちなみに、ヒルはカオルを嫁にする為の外堀を埋めることも着々とやっていた。もう、国を担う王を始めとする重臣たちは了承済みである。了承したくないが、ヒルが怖くて了承せざるを得ないと言うところが本当だろう。はっきり言って、どんな手を使ったのか、もう、考えたくもない・・・とりあえず、ヤツを敵に回すのは辞めよう。それに尽きる。
このヒルの変化に、ヒルと親しいヒトたちに俺は質問攻めにされたがその話はまた、今度にしようと思う。
そんなこんなで俺は今日も元気だと思う・・・




