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たぶん異世界28日目 ~ヒルトの日記 1ページ目~

俺は側近であるユージンと再会した。


同じカナリーの街にいるのだから、遅かれ早かれこうなることはわかっていたが、出来ればカオルと二人きりの生活をしばらく楽しみたかった。


相変わらず、彼女は素っ気無いが、諦めずに話し掛け続けると、三度に一度くらいは相手をしてくれる。

そんな彼女もたまらなく愛しい。一緒にいれば、いるだけ彼女に惹かれるていく。と、同時に自分の新たな一面を知って戸惑うことも多い。俺にもこんな感情があったのかと。一番困るのは何と言うか性欲だ。今まで不能かと思えたのが嘘のようだ。彼女のふとした仕草で柄にもなく反応してしまう。だめだ。これ以上は考えるのをよそう。


俺はドサクサに紛れて彼女と手を繋ぐことに成功した。

彼女の手は小さくて華奢で、柔らかくて、ますます護ってあげたくなった。


だが、まともな恋愛経験もないうえに、彼女の理想とは正反対のタイプである俺が彼女と距離を縮めるのはなかなか難しく、お手上げ状態だった。

そんな俺にとってユージンの存在はありがたかった。側近であり、数少ない親友でもある彼に、初めて相談した。初めての相談の内容がこれかと、彼は呆れながらも、協力してくれることになった。


本当は彼女の傍に俺以外の男なんて寄せ付けたくはないが、まずは俺の恋の成就が先だ。

ユージンの助けを借りつつアタックすることに。


俺たちは徹夜で今後の攻略作戦会議をした。

人生でここまで念入りかつ、丹念に作戦を練ったのは初めてだった。


朝、俺はユージンと練った作戦を展開しようと意気揚々と気合を入れて扉を開けた。

・・・彼女の姿に驚いた。


彼女は旅装で、待っていた連絡が来たので、急いで友人の許に出向かなければならなくなったと言う。

俺の作戦は・・・さすが、カオル。俺の惚れた女だ。


彼女は例の如く、また、俺の許を去ろうとした。

やっぱり、必死に引き止めたが、今度はなかなか手応えがない。

見兼ねたユージンが彼女と話を付けてくれた。ユージンのおかげで同行を許して貰えた。

さすが、俺の側近だ。


一切の他言無用を約束し、彼女の目的地を教えて貰った。

カナリー東方向の山岳地帯。そこに集落があるなんて言うのも初耳だが、街道もなく、付近は獰猛な獣達が生息し、方向感覚も狂う危険で険しいことで有名な山岳地帯だった。


しかも、飛竜ではなく、馬で行くと言う。

確かに地形を考えると、飛竜で飛ぶことは難しいだろう。

ただ、地上から行くとなると、方向感覚と魔獣の存在が問題だが・・・


彼女にどうするつもりか聞いても、企業秘密だとしか言わないが、大丈夫だと言う。

そんな危険地帯はよほどの軍務でもない限りは軍人でも行かない。しかし、俺もユージンも二つ名を持つ軍人であり、惚れた彼女と一緒にいたい。そんな危険なところに行くなら尚更、護ってあげたい。


俺は目的地を聞いても躊躇わなかった。


ユージンが俺たちの馬を連れに行っている間、カオルは馬を調達しに行くと言うので同行する。

俺たちの軍馬を貸そうとしたが、断られた。

その方が早いと思うが、カオルはそこまで迷惑を掛けられないと言った。

遠慮なんて必要ないのに。謙虚な彼女もやっぱりかわいい。

そんな彼女には考えがあるようだ。


馬市で購入した方が良いが、そんな時間もないので馬を扱ってる店に行って購入することに。

カオルは驚いたことに、数ある馬の中から素晴らしい駿馬を迷わず選んだ。

馬を見抜くと言うことは、仕事にしろ、嗜みにしろそれ相応のヒトと言う事だ。


彼女は迷い人だと言うが、ただの迷い人ではないことがここでも伺える。


普通の迷い人は大抵、力なきものが多い。他国に比べると、ここローシェンナは文武両道だが、特に魔法と魔術と剣においては他の追随を許さないほどの神族を中心とした大国だ。人間と思われる迷い人が神族と同等の力にしろ、身体能力にしろを有していると言うのもごく、稀だ。


神族と魔族は力の質が違えど、力と身体能力に特化しているのが特徴で魔法や武術が得意な者が多いが、人間は神族に比べれば、大抵、能力的には劣るが、努力民族なので、手先の器用さを生かし機械技術や魔術が発達しており、頭が切れる者が多い。


そこから考えるとカオルは迷い人として、人間(でいいのか?)としてはかなり特殊な部類に入るだろう。たくさんの迷い人を知る俺はカオルのような存在に出逢ったことがない。


と、言うのも、何れ、王族として、軍内部の改革をしたいと思っていた俺は、まずは現状を把握しなければと、身分を隠し、容姿も変え、一平民として軍に入隊。実力のみでほぼ、現在の一歩手前の役職まで上り詰めた。


計画は成功。俺は身分を明かし、計画通り軍の掃除に取り掛かった。現状を把握し、内部事情を知っていたうえに体感までしたので、おもしろいほど事が運んで、軍の膿は出しやすかった。


俺の身分を知った時の上層部の顔が今でも忘れられない。あの時ほどスカっとしたことはない。

平民として軍にいた頃に仲間になった奴や目を付けておいた連中が今の俺の近衛隊だ。


そんな事情で俺は王族だが、わりと世間にも精通している。


軍の新人の仕事に街の警備もある。入隊したばかりの俺にも、もちろん、その任は回って来た。この仕事は警備と言うよりは、迷い人に関する案件が多かった。


迷い人は割りと多く訪れる。どうしてかはわからないが、本人の意思に関係なくこちらに身一つで飛ばされて来るらしい。挙句、元の世界に帰れるかどうかもわからない。

この迷い人は放っておくと、何もない迷い人は生きる為に犯罪者になる率が高い。それを未然に防ぐ制度が迷い人の保護制度である。迷い人はとりあえず、届出をし、迷い人と認められれば、国の保護を受けられる。国としては迷い人のもたらす知識等を得る代わりに、迷い人の生活を保障するのである。


ローシェンナは元々、迷い人に寛大なところがあったが、20年ほど前に現五公爵のうちの一人となったジークウェル公の貢献により、ますます迷い人が手厚く保護される傾向にある。


ジークウェル公も迷い人の一人であったが、こちらに来た当時は戦乱の世と言っても良かった。隣国から攻め入られている最中に内乱が起きた真っ只中だったのだ。国が倒れそうになった時に俺の父である国王を助けたのが、当時、ただの迷い人であったジークウェル公である。


彼は凄まじい剣と力の持ち主でもあったうえ、知略にも長けていた。


前の世界での経験と知識を生かし、次々と、王と共に内乱を鎮圧。隣国を返り討ちにした。更に攻め入られた敵国から領土を奪い、広げ、その働きにより公爵に叙せらた。その後、軍の総帥兼宰相として国の安定に大きく貢献。現在では、国が荒れていたとは思えないほど立て直され、今ではどこまでも強く、豊かな国としてその名を轟かせている。


彼は国を整備するにあたり、彼のいた世界の仕組みを多く取り入れたそうだ。


しかし、国がある程度安定すると、国の未来は若い世代に託すと言って、惜しまれながらも隠居。国政から身を引いた現在でも王宮での彼の影響力は未だ計り知れず、国民からの人気も高い。


数少ない、俺の尊敬する人物の一人でもある。


彼の迷い人としての知識は、色々なところで貢献した。これを受けて、迷い人はどんなものでも良いので、知識を提供すれば、国から保護を受けられる仕組みとしたのだ。ただし、迷い人はまともな者ばかりでもない。中にはどうしようもない輩もいる。そう言う輩はそれ相応の対応をするのも俺達軍人の役目だ。また、カオルのように運良く、親切な人々と巡り会い、家族となる場合もある。その場合は、国籍申請の届出をすれ良いだけである。


そんな多くの迷い人たちの中でも、カオルは恐らく、全てにおいて別格だろう。


元の世界ではどんなことをして生きて来たのだろうか?

いつか、彼女と親しくなったら教えて貰えるだろうか?


彼女の傍にいて気付く。彼女は面倒見が良く、自分に厳しい。

そして、いつでも前向きで信念があって、凛として美しく生きているように見える。


俺には眩しく見える。無垢と言うわけでもなく、光と闇が絶妙のバランスを保っている。

彼女が時折覗かせる瞳と気配が、彼女を特別であることを俺に教えてくれる。


俺の傍らに立つなら、俺がどんなに望んでも、綺麗事だけでは傍にいられない。

どんなに俺が彼女に綺麗なものだけを見せたくても、護りたくても

君はきっと、知って悟ってしまうだろうから。光も深い闇も。


どんなに嫌われても、傍にいてくれるだけでいい。

この命に代えても俺が君を護るから。

君の傍にいられるならば、王位等いらない。


カオル、君の傍にいたいんだ。

それ以上は望まない。


俺はどうやったら君に相応しくなれるだろうか。

君に出会ってから、そればかり考える。


今日の店での一件もそうだが、俺はもっと強く賢い男にならないと、君の傍にはいられなさそうだ。

彼女の一番嫌いなタイプは命を粗末にするタイプらしい。

俺はこれから、どんな時でも生きて彼女の元に戻ろう。


そんな彼女の別格であることを痛感させられたのが、いざ、出発する時だ。


驚いたことに、彼女は先を急ぐと言って、馬に見たこともない魔法と魔術を掛け速度を通常の馬の5~10倍にした。こんな魔法も魔術も見たことがない。しかも、同時に使い絶妙のバランスで組み上げている。ユージンも驚きを隠せない。掛けている魔法と魔術自体は初歩術のようだが・・・


そんな俺たちを尻目に彼女はさっさと行ってしまう。


彼女が選んだ馬はいくら駿馬と言っても所詮は一般の市場に出回る馬。

軍馬とは比較にならないはずなのにどんどん距離を離される。このままだと、彼女を見失い、俺たちは置いていかれてしまう。こんな経験は初めてだ。俺は心が躍った。


本職顔負けのことを次々とやってのけるとは。

ユージンも彼女を面白そうな目で見て、さすが、俺が惚れた女だと関心している。


彼女の術を分析し、この俺でも完全なる解析は出来なかったが、似たような術を組み上げて俺とユージンの馬に掛ける。残念だが、彼女の術ほどの効果はないようだ。しかし、元々の馬の能力が違うのでギリギリカバー出来て追いついた。


彼女は暫くして、森の中に入って行った。

獣道どころか、はっきり言って道なんぞないが、俺は彼女の手綱捌きに惚れ惚れした。

道がないはずなのに、まるで植物が道を譲るように感じる。その中を颯爽と駆けていく。


木々が彼女を避けている・・・気のせいだろうか?それとも彼女の術なのだろうか?

やはり、彼女は妖精なのだろうか?


これも機会があったら、彼女に聞いてみよう。

しかも、磁場が狂うこの場所で方角を特定することは困難なはずなのに彼女は迷わず突き進む。

噂に聞く獣たちの姿も見ることはなかった。


そうして、驚くほどの速さで迷うこともなく、目的地である集落に到着した。


俺たちを迎えたのは彼女の同行者であるティアと呼ばれる女だった。


こちらも地味だが、よく見ると美人だ。そして、彼女は只者ではない。上手く隠してはいるが、闇に生きるものの気配がする。普通の者なら騙されるだろうが、俺相手では無理だ。

稀に見るかなりの手練のようだが・・・しかし、こんな凄腕は裏世界でもなかなかお目に掛かれない。


こんなのと同行していると言うことは、カオルはやはり裏世界の人間なんだろうか?


彼女がどんな女性であろうが、関係ないから良いが、彼女を危険な目に合わせるような者ならば、俺が排除しよう。俺は彼女を護ると決めたのだから。



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