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たぶん異世界27日目 ~ユージンの日記~

ヒルと別れてから3日経ったが、依然としてヒルの行方は知れず。


危険を承知で、部下と一緒にヒルと別れた場所に行ってみたが、激しい戦闘の痕跡はあったがヒルの手掛かりらしきものはなかった。


相手が何であろうが、どれだけいようが、あの神の如き強さのヒルが負けるとは思えないが、凄まじい戦闘だったのはその痕跡からも伺える。ヒルがどんな相手でも、負けるとは思っていない。ただ、心配なのは、何に対しても執着すると言うことがなく、自分の生にさえもそうである為、信じられないような無茶苦茶をやらかし、ヒルの周りはいつも心配の種が尽きない。最近特に、王太子となってからはそれが更に顕著になったと思う。


今回のカナリー討伐に関しても、死に急ぐヒルを心配した陛下と俺達、ヒルの周りが気分転換にでもと話を持って行った。が、まさか、このような事態になるとは。刺客はわかる。どうせ、ヒルを廃して馬鹿息子を王位に就かせたい王妃か第一王子(馬鹿息子)あたりが差し向けたものだろう。最近、日常茶飯事過ぎて気にも留めないが。


しかし、予想外だったのが、獣らしきモノ達と俺達が戦線離脱した後に現れたと思われる複数のヒト型魔族の襲撃だ。戦闘の痕跡から察するにあの後、複数のヒト型魔族はヒル一人を襲い、激しい戦闘になったようだ。やはり、俺も残れば良かった。しかし、今回は騎士達を連れている。ヒルの近衛騎士達でヒル自らが選んだ精鋭だが、今回は相手が悪かった。あのまま戦っていたら負傷はもちろん死人まで出ていただろう。俺はヒルの側近として、不本意ながら、ヒルが心置きなく戦えるように彼らを率いて戦線離脱するしかなかった。


ヒルとは三歳からの付き合いだ。


ヒルは王の一番の寵費だった妃の息子で第一王子の三ヶ月程後に、第二王子として生まれた。

王の妃への溺愛は凄まじいもので、正妃や他の側室などいないかのような扱いだったと言う。当然、その溺愛振りは、子供を産むと同時に亡くなった最愛の妃の一人残った彼女の息子へ注がれた。

特に、ヒルを生んだことで妃が逝ってしまった後は、その寵妃の座を争い正妃や側室の争いが激化し、ヒルを心配した王は片時も傍から離さなかったという。ヒルは成長するに連れ、傾国の美女と名高かった妃に似て類稀な美貌を持つ青年へと変貌していった。彼はその美貌だけでなく、文武両道でありその切れる頭で周囲を早くから唸らせる存在になっていった。


そんな彼に、王は小さい頃から友人と称して、側近と生り得るものを傍に置き、彼自身に選ばせた。

もちろん、第一王子にも同様に。その一人が俺である。


ローシェンナ五大公爵家のひとつ、ジャスティアス公爵である俺の父親とヒルの母親が兄妹だったことで候補の一人になった。力は容姿に現われるので、容姿が端麗であることは必須条件だ。選ばれたものは皆、容姿端麗であったが、中にはあらゆる意味でどうしようもない者もいた。


正直、俺は未来のことに興味なんぞなかったが実際にヒルと会ってみると、その美麗さに驚愕した。はっきり言って、ヒトとしての領域を超える美しさだった。その溢れる力に圧倒される。昔から、ヒルを見て卒倒する者が耐えないと言うもの仕方がない。その美貌で見るもの全ての心を一瞬で奪い、その力で圧倒し、無条件で従わせるのだ。まるで生きているのが不思議なくらいの美しさだが、無表情な所為で、人形めいて氷のような怜悧さだ。成長するにつれ、力の大きさと共にますますその美貌に磨きがかかった。


そんなヒルと第一王子は比べるまでもなかった。たまに、ヒルと比べられる第一王子(ヤツ)が気の毒になる。第一王子(ヤツ)も王家の直系なだけあって力はあるが、残念ながら、頭が回らない。俺は馬鹿は嫌いだ。色々あって、ヒルの信頼を勝取り、唯一無二の親友になると共に、ヒルは嫌がったが、忠誠を誓い誓約を成した。


ずっと傍にいて、ヒルを見て来たが、ヒルはまるで人間不信のようにヒトを信じない。が、一度信頼を勝ち得ると大事にしてくれる。今回連れてきた近衛は全て、ヒル自身が出自に関係なく実力主義で選び、忠誠を誓った者達だった。それが今回仇になってしまったわけだが。

普段なら、容赦なく、兵を使い捨てるところだが、彼らはヒルに取って、数少ない大事なヒト達だった。ヒルは迷わず、彼らの安全を最優先にした。彼らもヒルの為ならば、命など惜しくはなかったが、ヒルの性格を考えると従わざるをえなかった。




あれから3日。




カナリーの拠点に帰還した俺たちの間に漂う空気は重い。



このまま見つからなければ、王宮に連絡も止むを得ないだろう。

綺麗事ばかりも言ってられない。使えるものは何でも使う。

闇組織への依頼も考えざるを得ないだろう。


部屋で黙っていても仕方がないので、部下の報告までは時間があったのを確認すると、情報収集も兼ねて商業地区に足を向けることにした。


重い足取りで歩いていると、向こうから、背の高い地味な男とどこにでもいそうな普通の女が歩いて来た。なぜか、とても気に掛かった。不審な様子は感じられない。

だが、男の方が妙に気に掛かった。地味なはずなのにどこか懐かしい気がする。

こう言う時の俺の勘は当たる。


もう一度、よく見ると・・・!


いた!無事だった。ずっと、捜していたヒルだった。

姿を変えているが、彼は間違いなくヒルだった。俺が間違えるはずがない。

あの姿はきっと、何か事情があるのだろう。


それにしても、あまりの違いに、驚愕し、思わず、三度見してしまった。

何だあれは。何が違うって、もう、全てだ。普段の無表情はどこに?冷酷非情な氷の王子は一体どこに忘れて来た?と言いたいほど違った。


側近としてずっと傍にいる俺でさえ、ヒルの嬉しそうな笑顔やはにかんだ(と言っていいのかすらわからん)なんて、ほとんどと言っていいほど、見たことがなかったのに。あいつ本当にヒルか?


しかも、俺に気付いてない訳がないはずなのに、わざと気付かない振りをしてやがる。

何かの作戦かとも思ったが、ヒルのあの態度はありえない。

しかも、どう見ても女を口説いてるようにしか見えない。

と、言うことは隣の女に本気と言うことだ。


ここから見た感じ、特にこれと言った特徴はなく、どこにでもいそうな女性というよりは少女のような女の子と言った方が良い女性だ。雰囲気が可愛い感じか。外見からはヒルが特別惹かれる要素はないように思える。


暫く、様子を伺っていると、どうやらヒルトが仕切りに話し掛けているようだが、彼女に袖にされているようだ・・・ヒルを袖にする女なんて初めて見たが、あの容姿ではしょうがないのかもしれない。


とりあえず、俺は、確認する為、今後の為にもヒルと接触を図った。


「殿下、ご無事いらっしゃったんですね。そして、その容姿はどうされたんですか?」


普段は、ヒルが嫌がる為に呼ばない呼称でわざと話掛ける。

もちろん、ヒルの存在が他に知れないように小声で。こんな所に王太子がいると知れると後々面倒だ。

ヒルに話し掛けながらも、さり気なく少女を観察する。


近くで見ると、かなり可愛い。何と言うか、雰囲気だろうか?


「あぁ。お前達も無事のようだな」


長年傍にいる俺だからわかるが、俺が少女を観察していたのがわかったのだろう、ヒルは不機嫌そうに返して来た。・・・お前そんなに独占欲が強かったのかよ。それよりもたった3日でどうしてこんなに変わるんだ?それよりも件の少女について情報が欲しい。俺は少し混乱気味だったが、ヒルに先を促すことにした。


「えぇ、殿下のおかげで。こちらの方は・・・」


「彼女は俺の命の恩人でー」


ヒルの話を遮り、彼女が一気に早口で話し、去って行こうとした。

その様子にも驚いたが、ヒルの行動に仰天した。

天地がひっくり返ったかと思ったくらい驚いて声も出なかった。


ヒルがカオルと名乗った彼女の腕を掴んで引き止めた。

しかも、彼女はとても嫌そうな雰囲気でヒルを早くどうにかしてくれと言わんばかりの態度だ。彼女はヒルの命の恩人。と、言うことは、ヒル本来の姿も知っていると言うことか。ヒルの今の姿は、平凡な彼女の為と言うことなのだろう。ヒルのことをどこまで知ってるのかはわからないが、彼女はヒルの容姿には目もくれなかったと言うことか。それは凄い。面白いな。世の中捜せば、そんな女もいるんだな。それに輪を掛けて面白いのが、ヒルの様子だ。あんなに必死な様子は初めて見た。同情するな。しょうがない。親友としてここはひとつ、助け舟を出すことにする。


俺は彼女の気を逸らす為に名乗ることにした。


何とか、彼女の気を逸らすことに成功したようだ。俺に便乗して、ヒルも追随する。

あの女嫌いのヒルが自ら女を引き止めているだけでも驚きなのに、特別なヒトと俺に言った。

しかも、口説いている最中だから邪魔するなと。


もう、ベタ惚れだな。


内心呆れたんだか、関心したんだか自分でもわからないが、とりあえず、ヒルの問いかけに答え、宿に戻った。近衛騎士達にもヒルの無事を伝え、適当な理由をつけて帰還が遅れる旨を伝えた。


夜、待ちに待ったヒルからの連絡が来た。

カナリーの外れの宿屋にいるらしい。俺は気配を消して、急いだ。


俺が部屋に入るとヒルがベッドに腰掛けていた。

悪くない部屋だ。一般市民が使うものとしてはだが、王太子としては相応しいとは言えない。

普通の王族どころか貴族では耐えられなくとも、軍務中心で生活してきたヒルには何ともないのだろう。屋根があるだけマシだ。俺も、ヒルの側近として軍務中心の生活を送って来た為、宿など寝られればどちらでも良いが。


俺が部屋の中ほどまで進み、勧められたイスに腰掛けるとヒルは変な結界を張った。

ヒルの気配だけ残し、俺の気配と会話を遮断するもののようだ。

彼女に配慮してのことらしい。今は未だ、色々と知られたくないのか?


「無事なら連絡のひとつも寄越すものだろう?どれだけ心配したと思っている?」


一応、嫌味も兼ねて問い掛ける。どれ程、俺たちが心配したと思っているのか。

しかも、俺たちが心配している間、こいつは女を口説いてたと?全く・・・


「すまない。連絡しようと思っていたが、それどころじゃなかった」

と、ニヤリとしながら言った。


「で?」


「・・・」


「彼女は?」

ヒルはなかなか口を割ろうとしない。


「あの様子だとお前、彼女を陥とせてないんだろ?協力してやるから詳しく話せ」


そう言った俺に、ヒルは少し考えて話し出した。


話を聞いた俺は驚きの連続だった。


重症のヒルを助けたのが彼女で、彼女はかなり優秀な治癒術が使えること。

迷い人でこちらに来て一ヶ月も経ってないこと。

彼女に惚れてから口説き続けてるが、望みが薄そうなこと。等等、彼女に関する情報を色々と聞いた。


正に端にも棒にもかからないとはこのことだ。

お前、それはアウトオブ眼中ってヤツだろう。全く脈なしだろうが。諦めるしかないんじゃないか?


と、言いたかったがそれは本人も悟ってるらしく言えなかった。


言ったら最後、世界が滅ぶ気がする・・・


普通の女なら涎モノのヒルの容姿や肩書き(彼女にそれとなく王族であることを匂わすことを告げているらしいが総スルーされているらしい)、力に全く興味がないらしい。

挙句、厄介ごとが嫌いな彼女の理想はヒルと正反対の、死ぬほど平凡な空気のような男らしい。

今まで、女なら選り取り見取りだった男が本命に玉砕。望み薄とは。


しかも、彼女。聞けば聞くほど怪しいこと、この上ない。


何だよ?通りすがりのきのこ狩りを生業にしてる旅人って。


幻のきのこを求めてとか。そんなの嘘に決まってるだろう。お前騙されてるよ。と、言いたいが彼女の態度からするにヒルを遠ざける為に、業と言っている可能性も捨て切れないのがまた・・・

仮に彼女が怪しい職業だとしても、ヒルならなんとかするし、そんなのどうでも良いだろう。

その可能性も考えて、ヒルのことだ。色々と手を打っているだろう。ヒルは頭が切れる。全てにおいてケチの付けようもない男だ。天は二物も三物も彼に与えているのに・・・。

でも、あの様子だと、彼女が一般市民じゃないと嫌とか言ったら、あっさり王位捨てそうだから困ったな。


しかも、ヒルの奴、こんなにしつこい上に、いくら超絶美形でもストーカー染みてて、行動と言動が怖い。


こいつ、恋は盲目どころか、それしか見えないと言うか、好きな女中心に世界が回るタイプだったんだな。重っ・・・はっきり言って、俺が女でも全力で逃げたくなる気がする。

あの子、かわいそうに・・・


だが、あの子には申し訳ないが、ヒルと出逢ったのが運のツキと思って諦めてもらおう。見た感じ、割とまともそうだ。問題は家と力がないくらいか?どちらにしろ、俺は出来る限りのことをしよう。


今まで、何に対しても執着することのなかったヒルが初めて執着を見せたのだ。

ちょっとどころかかなり、成就するには厳しいかもしれないが、そこを何とかするのがヒルの側近としての腕の見せ所というものだ。ヒルが幸せになれるなら、喜んで、苦労しよう。その少女、カオルには申し訳ないがヒルの生贄じゃなかった、相手になってもらおうか。

ヒルはきっと、自分の嫁にする気満々だ。彼女の後ろ盾がなかろうが、力がなかろうが関係ないだろう。


これからが楽しみだ。

色々と問題が山積みだが、白金(プラチナ)の死神が、形振り構わず、全てを承知で、全力で陥としにいくのだ。さて、俺は親友として、側近として、白金の大鎌(プラチナ・サイズ)の二つ名に恥じぬように働きましょうか。


帰ったら、皆と相談しないと。


この日から、俺は退屈しない、素晴らしい日々を過ごすこととなる。




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