たぶん異世界26日目
取っていた宿もないと言うことなので、ヒルトは私と同じ宿を取ることにした。と、言うか、取っていたとしても同じ宿に移る気満々とか気にするのやめよう。刺客が宿まで襲って来たら怖いから困ると、一応、一般市民的な感じで頑張って言ってみたら、この宿の半径5ゼノン以内(確か、1ゼノンは1キロ程度のことだから、5キロ以内かな)は、絶対に近寄らせないようにすると。なぜか手を握られながら言われてしまった。
ヒルトに連れはいないのかと聞いたが、連絡が来るまでは自由にしていても問題ない為、気にする必要はないとのこと。気にしたい!早く、来いよ!ツレ!!そして、コイツを回収してくれよ!
はぁ。
どうしようかな。
ヒルトが邪魔で、魔獣と高位精霊の存在を確かめに行けない。
ただの、通りすがりのきのこ狩りのヒトと言う設定だしなあ。
だが、私に諦めるという言葉はない。
ティアが帰って来てから相談しよう。
解決しそうもないことを急ぎでもないのに考えるのは無駄に思えるので考えるのをやめました。
とりあえず、ティアの分を残して戦利品である黄金茸やら山菜やらを売りに行くことにしよう。
朝食を取って外出しようとドアを開けると、丁度、隣の部屋からヒルトも出て来て、私に笑顔で挨拶。
「おはよう。カオル。今日も可愛いな。良く眠れたか?」
聞いてもいいですか?
隣の部屋って別の人じゃなかったでしょうか?
はい。きっと、気のせいですね。
そして、私と同じタイミングで部屋から出てくるって、あんた、ストーカーですか?
キモチワルっ・・・げふん。げふん。
どうでもいいですが、私を可愛いと言うヒルトは目が腐ってるのも間違いないですね。
昨日から吐き気がするほど甘い言葉しか吐きません。私が可愛い?そんな言葉は身内にしか言われたことありませんね。
これでも一族最強(姉ちゃんは除く)の守護者であり、神の壁のような守護として恐れられていましたしね。お仕事モードの私は実際怖いらしいのです。二重人格とよく間違えられましたが、二重人格ではありませんよ。家訓に従って、公私をしっかり分けていただけで。大事なことなので、強調します!そんな私に可愛いなんぞ言ってくれる人はいなかったですからね。友人と家族以外の赤の他人では、そんなこと言っていれる人は初めてかもですよ!
あぁ、また、脱線しました。
こいつ、私が部屋を出るのを張ってやがりましたね。
ヒルトほどだと、力を使わなくても、把握するのは気配で十分だろう。
特に隣の部屋なんてね。
もちろん、職業柄、気配を消して行動することも出来ますが、例の如く面倒なのでしません。
社会人としてのマナーなので、どんなに鬱陶しくても挨拶です。
「おはよう。野宿よりは良く眠れましたよ」
それでは、さようならと会話を打ち切ろうとしたら、ヒルトが先手を打って来た。
「良かったら、これから一緒に食事をして貰えないだろうか。もちろん、カオルの好きな店で、俺に奢らせて欲しい。それが難しければ、カオルの視界に入らない程度に尾いていくようにする」
・・・
後半可笑しくないですかね?
ヒトはそれをストーカーと言うんじゃないでしょうか?
『カオル。断っても尾行してくると言ってるならここは大人しく了承する方が賢いと思う。でないと、悪目立ちすると思うが?それに、カオルの好きなタダ飯が食えるのではないか?』
ゆっきーが的確なアドバイスをくれる。
ですよね~
こいつから逃げられる気がしませんもんね~
ゆっきーもそう思うよね?
『あぁ。この男は一番危険なタイプだな。目的の為には手段も選ばないな。きっと。確かいたな。昔に。王女欲しさに国ごと滅ぼしたのとか、愛しい者を殺されて相手の大陸ごと吹っ飛ばしたのとか。そう言うのと同類と見た。しかも、その気になれば、この男なら出来そうだな』
どうだと言わんばかりに言うゆっきー
ゆっきーもし、私がこいつと殺し合うことになっても全力で助けてね・・・
『当たり前だ。我はカオルの守護龍であり、カオルと共に存在する。その時は我の全てを掛けてカオルを護る」
ゆっきー大好きだよ。
今まで、役立てることとか、稼がせることとか、チラっとお金に困ったら売り飛ばすことしか考えてなくってごめんね。これからはちょっとだけ、考えを改めるよ。
『・・・我はカオルの為になれば何でも良いが。売り飛ばすのは辞めて貰えないか?』
もちろんだよ!
と、ゆっきーとお話してたら、すっかりヒルトの存在ごと返事をするのを忘れてたよ。
ヒルトを見上げると、熱い視線と笑顔でこちらを見つめたまま、私の答えを待っている。
「わかった。いいよ。ヒルトに奢って貰ってあげる。美味しいもの食べさせてね」
と、答えるとヒルトは私が驚くほどに喜んだ。
単純だな~。戦ってる時と同一人物とはとても思えないな~
バックにお花が飛んでるように見えますね。
大丈夫かな。まぁ、いいや。そうと決まればご飯です。
二人で連れ立って、宿を後にした。
世間話をしながら、カナリーの商業地区を目指す。
ここの地理や美味しいお店なんかはまだ、わからないのでお店が集まってる商業地区なら何かあるかと思ったのですよ。ヒルトもこの街に詳しくないとのことなので、二人で取り合えずそこに向かってよさ気なお店を捜すことに。戦利品を売るにも丁度いいしね。きっと、ヒルトは金魚のフン宜しく、私に連いてくることが予想できるので、もう、ここは覚悟を決めて一緒にいることにした。
商業地区に入って、食事が出来そうな店を物色。
色々と見て回っていたのだが・・・やっぱり、気になるのでヒルトに聞いてみよう。
「ねぇ、ヒルト」
「何だ?」
私から話し掛けるのがあまりないせいか、凄く嬉そうにこちらを見る。
「ヒルトって、もしかしなくても、美形だったりする?」
「・・・どうしてだ?」
「さっきから、視線が凄いから?皆、ヒルトを見てるみたいだし」
ヒルトを見て、それから私を見て、嫉妬と羨望の眼差しを向ける。
面倒くさっ。しかも、目立つと碌なことがないのに!
地味なのがいいのに!
美醜に鈍感な私が解るわけないんだよ!せっかく、私が目立たないように加工して頑張っても、隣にこんなに目立つヤツがいたら私の努力は台無しです。さっきまで、ヤツが目立つなんて気付きもしなかったけどね!そんなの関係ないっ!
宿を出た時から気付いてましたが、商業地区に入ってからが酷い。
とうとう、我慢出来ずに聞いてしまいました。
「私、ヒトの美醜って解らなくて。人々の視線から察するに、ヒルトはもしや美形ではないかと思ったわけですよ。目立つのは嫌なのですよ。だから、これ以上目立つの嫌なので、ヒルトと別行動しようかなと思って」
「!」
ヒルトは私の言葉にショックを受けたようです。
そして、いきなり、肩を掴まれました。逃げたかったけれど、あまりの迫力に何だか逃げてはいけない気がして逃げられなかったのです。
「俺、目立っていたんだな。気付かなかった。配慮が足りなくてすまない。今から目立たなくするから。そんなこと言わないくれないか?」
・・・なんか、別れ話している男と女よろしく、捨てられそうな男が必死に女を引き止めてるように思えるのは気のせいですか?周りの方々もその様子にドン引きしてますが・・・
もう、いいや。何か色々と手遅れな気がします。
そんな私の手を引いて、ヒルトは裏路地の方へ。
ヒルトは周りに誰もいないことを確認し、更に不可視の結界を張ると髪と目の色を変えた。
そして、どこから出したのか(きっと、異空間でしょう)黒縁のビン底メガネを掛け、気配を薄くする。
おぉ!地味男です!見事です!
やれば出来るじゃないですか?!
「これでどうだろう?」
ヒルトは不安気に聞いて来た。
「バッチリです。合格です。これなら問題ないです」
私がそう言うと、ほっとしたように笑顔を浮かべ、結界を解除し、再び、私の手を引いて先ほどの通りに戻った。今度は視線を感じない。目立っていないようだ。
が、どうして、私の手が彼と繋がれているのでしょうか?
離して欲しいのですが、ああだこうだと理由を付けられて離して貰えません。
面倒なので諦めました。
ティア、早く帰って来ないかな。




