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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋人編
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第八十四話 アルファベットとメッセージとドッキリと

ああ、空が綺麗だな…。そう現実逃避してしまうほどの惨事が今まさに起こっていた。事の始まりは昨日。


「砂原君って影薄いよね」


「挨拶代わりなのか知らないけど会う度、言うのは勘弁して」


「見つけられただけ凄い事なんだよ?」


「そんなに薄い?!」


その日の朝は砂原君いじりから始まった。すると冠凪さんが苦笑しながら、こちらに来た。


「おはよー」


「おはようございます。あの…何故砂原君が涙目なんでしょう?」


「ちょっと…目にゴミが…気にしないで」


「は…はあ…。では」


軽く会釈してから冠凪さんは四組へと歩いて行った。次に会ったのは桜と冬音。


「あら、二人共おはよう」


「おはよう」


「おはよー!」


「砂原君なんで涙目なの?まあ、どうでもいいけど」


冬音の砂原君に対する冷たさは相変わらずで、そのまま冬音は一組に入って行った。…あれ?砂原君ついに泣いた?


「あんまりいじめないのよ、じゃあね」


颯爽と桜も三組へと入って行った。次に会ったのは秋と夏騎だった。それにしても砂原君は、いつまでいるんだろう。


「おはよー!」


「おはよう」


「…なんで砂原、涙目なん…泣いてないか?」


皆が皆、砂原君の涙目(もう泣いてるに等しいけど)について聞いてくる。それに対して砂原君は冠凪さんの時と同じように


「目にゴミが…」


とゴミのせいにして涙を拭う。秋は疑問に思いながらも夏騎と共に三組へと入って行った。


「あたしも戻らなきゃ、じゃあね」


砂原君が手をあげて答えたのを見て、あたしは一組に入った。言わば惨事が起こる前に砂原君を見たのは、この時が最後だっけ。


「明日は休みだー!」


昼休み、食事をしながらあたしは言った。桜がはいはいと適当に相槌をうつ。


「行くから、よろしく」


「ああ…冬音また来るの」


「また?」


眉をしかめながら桜があたしと冬音の顔を交互に見て言う。あたしは誤魔化すように笑う。


「うん、毎週来るんだよね」


「朝御飯ご馳走になるのは月2だけど」


「初耳」


「私は全てが初耳」


そうこうして時は過ぎ、放課後。そろそろ【現在】に近づいて来た。


「あら、砂原君は?」


「え、ついに影薄すぎて見えなく…」


キョロキョロと辺りを見回して砂原君を探す桜に冗談であたしは言ってみた。


「ないから」


「ですよねー…」


即答で言われた冷静な冬音のつっこみにあたしは後ろにサッとさがる。


「それで、見てない?」


「見てないなー…」


「あたしも」


「そう…もう帰ったのかしら?」


この時の桜は、やけに砂原君の事を気にしていた。今にしてみれば、この時にしっかりと彼の姿を確認しておくべきだった。


その翌日、廊下に倒れている砂原君を見つけた。気を失っていただけで特に目立つ傷などは見当たらなかった。


ただし、ダイイングメッセージならあった。何かの紙の切れ端に書かれた[M]の文字。あたしは息をのんだ。


砂原君は人為的に気絶させられたんだ。M…イニシャル?本井桜のM、冠凪紅葉のM、松永冬音のM…。


考え出したら切りの無さそうなダイイングメッセージ。と、砂原君のいる少し左辺りに、またもや倒れている人が。


「冠凪さん?」


駆け寄ってみると、また紙の切れ端に[O]の文字。イニシャルにOのある知り合いなんていただろうか。ここで手詰まり。


「あ…」


次は秋が倒れている。[D]の文字を確認して、三人の近くにそれぞれあった紙の切れ端を取った。


「夏騎まで!?」


一体全体どうなっているのだろうか。冠凪さんに秋に夏樹に…ああ、あと砂原君。夏樹の近くにあった切れ端には[U]の文字。


「さ…桜?」


「あら、青ざめてどうしたの?」


「なっ何者かが冠凪さん達を…」


すがるように桜の腕を掴み、紙の切れ端と先程倒れている冠凪さん達を見付けた事を話した。


「なるほどね…」


「どうしよう、保健室に連れていった方がいいよね?あ、それか誰か呼ぶとか」


「待ってちょうだい、まずは私達で考えましょう?」


「えっ…」


意外なその言葉に、あたしは目を見開いた。桜なら冷静に誰かを呼ぶか、してくれるかと思っていたのに。


「紙に書かれたアルファベットは確かにイニシャルなの?」


「それはどういう?」


「つまり、他の意味があるんじゃないのかって事よ」


「他の意味?」


そんな事は思い付かなかった。改めて考えてみても考え付かない。あたしは首を横に振った。


「そうね…何かの頭文字とか」


「頭文字…M.O.D.U…んー?」


「……はぁ…もう限界!教えてあげるわ」


急にそう言い、どこからか出した紙の切れ端をあたしに押し付けた。戸惑いながら見てみると、そこにはTの文字。


「これは…」


「Mは[め]Oは[お]Dは[で]Uは[う]そしてTが[と]。並び替えると?」


「えーと…お…おめで…とう?」


「そうよ!!」


桜が満足げに何回か頷いているのを見ながら、あたしは何の事だか分からなかった。すると、それを察してか桜が眉をひそめる。


「まさか…分かってない?」


「う…うん、ごめん」


「はぁ…誕生日でしょ?」


「あ…ああ!」


完全に冠凪さんたちが倒れていた事が大きすぎて、忘れていた。


「冬音ちゃんが、どうせならドッキリがいいって言ってね」


「すみません、ビックリさせてしまって」


「冠凪さん!?」


「倒れたフリをしてもらったの、けど忘れてたみたいだから?逆に分からなくさせたみたいだけど」


ジトッとこちらを見ながら桜が言った。すると、ドッキリをしようと提案した(らしい)冬音がやって来た。


「やあ、どうだった?」


「どうもこうも…本当に倒れてると思って…ビックリしたよ」


「まあ、それがドッキリだから。改めて、誕生日おめでとう」


「…ありがとう」


…と、ここまでは良かった。しかし、問題はその後だった。どうやら秋だけは本当に気絶させたらしい。


どうやって気絶させたのかは怖かったので敢えて聞かなかったけれど…それが原因で冬音が秋とまた口喧嘩をして…それだけなら良かった。


ただ、何故か口喧嘩がヒートアップして、季野家で大食い対決となった。夏騎の作った、わんこそばを多く食べた方が勝ち。


ついでに冠凪さんや桜までもが参加する事になり、あたしの誕生日の事がどこへやら。溜め息を吐きながらも、あたしはこの瞬間が楽しくて仕方がなかった。



*end…?*



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