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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋人編
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第八十二話 振り出しと焼きもちと尾行と ③

冬音は振り返らない夏騎の後ろ姿を真っ直ぐな目で見つめている。しかし、すぐに諦めたようで顔を伏せた。


「夏騎君はさ、自分はふらついてるくせに私が他の人と出掛けると邪魔するんだね」


「身勝手だと思うよ、自分でも」


「私もそう思うよ、だから今決めてよ。私の手を離すか、別の誰かの手を取るか」


「どっちにも松永さんの手を取ったままって選択肢がないけど」


「それは…」


そこで冬音が黙ってしまった。ただ地面をじっと見つめる。あたしは隣に来た桜に小声で話しかけた。今の自分の率直な思いを言う。


「今すぐ飛び出して行きたい」


「堪えなさい、今は堪えるのよ」


「無理だよ!堪えられないよ、この重い空気に」


「ダメよ!せっかく真剣に話してるんだから!」


「二人共、暫く黙っててください」


冠凪さんに怒られ、あたし達は口を閉じた。何にしても、あたしの飛び出して行きたい衝動はまだ収まっていない。


……隙をついて飛び出そう。


「……そもそも夏騎君がしっかりしてれば、こんな事にはならなかったんだよ」


「いたたたた!」


悲痛な声をあげて夏騎が冬音の手を離した。あたしは桜と顔を見合わせる。そして、あたしは頷いて言った。


「力込めたね」


「ええ、思いっきりね」


当の本人は澄ました顔をして、手を擦る夏騎を冷ややかに見つめている。


「で?どうすんの、夏騎君は」


「ふ…冬音ー!!」


「ちょっ!あんた」


「待っ…春香さん!」


ごめん、桜…冠凪さん…あたし…。自分の衝動、抑えきれませんでした!!心の中で謝り、あたしは全力疾走で冬音に向かう。


「は?春香?」


「冬音ー!!」


「怖い怖い!」


後ずさりしながら首を横に振る冬音に向かって、あたしは突進した。そう…あたしは親友に突進した。もちろん冬音とあたしは倒れこんだ。


「ありえない…親友に向かって突進するとか…」


「冬音…なんで意地張ってるのさ」


「待って!待って、その前に私の上から退いて…重っ」


「失礼な!」


言いつつ冬音の上から退く。そして冬音の手を取り、引き上げた。すると、疑いの眼差しをあたしと夏騎に向けた。


「なんで春香がいるの?夏騎君の時も思ったけど…」


「え?そ…それは偶然?うん、偶然」


「…二人して?」


「いやー驚きだねー!」


冷や汗をかきながら、あたしは笑って誤魔化した。しかし、冬音はまだ怪しんでいるようで眉をひそめている。


「夏騎も!とんだ偶然だよねー」


「偶然?何言っ「偶然って、すっごいねー!!」


「春香、今夏騎君が何か言いかけてたけど」


「ええ?そんな事ないよね?ね?」


このままではボロが出るのも時間の問題…いや、もう出てるかも。あたしは笑顔で夏騎に近づきながら、小声で言った。


「偶然って事にして、しらを切り通して」


「分かった」


「怪しい…二人共なんか隠してない?」


冬音の鋭さは絶好調らしく、すぐにバレてしまいそうだ。…と、桜が秋と一緒に、こちらへ歩いてきた。


「あら、二人共ここにいたのね?」


「探したんだぞ」


二人は口裏を合わせたのか、そう言った。なるほど、あたしと夏騎がはぐれたって設定か。すぐさま苦笑いを桜達に向ける。


「ごめん、ごめん」


「全く…あら、冬音ちゃん」


さも今気づいたかのような桜の口ぶりに感服する。演劇部とか入ったらいいんじゃない?


「どうしたの?偶然ね」


「あ、うん。ちょっとね」


「二人と何の話してたの?」


「話というか…夏騎君がふらつく件について」


「腹を括りなさい」


突然語尾を強めて桜は夏騎に言った。急に言われ、夏騎が戸惑っている。桜が面倒くさそうにしながら暴露し始めた。


あたしが必死で誤魔化して、隠し通そうとしたにも関わらずだ。ちょっと涙出てくるよね、振り回されてさ…砂原君とか思い出すと更に。


「は…はい?」


全てを聞いた冬音は顔をひきつらせ、次に焦りだした。何をそんなに焦っているのかと思えば、冬音が桜の肩を掴んで揺さぶり始めた。


「え?じゃあ砂原君に何の罪もないじゃん、あるとしたら桜じゃん。しかも尾行て…なんか感じてた違和感それ!?結局、桜に振り回されるだけ振り回されたって事?」


「お、落ち着いて?冬音」


「落ち着けるわけないだろーが、自分が私の立場だったら冷静でいられんのか?」


「あたしなら発狂するね、にしても口が悪いよ」


「取り乱してた、ごめん。けどさ…」


そこで言葉を切り、冬音がチラッと夏騎を見る。気まずそうに口を開きかけては閉じた。再び、あたしの衝動再発。


「良いから早く言っちゃいな?言わないなら、あたしが!」


「言いたい事、把握してないのに言えるわけないでしょ?」


「確かに」


桜に指摘され、あたしは頷く。すると、意を決したように冬音が夏騎と向き合った。


「尾行したのも嫉妬したのも夏騎君の意思で、なんだよね」


少し嬉しそうに冬音が小さく笑って言った。夏騎が赤くなった顔を隠すように俯く。こんな、いい雰囲気の場面にあたし、居ていいのかな。


「良く言えば優しいんだよね、誰の想いも完全に振り切る事が出来なくて、だから私の事も尾行したんだよ。少なからず夏騎君に好意を持った私を」


「違う」


「何が?元カノも冠凪さんも私も…同じだよ、夏騎君を好きになったんだよ。優しいけど…残酷だよね」


「冬音…一ついいかな?」


「何?」


「真剣に話してる所、悪いんだけど泣きながら砂原君がこっちに来てる」


場違いなあたしの発言に唖然としながらも気になっていたのか冬音はすぐに、あたしが指差した方を見た。言った通り、砂原君は泣きながら来る。


「え、なんで泣いてんの?」


「散々心が折られそうになった挙げ句、放置されたのに何故泣かないと思う」


「メンタル弱っ!けど、今回のは私が悪いから…桜に謝ってもらって」


「なんでよ?言ってる事、矛盾してない!?」


「元を辿れば桜が原因」


「くっ、冬音ちゃんのくせに生意気な」


悔しそうにしながらも桜は砂原君に頭を下げて謝った。何故か冬音が満足げに、それを見ている。…おい。


「冬音も謝んなよ」


「なんで?」


「まさか、なんで?って言われると思わなかった。メンタル攻撃したの冬音だからね?」


「あーはいはい、ごめんねー」


「適当…」


「許す」


「いいんだ!?砂原君、いいんだね?!」


一段落ついた所で、あたしは夏騎を見た。何かを考え込んでる様子で…それから冠凪さんを呼んだ。躊躇しながらも冠凪さんは来る。


「何がどうなってるんですか?」


桜がまた、冬音の時と同様に事情を説明する。冠凪さんは何度か深く頷いた。


「そうだったんですね…それで夏騎君、なんですか?」


「冠凪さん、僕の事…好き?異性として」


瞬間、その場の空気が一辺した。呆然と夏騎を見つめる冠凪さんが何かを言うまで沈黙は破られそうになかった…。



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