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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋人編
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第七十八話 梅雨と読書と距離感と ③

朝起きてメールをチェックしていると冬音から、かなり早い時間帯にメールが来ていた事に気づいた。慌ててメールを開く。


【風邪引いたから休む】


シンプルに簡潔に、それだけ書かれたメールにあたしは返信をした。冬音は大体、用件以外にメールを使わない。


【分かった、お大事にね(*・∀・*】


着替えようと携帯を置くと、すぐに着信音が鳴った。着替えを一旦止めて、携帯を開く。そこに書かれた内容にあたしは思わず目を疑った。


【昨日、土砂降りの中。傘もささずに歩いたから…春香も気を付けてね】


なんだか、つっこみどころが何ヵ所かある。まず何故に土砂降りの中、傘ささないで歩くなんて行為したの!?


そして、あたしにどう気を付けろと。しないよ!?言われなくても、そんな事。そっくりそのままの言葉を返す。


今度こそ着替えを済ませると携帯がまた鳴った。ため息を吐きながらも見る。


【やけになってたのと傘忘れたのとで】


やけになってた、の部分にあたしは引っ掛かった。土砂降りの中、傘も差さないで歩いていたいほどの事とはなんだろうか。質問してみる。


【なんで、やけになってたの?(;・+・)】


携帯をテーブルのすみに置いて食事をした。それが済んだ後、食後のコーヒーを飲んでいると返信がきた。それを見て思わず口からコーヒーを溢しそうになった。


【夏騎君と別れた…かも】


どういう事だろう、しかも【かも】なんて曖昧な言い方をして…。帰ってきたら急いで、お見舞いに行こう。そう決意して、あたしは家を出た。


学校に着くとソワソワしてる冠凪さんを発見。なにか知っているのかと思い、駆け寄る。


「冠凪さん、おはよう。どうしてソワソワしてるの?」


「あ、おはようございます。実は冬音さんを探しているのに見つからなくて…」


「冬音なら休みだよ?」


「どうして…あっ」


心当たりがあるのか声をあげた冠凪さんに、あたしは詰め寄った。


「何!?」


「…いえ、そういえば保健室から土砂降りの中を歩いていく人影を見かけて…冬音さんだったんですね」


「保健室にいたの?」


「ドジをして…転んだんです、何もないところで顔面から。そこを冬音さん達に助けていただいて」


「顔面から!?…それはそれは」


なんだか気の毒に思い、あたしは拝んだ。ん?待てよ、今冬音さん【達に】って。ということは夏騎と何かあったのは明白か…それで別れるに至ったのかな?自分なりに推理してみる。


「冬音さん、大丈夫でしょうか…」


「うん…別れたっぽい」


「へぇ、そうなんです…か!?へ?あの…え?」


「分かる分かるよ、混乱するのは。あたしもよく分かってないし」


「けど、どうして…」


顔を伏せて、冠凪さんは言った。考え込んでいるような冠凪さんにあたしは言ってみる。


「今日、お見舞いに行く時にでも聞こうかと思うんだけど、冠凪さんもどう?」


「…え?いいんですか?」


パッと顔を上げて目を輝かせた冠凪さんにあたしは頷いて見せた。


「だって冠凪さんも心配でしょ?」


「もちろん!じゃあ、行かせてもらいますね」


元気よく、そう言って冠凪さんは軽い足取りで自分の教室へと入って行った。


それから長かった授業を終えて、帰り道。隣では冠凪さんが何故か張り切っている。


「一度、家に帰って…冠凪さんの家を集合場所にしていいかな?」


「はい!もちろんです」


「じゃあまた」


「では!」


終始テンションの高めだった冠凪さんと別れたあたしは、着替えてすぐに冠凪さんの家へと向かった。携帯もしっかりとポケットに入れる。


着くまでの間に冬音にお見舞いに行くとメールした。すると、すぐに分かったと返信が来た。冠凪さんの家に着き、インターホンを鳴らす。


それにしても、どうして冠凪さんはテンションがあんなに高めだったんだろう。冬音の事を心配してるテンションじゃない気が…。


あ、もしかしてチャンスだと思って嬉しそうに!?そうだよね、冠凪さんも夏騎の事が好きだったんだし…。


「あの?」


「え?ギャア!」


「ギャア!?え、あの…」


いつの間にか出て来ていた冠凪さんに気づかなかった。しかも今まで冠凪さんの事考えていたし。叫び声を上げてしまったあたしに冠凪さんが困っている。


「ごめん、考え事してて…行こ」


「はい」


冠凪さんが薄ピンク色の傘を差して、歩き出した。あたしもついて歩く。


「それで…さ、なんで冠凪さん冬音のお見舞いに行くってなってテンション上がってるの?」


「えっ!?…だって嬉しいじゃないですか。友達の家に行けるのって」


純粋に素直に冠凪さんが言った。ああ、そういえば冠凪さんは冬音の家に行った事が一回しかなかったっけ…疑ってごめん!!心の中で謝る。


「着きましたね」


やっぱり嬉しいんだなーと冠凪さんのうきうきした表情を見て、改めて思う。同時に冬音の家のインターホンを押した。


何度会っても慣れなさそうな、あの人が出た場合に備えて心の準備をしておく。前に冠凪さんが冬音の家に来た時は確か、冬音が自分で出たんだよね。


「はーい?」


玄関のドアを開けた女性…由利音さんは今日も今日とて薄着だった。あれ?そういえば冠凪さんは初対面…。顔をひきつらせて隣を見る。


「な、な、な…」


顔を真っ赤にしながら驚いていた。反応…可愛いな、なんて呑気に考える。由利音さんが中へと促してくれたので傘を畳んで入る。


由利音さんがリビングへと消えると冠凪さんは胸を撫で下ろしてホッとした。


「ビックリしました」


「だよね、あたしも何度会っても慣れない」


「まだそんなに気温も高くないのに大丈夫なんですかね?」


風邪の心配をするところが冠凪さんらしい。あたしは微笑みながら、冬音の部屋のドアを開けた。


「冬音、大丈夫?」


「冬音さん?」


「あれ…」


不審に思い部屋を見回した。…いない。冬音が部屋にいなかった…。あたしは呆然と空になったベッドを見つめていた。



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