第六十一話 来訪者
学校が終わり、あたしは自分の部屋でくつろいでいた。冬音も何故か一旦、自分の家に戻ってからわざわざ家に来た。
今はゴロゴロと寝そべりながらゲームをしている。あたしは成績がさすがに危ないので勉強中…。
ふと、思った事があったので息抜きついでに聞いてみる事にした。
「そういえば冬音、冠凪さんと話してたよ…ね?好きな人の事…」
数日前の事を思いだし、あたしは聞いた。冬音は一先ずゲームを止めてあたしを見た。
「そうだけど」
「あたし途中から聞いてたんだけど」
「知ってた」
「何、話してたの?始めから教えて」
「なんで?」
平淡な声、無表情な顔、鋭い視線、まるで全てがこれ以上聞いて来るなと言っているかのようだった。それでも、あたしは…。
「知りたいから、だってあたしも皆に助けてもらった。もしかしたら、皆がいなかったら秋と恋人同士になんてなれなかったかも」
「邪魔ばっかしてたと思うんだけど」
「自覚あったの!?まあ、いいや。とにかく、あたしだって協力したい…」
「それ」
「…え?」
突然、冬音に指をさされ戸惑う。すると冬音が指した指を下げながら言った。
「協力してくれませんか?だって」
「冠凪さんが…言ったの?」
「そう。夏騎君の事が好きだから協力してくれませんかって…で後は春香が聞いた通り」
「冬音の好きな人って、あたしも知らない人なの?」
冬音は止めたゲームを見つめながら、それを指先で触っている。
「…そうだよ」
「ふーん…」
ああ、嘘だな。何の根拠もなかったけれど、なんとなくそう思った。
「それより冠凪さんの事だよ。やっぱり私は積極的に話すのがいいと思うんだよね」
「積極的に?」
「そうそう、まずはお互いの事を知り合うのが一番」
「…待って、冠凪さん呼ばない?」
「ああ、そっか。じゃないと元も子もないよね」
苦笑いを浮かべる冬音にあたしも苦笑いを返しながら、部屋を出てリビングにある固定電話を手に取る。
冠凪さんの家の番号にかけて、少し待つと冠凪さんが出た。事情を話すと「すっすぐ行きます」と慌てたように返事を返してきた。
電話を切り、部屋に戻ってみると何事もなかったように寝っ転がってゲームをする冬音がいた。
「おっ、電話終わった?」
「うん、すぐに来るって」
「もう来たりして」
冗談半分に笑いながら冬音が言うと、鳴ったインターホン。
「………」
「………」
「…出て来なよ」
「まっ待たすのも悪いもんね」
あたしは急いで玄関へと向かった。ドアを開ければ息をあげてる冠凪さんがいた。
「走って来なくても良かったのに」
「い…いえ…走り…たかっただけ…ですから。大丈夫です、気にしないでくゲホッゴホッ」
(本当に大丈夫!?この人)
ドアを大きく開いて、あたしは冠凪さんを招き入れた。部屋まで案内したところであたしは言った。
「冬音いるんだよね、部屋に」
「あ、電話でも言ってましたね」
「そう…なんだけど…」
「?」
首を傾げて不思議そうにする冠凪さんに見てれば分かるからと一言、言ってドアを開けた。
「やあ」
「ど…どうも」
片手を挙げて我が物顔で挨拶した冬音に冠凪さんは驚きながらも返した。何に驚いたかって言われれば…。
いつの間に持ってきたのかジュースを人数分と皿に盛られたお菓子。あと何処から持ってきたのか白いテーブル。
「ここはあんたの家か…」
「え?」
「あたしでも、こんなテーブルあるの知らなかったよ!?」
「春香さんが用意したんじゃないんですか!?」
「ん?…うん」
あたしよりも何倍も驚いたであろう冠凪さんが口を開けて唖然とした。
「いや、そんな事よりもさ」
「言っとくけど冬音がこんな事したからだからね!?驚いてんの」
「よかれと思ってやったのに?」
「だとしても何であたしの知らない物まで知ってんの」
「まあまあ、いいじゃん」
「怖いよ、なんで?なんで知ってんの」
「冠凪さん、ちょっと」
手招きをして冬音は冠凪さんを自分の隣に呼んだ。それにより冬音に疑問の答えを教えてもらう事は叶わなかった。
「明日さ、夏騎君に自分から話しかけてみようよ?」
「え…ええ!?」
「まずは自分を知ってもらって、相手を知るのがいいと思うんだよ」
「そうですよね…」
自分の手元に視線を向けながら呟くように冠凪さんは言った。
「けど急に一人じゃ難易度高いと思うからキッカケ作ってあげるよ」
そう言って冬音は立ち上がり、ドアの近くに立ったままだったあたしの肩に手を置いた。
「春香が」
「あたし!?普通そこは話の流れ的に冬音でしょ?」
「え?私にだって色々あるんだよ?」
「……いや、あたしもだよ!?」
まあまあと、あたしを宥めるように何度か肩を叩いてから冬音は冠凪さんを見た。
「って事だから春香がキッカケ作ってくれるよ」
「決定?もうそれで決定なの!?」
そんなこんなで冬音の独断により、あたしがキッカケ作りをする事になってしまった…。