第五十五話 徐々に知る事
早速、冠凪さんは部室へと向かって行った。やれるだけやるとは言っても・・・。
「何したらいいんだろ?」
「え・・・」
勢いに任せて言ってしまったので、何をするか考えていなかった。桜も驚いて、あたしの顔を見つめている。
「考えてないの?」
「ははっ・・・・ごめん」
「ハァ・・・。まず、秋君の所に行きましょ。ちょうどいいみたいだし」
「あ・・・」
もう用事は済んだのか、ちょうど冬音が秋から離れるところだった。
一先ずホッとする。信じてないわけではないけれど、秋が冬音の方に行ってしまうのではと心配だった。
「秋!」
名前を呼んで歩いてみれば、気づいた秋がこちらを見・・・あ・・。
(目が死んでる・・・)
「春香か・・・どうした?」
「秋こそ、どうしたの?」
「松永がおかしいんだ。きっと夢だな、これ」
ああ、この人ダメっぽい。あたしは、すがるように桜を見た。
「そうよね、わかるわかる」
なんか知らないが同意していた。そこまで冬音の姿は信じられなかっただろうか。
思い返してみると、秋を前にして照れた冬音。照れてるのか秋と目を合わさない冬音。喧嘩腰じゃない冬・・・・。
「違う・・・いつもと違う」
「早く戻してあげましょ。戻った時、今までの記憶は、そのまんまなんだから」
「だね!」
という事で、次に冬音を探さなければならなくなった。
「呼べば来たり・・・しないよね」
「犬なら来るわね」
「うーん・・・冬音は犬ってより猫科っぽい・・・って何の話!?」
「そっちが勝手にノリツッコミ始めたんでしょ。よく放課後に行く場所とか知らないの?」
言われて考えてみる・・・けれど、大体冬音は皆と団体でいる事が多い。一人の時に行きそうな場所?
「あっ、やばい」
「何が?」
「冬音、皆といるからか放課後に学校に残る事が多いんだけどさ」
「まさか・・・」
「・・・実は用事ないと、さっさと帰るタイプ」
ちょっとした間があり次に口を開いたのは、どちらともなく駆け出した時だった。
「そうだと知ってたら、秋君の前に冬音ちゃんの方から聞いてたのに!」
「ごめん!ほんと、ごめん!」
急いで教室へと向かってみると、冬音がちょうど出るところだった。ギリギリで間に合いホッとする。
「良かった、まだいた」
「春香?と桜。どうかした?」
平然とした口振りの冬音をみると、やっぱり変わったところなんて無いように見える。
[身近な人]の前でだけ、変わってしまうんだろうか?もっと詳しく冠凪さんに聞いておけば良かったと後悔する。
「聞きたいんだけど、秋君と何話してたの?」
「え?他愛もない話だよ」
「それにしては照れてなかった?」
「・・・そうかな?」
「いつもより敵意もなかったわよね。彼に対して」
「さあ?」
あたしが何も聞けぬまま、桜の質問責めが続いていく。しかし、何を聞かれても冬音は受け流すだけ。ある意味すごい。
「好きな人いるのよね」
この質問に対して、初めて冬音が違う反応を見せた。顔を強張らせる。
「誰かしら?私にだけでいいから教えてくれない?」
「ずるっ!あたしも知りたいのに」
「黙ってなさいよ」
鋭い目つきで制され、あたしは仕方がなく大人しくしている事にした。
「で、誰よ」
「ちょっと・・・」
冬音に言われ桜が耳を近づける。まさに内緒話という感じだ。仲間外れ感が凄まじい。
聞き終えると、桜は「そう」とだけ言って、あたしを促して冬音から離れた。
ある程度、来たところであたしは聞く。桜はこちらを向かない。
「何を聞いたの?」
「冬音ちゃん・・・」
聞こえた声は震えているのか、か細かった。泣いているのかと心配していると。
「秋君が好きですって!あっはっはっはっ」
「さっ桜?(壊れた・・・)」
お腹を抱えてひとしきり笑ったあと、桜が涙を拭いあたしを見た。
「ごめんなさい、それで冬音ちゃんが言うには秋君を一目見た途端に動悸が激しくなったらしいの」
「それで、ああこれは恋だなって思ったとでも?」
「そんな感じよ、けどどうしたものかしらね」
腕を組んで視線を横に逸らして桜が言った。その前にあたしは冬音が簡単に恋だと、決めつけた事にびっくりした。
「冬音って惚れっぽいのかな?」
つい口を突いて出てしまった言葉が桜の耳に届いたらしい。ー担、自分の考え事を止めてあたしをチラッと見た。
「似てたからじゃないのー?」
ニヤリと笑って言った桜を見て、あたしは眉をひそめた。どういう意味で言ったのだろうか。
「それって本当の冬音が好きな人に関係のある事?」
「ええ、まあね」
「…あれ?って事は桜は冬音の好きな人知ってるの!?」
声で答える代わりに桜は頷いて見せた。あたしは唖然とする。
「え…誰!?好きな人って誰?」
「それは本人に聞きなさいよ」
「大事なところでケチ!」
「けど、すぐ分かるわよ。近いうちに」
未来が見えるわけじゃあるまいし、というツッコミは桜が遠くを見つめてたそがれているので引っ込める事にしたのだった。