第五十三話 トラブルはいつも…
昼休みの教室では早速…と言って良いのかどうか。あたしは冬音の机に両手を付き、身を乗り出しながら聞いていた。
「この間の冠凪さんの事だけど。協力…と言う名のおせっかいをするにしても、どうするの?」
「一先ず冠凪さんの所へ行こう」
そう冬音が言い出したので仕方がなく、あたしも着いて行く事にした。四組へ行くと、案の定…というか冠凪さんはサイエンス部へと行っていた。
更に足を運ぶ事になり少し憂鬱気味になる。ここの所、色々…特にこの間の訪問事件が効いているので尚更だ。
サイエンス部のドアをノックしようとして冬音はその手止めた。どうしたのかとあたしは冬音を覗き込む。
「なんか白いんだけど」
「え?」
何の事だかさっぱり分からず首を傾げる。すると冬音は苦笑いを浮かべて一言、あたしを見てごめんと言った。それから視線をドアに戻す。
「言葉足らずだった。なんかドアの隙間から白い煙みたいなのが出てるんだけど…」
「煙?」
目を凝らして見てみると確かに白い煙のようなものが出ている。中で何をしているのだろう…ここに来る度、あたしは常々思う。
「火事ではない…よね?火災報知機鳴ってないし」
「開けてみる?」
あたしの言葉をスルーして冬音はドアに手を掛けながら聞いた。そんなの決まっている…。あたしは冬音の顔を見ながら頷いた。
それを見た冬音も頷いてゆっくりと部室のドアを開けた。白い煙が目の前を支配したのち、しばらく経つと煙も薄れて部室の中が見えるようになって来た。
「冠凪さん?いる?」
「ここです」
声を頼りに冠凪さんの居場所を探る。やっとの事で冠凪さんを見つけ出し、腕を掴んで廊下へと連れ出す。
「大丈夫?なんで部室があんな事に…」
「いつもの事です」
「……また変な物作ってるの?」
「変というか…ええ、まあ…」
言葉を濁しつつ冠凪さんは頷いた。溜息を吐いて冬音にも聞こうとした時、廊下に冬音が出ていない事に気がついた。
「あれ?冬音?」
「えっ冬音さんもいたんですか?」
「うん…部室入ってから一言も話さなかったから分からなかっただろうけど」
「大変ですよ!まだ中にいるなんて…」
「冠凪さん、何作ってたの?」
冠凪さんの顔を覗き込んで聞くと、明らさまに目を逸らされた。直感的にあの煙に関係しているなと思った。戸惑いがちに冠凪さんは口を開く。
「そ…その…」
「うん」
「一時的に…あっ好きな人がいる場合ですよ?好きな人ではなく身近にいる異性を好きになってしまうんです」
「え゛っ…」
「冬音さんの好きな人に心当たりはありませんか?」
心配そうに冠凪さんは聞いてきた。心当たり…全くないです…。というかいたとしても、あたしにはきっと気づけない気がする。あたしは正直に言う事にした。
「全く心当たりないよ…たぶんいても、あたしには気づけない」
「じゃあ尚更早く廊下へ!あの煙、しばらく効果が出てますから」
「うん!…あれ?そういえば、どうして冠凪さんは大丈夫なの?」
「廊下に連れ出される寸前までマスクしてたんです、春香さんは少しの間だったので効き目が出ていないんです」
「そう…って急がないと!」
のんびり話をしている場合ではなかった。早く冬音を出さなければ!冠凪さんも面倒な物作るよ…引っかかる冬音も冬音だし…。
「捕まえました!」
あたしが考え事をしているうちに冠凪さんが冬音を見つけたらしい。ドアへと向かっているのがうっすらと見えたのであたしも廊下へと出る。
「冬音!」
冠凪さんに手を引かれ、少しボーっとしている冬音に駆け寄り声を掛けた。それに気づいた冬音はゆっくりと顔をこちらに向けた。
「春香…」
「だ、大丈夫?」
「……何が?…あれ、冠凪さん!無事だった?」
周りに視線をめぐらせて冠凪さんに気づいた冬音が聞く。気づかず、ずっと探していたのかなと予想して声を掛ければよかったと少し反省した。
「冠凪さんを探して部屋の中を歩き回ってて…そこまでは覚えてるんだけど…」
訂正。どうやら冬音が部室の中に居続けていたのは、あたしだけの所為じゃないらしい。顔を引き攣らせながら冠凪さんを見る。
「すみません…」
「なんで冠凪さんが謝って…?」
顔を俯かせて謝った冠凪さんから視線をあたしに移して冬音が聞いてきた。あたしは苦笑いを浮かべながら…。
「それが…」
冠凪さんに聞いた白い煙についての事を冬音に説明した。冬音はさすがに慣れてきていたのか目を丸くしながらもそれ以上のリアクションはせずに説明を聞いていた。
「―――って事で…」
「それってかなりやばいんじゃ」
「けっけどね?冬音に好きな人がいなければ…」
そこまで言ったところであたしは口を閉じた。冬音が微妙に焦っているのがあたしでも分かる。で、今のあたしの言葉だ。
つまり…これはそういう事…?冬音を見つめたまま硬直していたあたしはハッとして冠凪さんを見た。冠凪さんも気がついたのか今だ硬直している。
「えっとさ…冬音?」
「何?」
「非常ーに聞きにくいんだけど…」
「だから何?」
少し苛立った様子の冬音にあたしは意を決して聞いた。隣で冠凪さんが固唾を呑んで見守っているのが視界に入った。
「冬音って…好きな人いるの?」
「え…」
若干冬音の目が大きく見開かれるがそれも一瞬ですぐに元に戻る。すると、冬音は微笑を浮かべて言った。
「まさか、そんな訳ないじゃん。平気平気」
隣で冠凪さんがホッとして息を吐く。多少なりとも責任を感じていたのだろう。それでもあたしは冬音の言葉に納得がいかなかった。
微かだけれど見せた冬音の反応。それがなんでもない訳がない。きっといるんだ…好きな人が冬音には…。
冠凪さんと会話している冬音の顔を見つめながら、あたしはそんな事を考えていた―――…。