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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋心(友人・親友)編
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第五十一話 訪問②

朝なのにテンションの高い冬音は、まず桜の家を訪問するらしい。桜の家の前まで着き、インターホンを押すのかと思いきや…。


「桜ー!!」


桜の部屋がある辺りに向かって叫びだした。とんだ近所迷惑である。ってそんな事、思ってる場合じゃない!


「ちょっと冬音。近所迷惑だよ!普通にやってよ!」


「普通って当たり前のように言うけれど…普通ってなんだろうね?」


「何、急に反応が難しい発言してんの?まず叫ぶの止めてよ」


「何よ!朝っぱらからうるさいわね」


一度冬音と顔を見合わせてからあたしは桜の家の方へと顔を向けた。ドアを開けて怒鳴りながら桜が小走りにやって来た。当たり前の反応だと思う。


「お宅訪問ー」


「おはよーみたいに言わないでよ!てか普通に来なさいよ」


「普通って当たり前に言「あのー!お邪魔していい?」


「え…ええ…」


目を見開いて驚いてから桜は部屋へと招き入れてくれた。冬音は隣で興味津々に部屋の中を見回す。前にも来た事があるはずだけど、冬音はそれでも興味津々だ。


「それで何しに来たの?」


ジュースを口へと運びながら桜が聞いて来た。冬音は、そんな事かといった様子で答え始める。


「そんなの暇だから来ただけだよ」


「暇って理由でこんな朝から…」


うんざりした顔をして桜は溜息を吐いた。しかし、ここにもっとうんざりしたい人物がいるのですよ!あたしですよ。


「桜なんてまだいいよ、あたしの家には六時台に来たからね?」


「何やってんのよ、目覚ましでも掛け違えた?」


「春香じゃあるまいし、そんなミスしないよ」


「あたしが掛け違えてるみたいな言い方しないでよ…時々するけど…」


時々するんだ!?というツッコミが出かかったが、なんとか飲み込む。あたしは出されたジュースに口を付けた。


「……で、わざわざ家に来て何をしようと?」


「いや、暇だったから」


「そんな理由で……」


桜は哀れみの視線をあたしに向けた。多少慣れているので、あたしは左右に首を振るだけにした。それを見て桜が視線を冬音に戻した。


「もうちょっと春香の気持ち考えて見なさいよ?休日こそ、彼氏である秋とデートしたいんじゃないの?」


冬音はそうなの?という目であたしを見た。強ち間違ってはいないが、あたし的には冬音に振り回されていて正直忘れていた。


「まあ、いいや。次、冠凪さんの家行くんだけど、来る?」


「またあんたは…今度は冠凪さん!?」


さすがに桜も呆れている。もう、このまま知人の家を回れるだけ回ってしまいそうな勢いだ。あたしも思わず止めに入ろうとしたが……。


「冠凪さんの後は秋達の家も行こっかなー」


冬音の方が一枚上手だったらしい。あたしは止めようとした言おうとした言葉を飲み込んだ。それを肯定と取った冬音はにっこりと笑って言った。


「じゃあ、決まりだね」


その言葉に桜は溜息を吐き、あたしは苦笑いを浮かべた。当の冬音は意気揚々と桜の家の玄関へと歩を進めていたのだった。



やって来ちゃいました、冠凪家ー。腕時計を見ると、朝の八時を差していた。陽も本格的に輝き始めている。


「うわー、来ちゃったよ…」


心の声が思わず零れる。桜もついに遠い目をし始めていた。この中で気力があるのはきっと冬音だけなんじゃないかと思った。


冠凪家のインターホンを押すと、すぐに鍵の開く音がして冠凪さんが戸惑った様子でドアから顔だけを覗かせていた。そりゃそうだと、心の中で頷く。


「現在、春香・桜の家を回って来たところです!」


何の報告か、冬音は戸惑う冠凪さんに構わず言う。目を瞬かせながら冠凪さんは苦笑して答える。


「は…はあ…」


「それで冠凪さんの所来て…次は秋達のところに行くのです」


「それで…?」


「冠凪さんも行かない?」


「あ、冠凪さんの家には入らないんだ」


ここでやっと発する事が出来たのはこれだけだった。冠凪さんは哀れみに似た目であたしと桜を見つめていた。


「じゃあ、仕度をするので少し待っててください」


「うん、分かった」


冬音にしては素直に頷き、冠凪さんはドアを閉めて家の中へと入っていった。それから数十分……。今だ、冠凪さんが出てくる気配はなかった。


まあ、仕度が色々とあるんだろうと自分を納得させて更に待つ事、30分。さすがに…さすがに…。


「遅いわ」


痺れを切らした桜が言う。あたしも隣で頷いたが冬音はただ淡々と待っている。それから少しして冬音は再びインターホンを押した。


すると、ちょっとしてから冠凪さんはまた顔だけドアから覗かせた。


「どうかしたの?」


冬音の冠凪さんに対しての質問の意図がよく分からなかった。ただ遅いだけだと思っていたけれど違うのだろうか?あたしは首を傾げた。


「そ…その…」


言いにくそうにしながら冠凪さんは口を開いた。冬音は黙って話し出すのを待っている。ここに来て冷静さを取り戻したのか…それならもうちょっと早く…。


「服が…決まらなくて…」


………………。


その場に重い沈黙が流れた。ふと、隣を見てみると桜は顔を引き攣らせている。なんとなく、この後の展開が予想できた。


「だったら……早く言いなさいよ!!」


ほぼ怒鳴っているに等しい声で桜は言い、冠凪さんに近づく。そして少し開いたドアを開けてズカズカとおじゃましますと言ってから入った。


それから十分、桜に連れられて出て来た冠凪さんは清楚系の服を来て出て来た。どうやら、桜はさっさと選んだようだ。


「けど、なんでそんなに服に悩んでたの?」


なんとなくの疑問を冠凪さんにぶつけてみる。すると見る見るうちに冠凪さんの頬が赤く染まっていった。んん?この反応は…?


「まあ、いいじゃん。ほら、夏騎君達の家にレッツゴー!」


「はっはい!」


気にかかったのは妙に冷静な冬音と今まで秋達の家…だったのが夏騎君達の家…に変わったところだった。特に気にするほどの事ではない気もするけれど…。


なんだが気にかかって仕方ない。



首を傾げながら考え事をして、いつの間にか着いていた季野家を見上げる。いつ来ても大きな家だと思った。


冬音はあたし達の時と同様にインターホンを押して黙って待っていた…が、腕を組んで周りを歩き回りイライラし出した。


やっと秋が出てくると、途端に冬音が掴みかかる。桜は遠い目をしたまま黙っていた。もうとにかく、だるいのだろう。


「なんでさっさと出ないんだよ!待ちくたびれたわ!」


「たった数十秒でなんでそんな事言われなきゃいけないんだ!」


「冬音、これは冬音が理不尽だよ」


仲裁に入ると、冬音はムッとしてから秋の襟元から手を離した。あたしは溜息を吐いてから今までの事を話した。


秋は冬音に視線を向けて顔を顰めた。それから無言でドアを開ける、どうやら入ってもいいみたいだ。あたしを含め、冬音以外は気まずそうに秋に頭を下げながら入っていった。




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