第五十話 訪問① 冬音side
あの子を諦めて私にして…とは言わないし
好きになって?付き合って?とも言わない…
けれどただ、私は貴方に気づいてほしい…
ただそれだけでいい…。
そう願う事もダメですか…?
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よく晴れた澄み切った空、いつもより早い朝の時間には、人通りも少なかった。今は休日の朝。目覚ましを掛け間違えてかなり早くに起きてしまったので散歩がてら春香の家にでも行ってみようかと出かけている最中だ。
春香を誘う…と言っても、やっと六時になったこの時間…特に休日なので起きていないだろう…。けれど出てきてしまったのは仕方がないので、そのまま春香の家へと一直線に向かって行った。
インターホンを押すと少ししてから春香の母親らしい人の声が聞こえて来た。それから、また少しして扉が開く。
「すみません。こんな朝、早くに…」
「いいえ、どうぞ上がってください」
「おじゃまします」
玄関で靴を揃えてから私は家の中へとおじゃました。ちょうど朝ごはんが出来たので春香を起こしてきてほしい…と頼まれたのでいざ春香の部屋へ。強調して置く、私は“頼まれて”春香の部屋に向かうのです。
ドアを数回ノックしても返事がなかった。やっぱり寝ているらしい。返事がないので仕方なく、私は部屋の中へと入った。
最近、掃除に来たばかりだと言うのに、またゴチャゴチャとしていた。少しは掃除しないと、嫌われちゃうぞ、と起きたら初めに言ってやりたい。
そんな事を考えながら私は春香の体を揺すった。ベットが壁側に沿って置かれていたのと、壁側に春香が体を向けていたのもあって私が揺するたびに頭がゴンゴンと当たっていたけれどお構いなしに私は揺すり続けた。
「いたっ!いたっ!痛いって!何?え?は?」
痛さで飛び起きた春香はまだ状況が分かっていないようで頭を片手で抑えながら私の顔を呆然と見つめていた。
「おはー」
「おはよ……なんで冬音がいるの?え?ここ、冬音の家?」
「来てもいないのにそれを無いでしょ、そこは私がここに来たって考えるでしょ。大丈夫?」
「ちょっ…ちょっとパニくってる…」
頭を抑えながら春香は体制を直してベットに座った。私は座るスペースが無さそうなので、立ったままでいる。
「それで…なんで冬音が?今何時?」
「早く起きちゃって暇だから来た。今は六時十分くらい?呼んで来てって春香母に頼まれた」
「そうなの?じゃあ、そろそろ起きよ」
「順応早…」
春香はさっさとベッドから起き上がり、欠伸をした。それから私は春香について、リビングへと向かった。
「もー!なんで六時に起きなきゃいけないの?」
「いつもは九時くらいまで寝てるものね」
春香母が茶碗にご飯をよそいながら苦笑交じりに言った。隣で春香は頬を膨らまして膨れっ面をしている。私は春香の肩に手を置いた。
「ドンマイ☆」
「当事者が何言ってんの!?」
「いや、何か言わなきゃと思って」
「何も言わなくていいよ、なんで変な気遣ってるの?」
「ほら、春香。ご飯ですよ」
そう言われて春香は渋々といった様子でテーブルに着いた。ご飯の盛られた茶碗をテーブルに置いてから春香母は私を見た。
「冬音ちゃんは?」
「あっ、私はもう食べて来たので」
「そう?」
少し気にする素振りを見せてから春香母は台所へと入って行った。さすがに朝ごはんをご馳走になるのは……姉に叱られる。
「いただきまーす」
春香は美味しそうにご飯を頬張り、次に目玉焼きを口へ運んだ。見てるだけでも美味しそう…食べて来たはずなのにお腹鳴りそう…。
「ごちそーさま!」
両手を合わせてから春香は食べ終わった食器を台所へと運んだ。私はといえば春香が食べ終わるまでお腹が鳴らないよう兎に角、頑張った。ちょうど時計の針は六時三十五分を差していた。
「これから冬音、どうするの?」
「んー?八時くらいまでここで時間潰す」
「家、何もないけど…」
「なんでもいいよ?」
「なんでもが一番困るよ!」
このままでは、何もする事がないので自宅に帰る事になってしまう!せっかくここまで来たのに…面白そうだから来たのに!何か提案しなければ…。
「ああっ!じゃあ、冠凪家と本井家を見学に行こう!」
「ええっ!?」
「そうと決まれば早く着替えて着替えて」
「決まってないよ!?と言うか押さないでよ!」
グイグイと春香の背中を押し、部屋の中へと入れた。部屋のドアを閉めてから少しして、中から溜息が聞こえた。きっと渋々でも着替えてくれているのだろう。それから服を着替えて春香は出てきた。
「それでは…レッツゴー!!!」
「冬音、朝にテンション高いね…」
「まあね!」
「威張る事でもないと思うけど…」
春香はまた溜息を吐いた。何をそんなに溜息を吐かなければいけない事があるのだろう?首を傾げながらも、私は聞かない事にした。きっと色々あるんだね。
それからテンションの低い春香と共に私は節中家を出て、本井家と冠凪家へと向かって行った。