第四十九話 怪しい二人② 桜side
放課後になり、私は春香と冬音ちゃんのいる教室へと向かった。しかし、そこに二人の姿は無く、仕方が無いので屋上前の階段で寝ながら時間を潰す事にした。
それからどれくらい経ったのか…近くの教室に設置してあった時計を見てみると、もう二十分も経っていた。もういないわよね……と落ち込んだ気持ちで廊下を歩いていた。
ふと、その時に雪さんの事を思い出し、彼ならまだいるかもしれないと言う期待を抱いて、私は部室へと向かった。
部室に着き、ドアをノックすると中から雪さんの声が聞こえて来た。それを聞いてから私はドアを開けて中へと入る。
「あれ?本井さん?」
「そうだけど…何よ?誰か別の人でも待ってたの?」
そう言いながら私はいつもの椅子へと腰掛けた。テーブルには彼が買って来たと思われる缶コーヒーが乗っている。私が会う時は、いつも缶コーヒーがあるのよね……。
「さっきまで妹が来てたんだ。何か忘れ物でもしたのかと思ってね」
雪さんも椅子を引いて座る。妹……春香ね。なんだか雪さんがスッキリしたような顔をしていたので私は何も言わずにジッとしていた。
「それで……何か用かい?」
「え?いえ、春香達が教室にいなかったから暇でここに来たのよ。雪さんならまだいると思って」
「当たったみたいだね」
「ええ」
「行き違いになったんだと思うよ?春香達が戻った後に本井さんが来たから」
「そうなの?じゃあ、また戻らないといけないのかしら…」
何度も行ったり来たりしている事を考えて私は憂鬱な気分になった。それを少し笑いながら雪さんが見ていた。
「それにしても、いつも放課後に遅くまでいるのね?」
「大体はね、一人になりたい時はここが一番最適だ」
「そう……。雪さんにも一人になりたい時があるのね?」
「僕にだってあるさ」
他愛無い話をしていると後ろのドアから何か小さい物音が聞こえた。小声で話しをしているような、そして何かがドアに当たる音が微かにだけれど聞こえた。
一瞬にして嫌な予感が過ぎる。それに、こんな事をするのは春香達以外に考えられない。大方、私が“雪さんのいる”部室に行ったから気になって来た…と言うところでしょうね。
私が後ろのドアを気にしているのを見て、雪さんが首を傾げていた。仕方がなく、溜息を吐いて席を立ち、私はドアをガラッと開けた。
「あ……」
「ほらっ冬音が騒ぐから気づかれちゃったじゃん!」
「そんな事言ってる場合じゃないですよ!」
呆然と私を見上げる冬音ちゃんに、責める春香を窘める冠凪さん。三人共、しゃがみ込んでドアに耳を押し当てながら中の様子を窺っていたらしい。
そんな三人を後から立ち上がって此方に来た雪さんは私の後ろから呆然と眺めていた。私はもう一度溜息を吐く。
「何やってんのよ?」
「いや…冠凪さんが桜が部室に行ったって言うからね?あたしは付いて行っただけなの」
「そう言う春香さんだってノリノリだったじゃないですか!」
「二人共ノリノリだったよ…私もつられて悪乗りしちゃったし…」
この会話からすると、どうやら私の推理が当たったらしい。私は振り返り、状況を把握出来ずに呆然と立ち尽くしている雪さんを見た。
「ごめんなさい。後で春香達には……色々言って置くわ」
「へっ!?まさか説教されるの!?」
「それかスパルタで春香が勉強強制的に教えられるか…」
「嫌な事言わないでよ!」
まだギャーギャーと言い合っている春香達を引っ張り、私は部室を後にした。
一組の教室に着き、私は椅子に座って腕を組んだ。そして正座をしている三人を睨みつける。
「で?どうしてあんな事をしたのかしら?」
「えーと…ですね」
三人を代表するように、まず冠凪さんが口を開いた。少し冷や汗をかいている。
「本井さんと部長って…怪しいんですよ」
「……どういう…?」
「だから!桜ってば事ある事にお兄ちゃんと会ってるでしょ?」
「なっ…雪さんに聞いたの!?」
取り乱してしまった私を見て、今まで黙っていた冬音ちゃんがニヤニヤとし出した。私は顔を引きつらせながら冬音ちゃんを見る。
「何よ!」
「桜さん……やっぱりなんでもなーい」
そう言いながらまだニヤニヤと笑っていた。冠凪さんと春香は冬音ちゃんが思っている事まで辿り着けてないのか首を傾げていた。
完全に弱みを握られた……。信じたくない、自分でも信じたくないけど私が雪さんを好きになりつつあるのは事実……けれど、それを選りによって冬音ちゃんに知られてしまうなんて…。
「大丈夫大丈夫!私が応援してあげるよ」
「冬音、何を応援するの?」
「友達の恋!」
包み隠さず冬音ちゃんは躊躇いもせずにそう言い切った。そこで私はもちろん冬音ちゃんを睨んだ。けれど、春香は別の人の事だと思ったらしい。
「ええー!?冠凪さん、恋してるの?」
「へ?私はしてませんよ?」
「じゃあ誰が……」
ここで春香と目が合った。それから春香は目を見開き、立ち上がって後ずさりをした。そして…
「ええぇぇぇ!?」
と叫んだ。きっと、その叫び声は静まり返った学園内に響き渡った事でしょう―――――…。