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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋心(友人・親友)編
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第四十七話 お料理教室③

目的の場所へと着いたあたしは、そのまま中へと入って行く。それから、その人の肩を叩いた。彼は驚いた様子であたしを見る。


「あれ?どうかした?」


「夏騎…ちょっと話たい事があるんだけど…ついて来て?」


あたしがそう言うと、夏騎が首を傾げながらもついて来てくれた。それから目的の場所である教室を出て廊下に出た所で、一旦立ち止まる。


「冬音が料理下手なの…知ってるよね?あの禍々しいもの……」


「ん?……ああ、あれか…」


思い出したようで夏騎が軽く二・三回頷いた。ちょっと言いづらいのであたしは辺りを見回したりソワソワとする。


「えーと……実は冬音が料理下手な事に悩んでてね?」


「そういえば秋がそんな事言ってたけど…それだったんだ?」


「もう聞いてんの!?うん、まあ早い話がそれで落ち込んじゃったんだよね」


苦笑いを浮かべてあたしがそう言うと夏騎は、また首を傾げ始めた。


「けど、それでなんで僕?」


「冬音ね?作ったカップケーキを夏騎にあげたかったんだって?きっといつものお菓子のお返しに…って思ったんだろうけど…」


「出来たのが禍々しい物?」


「う…うん…前よりはカップケーキって分かるようには、なってたけど…」


今、もう一度思い出してみると…やっぱり原型は一応()留めているものの…本質的な物は全く変わっていなかった。


「だから…慰めてあげてほしいな…」


「…構わないよ」


「本当に!?」


「うん」


あたしは早速軽い足取りで家庭科室へと夏騎を連れて向かった。家庭科室に着いたとき、冬音はまだ隅で膝を抱えていた。


それを見て桜が困ったように何度も溜息を吐いて頭を抱え、冠凪さんは元気を取り戻させようと頑張って話しかけていた。


「あら?夏騎君?連れて来たの?」


「うん、今の冬音には夏騎かと…」


「ナイス!」


桜が目を輝かせながら親指を突き立てる。それから冬音に近づいて行った。冬音はそれに気づいていたけれど、敢えて振り向かないといった様子だった。


「ほら、わざわざ春香が夏騎君を連れて来てくれたわよ?」


「!!」


それを聞いて冬音が明らかに驚いていた。そして恐る恐ると此方に振り返る。


「うわっ!本当だ!」


「私が嘘を吐く訳ないじゃない!!」


怒鳴る桜をスルーして、冬音は真っ先に夏騎の元へと駆け寄る。それからマジマジと夏騎君を頭からつま先まで見た。


「……本物?」


「偽物連れて来るほうが難しいでしょ!?あたしがせっかく見つけて来たのになー?」


「ごめんごめん。思わず疑ってしまうほど信じられなかったから」


「そこまで!?」


冠凪さんは、そんなあたし達を見て呆然としている。桜は呆れたように溜息を吐いて顔を逸らした。冬音は、頬を掻きながら俯き言った。


「いやー…でもなんだか申し訳ないよ。もう落ち込みから回復したし」


「夏騎君が来た意味ないじゃない。春香が連れて来る前に回復しなさいよ」


後ろから容赦なく桜が冬音を攻め立てる。すると、夏騎が桜と冬音の間に割って入り、桜に何かを聞いていた。


生憎、あたしの耳元で冬音が桜さんがいじめる!やら、桜さんがひどいよー!と喚いていたので聞こえなかった。


すると、夏騎が桜からエプロンを受け取りつけ始めたではありませんか!!あたしは焦りながら桜の所へと歩いて行く。


「えっ?ちょっ…冬音がうるさくてどうしてこうなったのか分からないんだけど…」


「そんな…春香まで私をいじめて……」


「冬音、黙ってて、お願いだから」


冬音を黙らせて、あたしはもう一度桜に視線を向けた。桜は溜息を吐いてから何やら作り始めた夏騎を見る。


「松永さんが作れないなら僕が作るよ、って言うからエプロン貸したのよ」


「ええっ!?夏騎って料理出来るの!?」


桜から夏騎に視線を移し、あたしは出来るだけ小さめに叫んだ。夏騎は手を止めずに顔を少しだけこちらに向けてこう言った。


「僕も出来るけど秋の方が上手いよ」


「意外!あいつが料理上手いとか意外!アッハッハッハッ」


「ちょっと、冬音笑い…すぎだよ…確かに意外だけど…クッ」


「そう言ってる春香も笑い堪えてるじゃない」


呆れ気味に桜が言ったけれど今のあたしは笑いを堪えるのに必死なので、しかも事実なので何も言い返せなかった。


「ハハ、ん?うわー…なんかいい匂いしてきた」


さっきまで笑っていた冬音は美味しそうな匂いで笑いが止まっていた。あたしはその匂いの元へと行ってみる。そこには美味しそうなチャーハンが…って、作るの早いな。


「食べていい?食べていいよね!」


夏騎の返答を待たずに冬音は早速チャーハンに取り掛かった。


「ごちそうさまでした!でもどうして料理出来るの?」


食べ終わって早々に冬音が夏騎に質問をした。確かに、それはあたしも気になる…ここにいる女子全員がそのようで夏騎に視線が集まる。


「松永さんみたいな人が家にいるからね」


苦笑いを浮かべてエプロンを外しながら夏騎は言った。外したエプロンを桜に返して、夏騎は用があったんだ、と思い出したように言って家庭科室を出て行った。


「風のように去って行きましたね……」


「そうね…」


冠凪さんと桜は夏騎が去って行った方を呆然と眺め、冬音は満足そうにテーブルにうつ伏せになり寝始めた…って!


「ダメダメ!冬音、寝ちゃダメだよ!」


それから冬音を起こすのに30分かかり、あたしまで先生に怒られてしまった。冠凪さんと桜は


「後は任せたわ」


「すみません…」


と言ってあたし達を置いて行ってしまった。そんな事を思い出しながら、あたしはまた溜息を吐いたのだった―――――…。




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