第四十一話 いつもと同じ
昨日、あたしと秋がようやく両想いになった。今日は屋上前の階段で昼食を食べている。そしてあたしと秋の前には夏騎と冬音がいた。
どうせなら沢山の方が美味しいよ!と冬音が言ったのがキッカケでこの四人で昼食を食べる事になった。桜と冠凪さんは気を使ってか、別の所で食べていた。俯いて元気のない夏騎を冬音は頑張って励ます。
「えーと…しっ仕方ないよ!人の気持ちには戸が立てられないって言うし!」
「それを言うなら人の口には戸が立てられない…」
「うっ…うーんと…ドンマイ!」
「ありがとう…」
なんで…冬音の口からは“ドンマイ”しか出てこなかったのだろうか。もっと気の利いた言葉があるでしょう!思いつかないけど!
今の夏騎のテンションどうすればいいの?どうしたら上げられるの!冬音が励ましてくれてるだけありがたい。私じゃどうしようもないよ。そっと溜息を吐いてみる。
「あんまり落ち込まない方がいいよ、悩んでもどうにもならない」
「ありがとう」
「あー!もうっ!」
冬音は切れ気味に言って立ち上がった。何故切れ気味なのか分からないあたし達は呆然として冬音を見上げた。
「さあ、告白するんだー!!」
「ええっ!!」
あたしに指を差しながら叫ぶ冬音を見て夏騎は驚いた顔をした。当たり前の反応なんだけど、気にせず冬音は続ける。
「夏騎君がしないなら私がする!」
「ええっ!?」
驚いている秋や夏騎、そしてあたしに構わず冬音は爆弾発言をした。突然の事にこの場にいる冬音を除いた全員、言葉が出て来ない。
「っと、冗談はここまでにして告白するんだー!」
「冬音、それ言ってる時点であたしも薄々勘付いたよ…」
「薄々かー、春香はやっぱり鈍いね」
「そんな事ないよ!」
「「「そんな事あるよ」」」
三人のハモりにあたしは言葉を詰まらせる。なんでこんな時だけ三人の息が合うの!?特に秋と冬音の二人!
「好きです…」
「このタイミングで言うの?言え言え、言ってた私も悪いけど、このタイミングで夏騎君も言っちゃう?」
「えーと…あたしと秋は付き合ってるんだよ?昨日からだけど…」
タイミングについてツッコんでいる冬音は放っておいて、あたしは一先ず、夏騎が告白した事についての話を進めた。すると、冬音がジュースを飲みながら言った。
「とりあえず言っただけなんでしょ?私が急かしたから」
「えっ、そうなの!?」
聞くと、夏騎は無言のまま頷いた。目を合わせずらいのか顔をあたしから逸らして、廊下の方を眺めていた。
「これで夏騎君もスッキリしたんじゃない?ほら、言えなかった事が言えて!」
「代わりにあたしがモヤモヤしてるけどね…」
「鈍さの罪だよ…しばらくモヤモヤしてればいいさ」
その言葉に少し…本当に少しだけ…いや、本当はかなりイラッとしたあたしはムッとして冬音に言い返す。
「冬音も鈍いくせに!」
「私は鈍くないから、残念だったね」
「ホントにね!」
言い終わった後、タイミングを見計らったかのように桜と冠凪さんがあたし達の方へと歩いて来た。周りを見るとあたし以外全員食べ終わっていた。
残ってるの、あたしだけ?慌てて残りの物を口へ運ぶ。桜は冬音の隣に、冠凪さんがあたしの隣に座った。
そこで冬音が桜の耳元で何かひそひそと話をしていた。その話を聞くと、桜がニヤリとした笑みを浮かべる。
「ふーん…なるほどねー」
「まさか冬音……」
「もちろん、さっきの告白を桜さんに話したよ!」
当然と言うように、冬音が胸を張った。桜に知られた事であたしは青ざめる。どうして言っちゃうんだろう?桜の事だから“面白そうね、彼氏がいるのに三角関係”とか言いそう…絶対言う!
「面白そうね、彼氏がいるのに三角関係」
「言ったよ、この人」
予想通り、一言一句間違えずに桜は言った。こういう、言葉の勘だけは何故か当たるんだけど…やっぱりあたしは鈍いのか!!
「桜さん、夏騎君は私が急かしたから言ったまでなんだよ」
「つまり…何なの?」
「夏騎君は別に彼氏がいて幸せな春香と恋仲になりたい訳じゃないんだよ。ただ、春香の幸せを妨げずに自分の想いを告白したまでなんだよ」
そこまで冬音が夏騎の思いを断言していいの!?と思ったけど、夏騎の方を見たら桜に向かって頷いていた。すごい冬音、夏騎の思ってる事まで分かるなんて!凄すぎる!
「まあね!」
「まさか…また冬音。あたしの心を読んだ!?」
「全部、口に出してましたよ?」
「全部喋ってたな」
両隣で苦笑いを浮かべながら、秋と冠凪さんは言う。なんであたしは口に出しちゃうんだろう…出しちゃうんじゃなくて勝手に出ちゃうんだよね。
「私達の誰かが付き合ったとしても、あんまり変わらないんだね」
「そうね」
冬音に続いて桜も微笑みを浮かべながら呟いた。そういえば、いつもと変わらない感じだった…あたしもいつも通り思った事が口に出てたし。
あたしと他の三人も桜や冬音につられるように笑った。