第四十話 伝える想い
やっぱり、あたしはそうなのかな?と心の片隅で思う時がある。冬音に優しくしたりする彼を見て、心が締め付けられる。
「好きなら好きでいいじゃない?秋の事」
桜がいつもの調子で腕を組みながら言う。今は昼休みで屋上前の階段にいる。あたしは好きなのかな?と言う疑問について桜に聞いていたところだった。ちなみに桜とあたしの他に冠凪さんがいるけれど、今はお弁当を食べているので大人しい。
「好きなら好きって…そうなんだけど…」
「なんなのよ?別に彼が冬音ちゃんを好きかもしれなくても、かもじゃない?絶対に好きって訳ではないでしょ?」
「あれは絶対だよ…」
自信はないけれど、あれは冬音が絶対好きだよ…。あたしがふて腐れ気味に言ったのを聞いて桜が溜息を吐く。
「鈍い春香に言われても全く説得力はないわ」
「だからあたしは鋭いってば!自称だけど」
「春香の自称なんて当てにならないわよ」
「確かめようにも本当の事言ってくれなかったり…言ってくれても本当に好きだったら、それはそれで…」
「面倒くさい!もう…面倒くさい以外の何者でもないわ!」
そんな事言われても…とあたしは小声で呟く。すると、さっきまでお弁当を食べていて一言も発しなかった冠凪さんが弁当箱を仕舞いながら言った。
「告白して、ダメでも何度も告白していれば、きっと恋は叶いますよ」
「それ、どんだけあたしは地道なの!?それだったら新しい恋を探すよ!」
「頑張るだけ頑張ってみれば?」
他人事のように…他人事なんだけど…桜は無責任な事を言った。もし、告白してダメだったら…きっとあたしは結構の時間を掛けないと立ち直れないだろう。
「でも…」
「でも、じゃない!悩むのはやる事やってからにしなさい」
桜に背中を押されるようにして、実際背中を思いっきり叩かれてヒリヒリするんだけど、あたしは秋を探す旅に出るような気分で階段を下りた。
とりあえず三組の教室を覗いてみる、もしかしたら教室で昼食を取っているかも知れない。しかし、残念ながら秋どころか夏騎の姿もいなかった。
どうして探してない時にいて、探してる時にいないんだろう。こればっかりは仕様が無いので別の場所を探す事にした。
……とは言っても心当たりが全くと言っていいほど無い。どうしようかと悩んでいると冬音が肩を叩いて来た。
「どうしたの?なんか悩み?」
「あっ冬音!秋を探してるんだけど見なかった?」
「んー…残念ながら」
本当に残念…。さて、じゃあ一組も見てみるかな?もしかしたら居るかもしれないし…勘がまた外れていないかもしれないし…。どっちにしろ、見ておこう。
すると冬音まで付いて来た。そういえば今日は学食だって言ってたけど…もう食べ終わったのかな?気になったので聞いてみた。
「冬音、お昼食べ終わったの?」
「うん、暇を持て余してたところだよ」
「だから付いて来たんだ」
苦笑いを浮かべながらも、一人より二人の方が効率がいいので秋を探すのを手伝ってもらう事にした。一組を覗いてみても、居なかった。
「どこに行ったんだろうね?」
「もう食べ終わってて、図書室にいたりとか?」
「えー?眼鏡かけてて如何にも頭よさそうな優等生って感じだからって図書室にいる訳ないじゃん?きっと運動してるよ!」
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「なんで?」
図書室に秋がいたのを見て、冬音が信じられないという表情で言った。誰が何しようと勝手なんじゃないかな?と思ったけれど、敢えて言葉には出さなかった。
「人を見かけて判断しちゃいけないよ?」
「それもそうだね、見かけは美人でも中身は怖い人かもしれないもんね」
「それ、桜の事言ってる?聞かれたら絶対恐ろしい事になるから」
「春香も私に負けず劣らずの事言ってるよ」
まあ、とにかく桜の事については置いといて、今は本題の告白について、どうするか考えよう。図書室は静か過ぎて絶対に人に聞かれるよ…。
「ところで春香は何故に眼鏡を探してたの?」
「もしかして眼鏡って秋の事!?他の人が聞いたら掛ける方の眼鏡探してると思われるでしょ!」
「告白?」
「っ……」
なんで冬音、こんなに鋭いの!桜に聞いたとか?でも冬音に会ったのと桜達と別れたのと、そんなに時間開いてなかったと思うけど…。
「体育館裏に呼び出したりとかするの?」
「しないよ!でも何処で告白とかは考えてなかった」
「ふーん…屋上前の階段は?放課後は人、あんまり来ないよ」
「そうなの?じゃあそこで…」
そんな感じで告白場所を決めて、放課後になったのですが…。告白前に相手を呼び出さないといけない事に気がついた。
「ど、ど、ど、どうやって?」
「落ち着きなさいよ!手紙とかでいいじゃない?」
「ああ、【話がある。放課後、屋上前の階段に来い】的な?」
「果たし状!?来いって果たし状じゃない!【話があるので放課後、屋上前の階段に来てください】的な感じよ!」
「なるほど!」
早速、冠凪さんから便箋を貰って桜が言った事をそのまま書いてみた。なんか緊張してガタガタになってしまったけれど、消しゴムかけたら便箋が破けそうだったので書き直せなかった。
秋の隙を窺って机の中に二つに折った便箋を入れて、見つからないよう慎重に三組の教室を出て屋上前の階段の所で待っていた。
「なんか待ってる時間がドキドキするね!」
「告白する春香じゃなくてなんで冬音ちゃんがドキドキしてるのよ?」
「だってこのハラハラ感が!」
「分からないでもないけど…私達には見守る事しか出来ないわよ?」
「そうですね…」
あの三人はバレて無いとでも思ってるのだろうか?ヒソヒソ話さないので会話がこっちに筒抜けだ。陰から見守ってるつもりだろうけどチラチラと顔が見えている。
冬音に関しては隠す気すらないのか隠れないで、廊下に座ってこっちを見ている。秋が来たら丁度、最初に冬音に目が付くような場所にいる。つまり廊下のど真ん中。
もうちょっと隠れるとかしようよ…あたしは内心、冬音に溜息を吐いた。すると、秋が来たようで冬音があたしから見て右を見た。冬音から見れば左から。
「……なんで廊下のど真ん中にいるんだ?」
首を傾げている冬音を見て、あたしは思わず苦笑いを浮かべた。やっぱりツッコむ所はそこだよね…。それに対して冬音が返す。
「お構いなく!」
なんで今その言葉を選んだんだろう?秋は冬音を困ったように見てから、こちらに来た。緊張して体を硬くする。
「秋…好きです!付き合ってください」
「え…」
突然の言葉に秋は目を見開いて驚いている。あたしは右手を前に出した状態のまま、恥ずかしいけれど、もう一度言った。
「す…好き…です…」
「………」
「なんか反応してあげなさいよ!」
痺れを切らして桜が会話に入ってきた。それでも、桜の言葉が耳に届かなかったのか秋はただ、呆然とあたしを見ていた。なんだか、あんまり見られると恥ずかしいんだけど…。
「俺も…」
「え?今…へ?え?」
「二度も言わせるのか?」
「春香さんだって二度言ったんですよ?もう一度くらい言ってあげたらどうですか?」
冠凪さんも桜と同じで会話に入って来た。黙ってられなかったんだね…。冠凪さんに言われても、変なプライドがあるのか、もう一度言おうとはしなかった。聞こえたからいいんだけど…。
「でも、秋は冬音が好きなんじゃないの?」
「なんで私がこいつに好かれなきゃならないの!」
「ちょっと黙ってようか?冬音も含めたそこの三人」
桜と冠凪さんは見つかっているのにまた隠れて、冬音は膝を抱えて座った。さっきから会話に入って来る三人を黙らせてから、あたしはずっと気になっていた事の答えを秋に聞く。
「冬音に夏騎が優しくしたら不機嫌になったりしてたし…」
「あれは、なんか負けた気がしたんだよ。俺でも松永の機嫌くらい直せる」
「あたしはただの負けず嫌いに振り回されたの?」
脱力してあたしはヘナヘナとその場に座り込む。すると、真っ先に冠凪さんがあたしの所へと向かって来た。
「良かったですね!一生、秋君に付きまとう人生を送らないで済んで!」
「冠凪さん、言い方…」
「良かったわね、春香」
冠凪さんの次に桜が微笑みを浮かべてこちらへと来た。冬音も最後に立ち上がってあたしの方へと来ていた。
「あのさ…一応なんだけど、さっき隠れられてなかったよ。こっちから丸見えだった」
「なんですって!?」
「嘘ですよね!?」
「ホントに!?」
「桜と冠凪さんはともかく冬音はなんで驚いてるの?あんな廊下のど真ん中に堂々と座っておいて」
冬音は“冗談だよ”と笑って言った。それで冗談になってるのかな…。とにかく…と桜は言ってあたしの肩に手を置く。
「両想いになれて良かったじゃない」
改めて言われると少し照れる。横にいる秋をチラッと見てみると、あたしと同じで照れているようだった。顔が少し赤い。あたしの顔もそれくらい赤いのだろうか?
その日は、いつもより何倍も嬉しい日になった。
そんなあたしの片隅で…
「桜さんも頑張れ(笑)」
「冬音ちゃんに言われるとムカツクわ」
そんな会話があったのをあたしが知るよしもない。聞いたとしても…何の事?ってなる。
とにかく、その日は人生で一番幸せな日だった。