表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限問題  作者: 城宮 美玲
恋心編
42/88

第三十八話 紫の蝶 桜side

放課後、私はたぶん居るであろう部室へと足を運んだ。今日、用があるのは冠凪さんではなく春香の兄・雪さん。呼び捨てでも良いか聞いたけれど、いざとなったらしっくり来なくて「さん」付けか春香のお兄さんと呼んでしまう。


部室の前に着いたのでドアを軽くノックしてドアを開けた。すると、誰も居なかった。冠凪さんといい雪さんといい…どうして二人共いつもいないのかしら?


ちょっと腹が立ちながらも近くの椅子に座って待つ事にした。それから二十分くらい待って…やっと雪さんが来た。手にコーヒーの缶を持っていたので買いに行ってたらしい。


雪さんは私に気づくとコーヒーを持っていない方の手を振った。最初、コーヒーを持っている方の手を振ろうとしたので少しヒヤッとした。


「いつ来たの?」


初めて…と言っても前に面識があったけれど…ちゃんと初めて会った日と、同じように雪さんは私の向かいの椅子へと座った。


「二十分くらい前…です。コーヒー選ぶだけなのに何でそんなに時間…かかったんですか?」


「なんで今日、敬語?」


「一応年上ですし…と言うか、最初に聞いたの私なんだけど!」


「ハハッ、敬語じゃない方がいいよ」


彼の笑顔は変わっていなかった。こんな短期間に変わらないと思うけれど…もしかしたら変わるかもしれない…。あっそうだ、質問したのに答えてもらってないじゃない。


「それで?なんで時間かかったのよ?」


「コーヒー、どれにしようか迷っちゃって。最近は種類が多いから迷うんだよ」


「優柔不断なのね…、恋でも優柔不断だったら好きな人が奪われちゃうわよ?」


「いないよ、好きな人なんて。大切な人ならいるけど」


大切な人……?その言葉を聞いて胸がチクリと痛んだ。大切な人って誰なの?聞きたい…聞きたいけど……。もし…私の知らない女の人だったら?…って私は何を考えてるのよ!別に雪さんが誰を大切だろうが関係ないでしょ?関係…ないじゃない…。


「どうかした?」


俯いた私を見て、顔を覗き込むように彼は聞いてきた。優しい…彼は優しい。こんな人に大切にされる人は絶対幸せ者よ…。聞く気はなかった…けれど口は思いに従って言葉を出していた。


「大切な人って?」


「え?ああ、春香だよ」


「春香?本当に?」


「嘘を吐く理由がどこに?」


「それもそうね」


私は冷静を装って頷いた。けれど内心、大切な人が春香でよかったとホッとしていた。好きな人はいないって言ってたし…。……なんで私、ホッとしてんの!?


「そういえば、なんで部室に?誰かに用?」


「あっそうだわ。用があったのよ、頼んだブローチまだ?さすがに遅すぎると思うんだけど…春香のブローチは結構早かったのに…」


「それが…最近、妙に春香が僕を見るんだよ。視線が気になって集中出来なくて……」


あのバカ春香、あんたのせいで私のブローチが遅れてるじゃない!まあ、それだけブローチを作るお兄さんが意外だったんでしょうね。


「どこまで出来てるの?」


「完成したよ、なんとか頑張って…。明日か運よく会えたら今日渡そうかと思って」


「そう…、じゃあ私は運がよかったのね」


「そうだね」


そう言って雪さんは立ち上がり、小さめの棚の引き出しからブローチを出して、また椅子に座った。私は身を乗り出して、そのブローチを見つめる。


「持って見てもいいよ」


「え?そう?それなら…」


私はブローチを受け取ってジッと見つめた。ガラスを使ってるのかキラキラと透明感のある紫色をしていた。一言で言えば……


「綺麗……」


「気に入ってもらえた?」


「ええ、ありがとう!」


ブローチを大事に、壊れないように握る。でも、持ってるだけではなんだか、もったいない気がしたのでワイシャツに付けてみた。


「これ、取れやすいかしら?」


「大丈夫だと思うよ、あまり強い衝撃を受けたり無理矢理取ったりしなければ」


「それなら安心して付けてられるわね」


明日…学校に付けて行ったら春香や冬音に何か言われるだろうか?言われても、別にどうもしないけれど…少しだけ照れくさい。


「今度…」


「ん?」


「今度…何かお礼してもいいかしら?」


「お礼にお礼で?」


「別に構わないでしょ?」


ブローチお礼がしたかったのもあるけれど、また会う口実が欲しかった。これでもう会えないなんて…少し寂しかった。嫌がられる?困った顔を…するだろうか?


「どんなお礼をしてくれる?」


「あっ…何がいい?」


良かった…嫌がられたりも困った顔をされなかった…。不思議と顔が緩んで笑顔になる。この人といると、安心する…不思議と笑顔になれる。


「お勧めの缶コーヒー、教えてもらえる?」


「…そんな事でいいの?」


「毎回、何十分も迷う僕としては助かる事なんだけど…」


テーブルの上に乗っている、まだ開けていない缶コーヒーを見つめてから、彼はダメかな?と言うような視線を私に向けた。


「教える!ついでに、そのコーヒーに合うクッキーも作ってくる」


「本井さん、クッキー作れるんだ?楽しみにしてるよ」


「ええ!じゃあ、もう帰るわね」


「うん、また明日」


「…また明日」


手を振る彼に私は手を振り返してから部室を出た。廊下を少し進んで、胸に手を当てる。その時、ブローチに手が触れた。


私の頭の中で彼の言った“楽しみにしてるよ”その言葉が響いていた。綺麗な紫色の蝶を少しの間、見つめてから私は張り切ってクッキーの材料を買いに行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ