第四話 勉強会と部屋と教科書と…(前編)
只今、放課後。冬音は、体力切れで机に伏せている。
え?勉強会は、第二話の日にやったんじゃないかって?
あの日は、冬音の都合が悪くて無しになったのです。
まあ、第二話とか言ってる時点で、あたしは変なんだと思うけどさ?
「行くんだっけ?今日、季野君達の家に」
「うん…だってもうすぐテスト近いし…」
「この世からテストなんて無くなればいいのに…」
冬音は、なんだかアンニュイみたいです。そんな冬音を私は、宥める。
「まあまあ…。秋達、まだ教室にいるかな?」
「見て来れば?私は、もう動きたくない…」
「じゃあ見てくる。ちゃんと動けるように休んでてね?」
「はいはい」
顔を伏せて、冬音は手だけをあたしに振った。あれ?この場合、冬音の様になるのは、あたしなのでは…?
そんな事を考えながらあたしは、教室を出て秋達の教室を見る。
「えーと…あっ秋!」
「ん?春香か、どうした?」
「今日、勉強会なんでしょ?まさか忘れてたんじゃ…」
「忘れてたらこんな事しない」
そう言って手錠を付けられた夏騎を前に出した。
「ぱっと見したら、なんか問題起こした人だよ!可哀想だから止めてあげて!」
「…春香が言うなら…」
秋は、渋々承知してくれた。
解放されて夏騎は、一息ついている。
「ありがとう」
と言って夏騎は、あたしの手を握った。
「あっいえ…」
って…あたしは、なんでこれだけで赤くなってるんだ!純情な乙女か!いや、そうだけど…。
でも、秋以外にこうなるのは…。
そんな事を考えている間も夏騎は、ずっと手を握っている。
「季野くん…」
フラフラと覚束ない足取りで、冬音がやって来る。
「どうしたんだ?いつもの覇気がないな」
「うっせーよ、お前に用はない」
「不機嫌なので少しの口の悪さは、許してあげて……」
今にも喧嘩が始まりそうなので、そうなる前にあたしは秋に言った。
「秋じゃなくて夏騎に何か用なの?」
「お菓子を恵んでください」
「今日は持って来なかったの?」
冬音は、あたしを見て溜め息を吐いた。
「持ってきてたら頼まないでしょ?」
「そりゃそうだ」
あたしが頷くと、隣で秋がズボンのポケットを探っていた。
そしてポケットから飴を取り出すと、冬音の前に出す。
「夏騎は今日、何も持ってないんだ」
「チッ」
冬音は、あからさまな舌打ちをすると秋から飴を奪い取った。
本当に秋の事、嫌いなんだな…。でもちゃんと飴は、食べるんだよね…。
「ところで…そろそろ学校出ないと勉強会の時間なくなるんじゃないのか?」
「それはそれで良い!」
「お前だけやれや」
「じゃあ僕逃げるから」
「おいっ真ん中の奴!」
あたし達は、秋によって強制連行されました。冬音に至っては、飴を没収されて尚更不機嫌。
季野家の家は、一言で言うと…とにかくデカイ。広い庭まであり、執事にメイドまで……。
「お金持ち…?」
「部屋どこ?」
冬音は、家そのものより二人の部屋が気になるらしい。あたしもどっちかって言うと部屋の方が気になる。
「俺と夏騎の部屋、二つあるんだがどっちにする?」
「お前の部屋、本とか参考書がごっそり置いてありそうだな…。正直言ってやる気が失せる」
「松永は、いつもやる気がないだろ…」
「じゃあ消去法で夏騎の部屋?」
そう言ってあたしは、夏騎を見た。続いて秋と冬音も夏騎を見る。
「別にいいよ」
夏騎は、部屋まであたし達を連れて行くとドアを開けた。大きな窓とベッドと机にテーブルと本棚と言うシンプルな物しか置いてない部屋だった。
「意外ー!もっとゴチャゴチャしてると思ってたのに…」
「春香に僕は、どう見えてるんだろうね?」
部屋を眺めていると、なんだかよく分からない箱が置いてあった。
「この箱は?」
「ああ、それは……」
夏騎が答える前に冬音が勢い良く箱の元へと走り、開けた。
「たっ宝箱…」
「宝箱!?」
何か如何わしい物でも入っていたり…?そんな期待と不安を抱きながらあたしも箱を覗いて見た。
しかし想像していた物と全く違う物がその箱には入っていた。
「大量の………雨?あっ間違えた。大量の飴?」
「これは?」
冬音とあたしは、夏騎に視線を移す。まさか夏騎って甘党なの?
「松永さんが飴をよく食べてるから予備にいつも僕が持ってるんだよ。今日は忘れてしまったけど」
「神様」
「冬音は、飴持ってれば誰でも天使か神様だよね?」
秋は、椅子に座り教科書とノートを開き始めた。
「そろそろ勉強会を始めないか?」
「そうだね!冬音、教科書とノートは?」
あたし達、三人も椅子に座り教科書とノートを開く。
あたし 秋
テーブル
夏騎 冬音
と言う感じで座っているので、あたしはドキドキしっぱなしだし秋と冬音は睨みあってるし、夏騎は一人で問題解き始めちゃうしで散々なのです。
「ここどうやって解くの?」
秋は、冬音を睨むのを一旦中止してあたしの教科書を覗き込む。あまりの至近距離に自分の心臓の音が聞こえてしまうのではと心配した。
それにしてもまつげ長い…サラサラの黒髪にキリっとした目元…。思わず眺めてしまう。
「ここはだな…ん?俺の顔に何かついてるか?」
「ううん!続けて?」
「…ああ…」
教科書に視線を戻して、また秋は話し始めた。あんまり見過ぎると不自然だよね…。
あたしは視線をなんとなく夏騎に移した。夏騎と目が合い、あたしは何故か顔を逸らした。
なんで顔を逸らすの?あたしは秋が好き……でも夏騎にドキドキしてる……。秋が好きだから顔の同じ夏騎にドキドキしてるの?それとも、夏騎が好きでドキドキして、顔の同じ秋にドキドキしてるの?
あたしが好きなのは……どっち?
後編へ続く!