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無限問題  作者: 城宮 美玲
恋心編
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第三十三話 君の香り③

冠凪さんを除いたあたし達、女子は全員終わったので後は男子だけとなった。兄はいつの間にか帰っていてメモが残されていた。


【今日、ご飯当番だったの忘れてた。悪いが帰る。 兄】


家ではご飯を作るのが当番制で親孝行の為にと兄が考えたものだった。その本人が当番を忘れちゃってるというのは…ちょっと苦笑する。でも忘れちゃうよね、人間だもの。


あたしはメモを丁寧に折りたたみ、ゴミ箱へ投げ入れた。それにしても…、あたしは周りの皆を見てみるけれど、一人として兄がいなくなった事に気づいていなかった。どれだけ存在感がないんだ、あたしの兄は…。


「後は…男子だけね」


ニヤリと笑い、桜は男子の方を見る。それにつられて冠凪さんや冬音も男子の方を見た。秋と夏騎は顔を見合わせている。そんな二人を桜は問い質す。


「もしかして、二人だけ付けない…なんて事は無いわよね?」


「うっ…」


それを聞いて秋は言葉を詰まらせた。付けたくないと思ってたんだ…、しかし拒んでいる秋と違って夏騎は香水に手を伸ばす。どうやら夏騎だけは香水を付けるようで、それを見た桜は貴方は付けないの?と言う視線を秋に向けた。


「つ…付ければいいんだろ?付ければ…」


観念したように渋々、香水へと手を伸ばした。そういえば、何で香水が二つあるんだろう?そっくりそのまま冠凪さんに聞く。


「一つは女性用、もう一つは男性用に…と作ってみたんですけど、部員で先に試してみたらどっちでも同じだったんですよね」


「つまり、二つあるけど特に意味はないんでしょ?」


「はい、本井さんの言う通りです」


なんだ、意味はないのか…とあたしが思った事と同じ事を左隣で冬音が口に出して言った。すると、夏騎が香水を付けたのか香りがした。


「ラベンダーみたいな香りだ!私、ラベンダー好きなんだー」


そう言って冬音は夏騎に近づいて行く。夏騎も付けたんだし、秋にも付けてもらわないといけなくなったな…。桜がまた貴方は付けないの?って言いそうだし…そう思い、秋に言ってみる。


「秋も付けてみれば?ってもう付け始めてる…」


しかも、なんかイライラしてるんだけど…何で?もしかして、本当に付けるのが嫌とか?でもイライラしながらも付けてるし…香水が原因じゃない?あたしは首を傾げた。


「あ…シトラスの香り」


「意外にも柑橘系、本当に意外」


冬音が笑みを浮かべて、今度は秋の所へと歩いて来た…と言っても数歩歩いただけなんだけど。秋は立ち上がって冬音を睨む。


「意外は余計だ!二回も言うな」


「それはそれはごめんなさいね」


皮肉っぽく言って冬音は口元を左手で覆う。なんだか今日の冬音は秋に勝っている!いつもは負けてるのに!これは今日一番の驚き。


「これで勝ったと思うなよ」


「今日くらい勝ったっていいじゃん!」


「どうせ一日だけの勝利だ」


「うっ……」


苦虫を噛み潰したような顔をして冬音は黙ってしまった。確かに、今日勝ったとしても明日も勝つとは限らないよね…冬音だし。それを桜は口に出していった。なんだか冬音といい桜といい、あたしと同じ事、思ってるんだ…。ちょっと嬉しかったりする。


「どうせ一日だけの勝利なのよね」


「聞いたよ!もう聞いた言葉だよ」


「何度言ったって結果は変わらないのよ?冬音ちゃんは明日からいつものように負けるわ」


「うう…」


桜の言葉の方がきつかったのか、冬音はあたしの隣に来てベッタリと離れなくなってしまった。冠凪さんは香水を小さな箱に入れると丁寧にお辞儀をした。


「試していただいてありがとうございました」


「害のない物ならいつでも試してあげるわよ…いい?害のない物だけよ?」


「二回も言わないでください、冬音さんじゃないんですから理解できます」


冬音はとうとうあたしの腕を掴み始めた。これがまた、力が強くて腕が折れるんじゃないかと言うくらい痛い……。


「冠凪さーん!冬音だって一度で理解出来るんだよ!そこまでバカじゃないよ、成績だっていいんだから」


「春香…いい……」


力なく首を横に振るとこの上ないほど暗い表情で俯いてしまった。どうするの、これ?もうあたしの手に負えないんだけど…。すると夏騎は冬音の近くまで来る。


「帰りにクレープ奢るよ」


「本当に!?」


「うん」


「わーい!」


子供のようにはしゃぐと冬音は夏騎に付いて行った。たぶん鞄を持って来てくれるんだろうな、みんなの分も。やっぱり優しいなーと思っていると今度は秋が何故か暗い顔…。


「まあまあ、何があったのか知らないけど。あたしが何か奢ってあげるよ」


「それなら春香の好きな物を奢ってくれ」


「うーん…じゃあクレープ」


「あっ私も食べたいです!クレープ」


会話を聞いていたのか冠凪さんが挙手して言った。すると桜までクレープ食べたいと言い出した。仕方なく、皆でクレープを買い、あたしと夏騎で払ったのだった。ああ…もうこれ今月は金欠だな…それを考えてあたしは溜息を吐いてしまったのだった。


でも…秋が元気になったので良しとしよう。あたしはクレープを食べている秋の横顔をそっと見たのだった。



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